【マーケットの既得権者が全体最適妨害|元祖ラッダイト→ネオ・ラッダイト】

1 部分最適による全体不最適|元祖ラッダイト運動|概要

マーケットメカニズムには、社会経済全体が『最適化』する機能があります。
しかし『全体の最適化』は局所的には『不利益』を生じます。
歴史上の具体例として『ラッダイト運動』を紹介します。

ラッダイト運動(Luddite movement)

あ 発生時代・場所

1811年〜1817年頃
グレートブリテン(現在のUK;※1)中・北部の織物工業地帯

い 運動の内容

当時、織物工業に『機械』が大規模に導入された
その結果、従前の労働者が解雇→職を失った
労働者は『機械さえなければ雇用してもらえる』と発想
労働者は、力を合わせて『織物機械』を破壊した
この破壊行為が連鎖し、大規模化した

う 終息

グレートブリテンでは、機械破壊を『死刑』とする法案が提出された
この制定のプロセスで、議会では大議論が展開された
『破壊を適法とする』主張が強かったのである
最終的に『死刑』を規定する法律は成立した

補足;『グレートブリテン』(上記※1)

現在の『英国』のエリアである。
当時は『グレートブリテン及びアイルランド連合王国』であった。
1801年にグレートブリテン王国とアイルランド王国が合同して成立した王国である。

2 部分最適による全体不最適|元祖ラッダイト運動|内容説明

ラッダイト運動の内容について説明を続けます。
工場経営者は、機械を大規模に導入しました。
『機械化』により、大量生産が可能となりました。
これにより、大幅なコスト削減・製品の個体差がなくなり、クオリティが上がりました。
消費者としては、良い商品を安く買えることになったのです。
まさにマーケットメカニズムによる『社会全体の最適化』です。
この『全体の最適化』は『工場の労働者』にとっては、職を失う、という『大きな不利益』でした。
これが『全体最適&部分不利益』です。
経済活動の形態・構造が大きく代わる時には、社会の大きな利益と引き換えに『出血』を伴う、とも言えます。
社会全体にとっては有益な『新陳代謝』なのです。
労働者は『出血』を阻止するために機械を打ち壊したのです。
その結果『低価格・高クオリティの商品販売』『新陳代謝』も阻止されてしまいました。
これは『全体不最適&部分最適』です。

現在の先進国では、刑法などの法整備と警察による運用がしっかりしています。
『機械を物理的に大規模に破壊する』ということが起きることは(現時点では)想定しにくいです。
しかし、現代社会でも『合法的ラッダイト運動』は発現しています。

3 ラッダイトの精神は現在でも健在;ネオ・ラッダイト

現代社会の『合法的な』ラッダイト運動は次のように整理できます。

ネオ・ラッダイト

あ ネオ・ラッダイトの内容

ITその他の最新テクノロジーの進化によって雇用機会を奪われる事業者・労働者
→テクノロジーの開発・利用を阻止する
※勝者の代償―ニューエコノミーの深淵と未来 ロバート・ライシュ 東洋経済新報社

い 『破壊』に代わる『阻止』の手段

ア 国会を利用する方法法律(後述)
イ 行政を利用する方法規則・通達・告示・ガイドライン
ウ 『業界』自身による方法関係取引先・取引業界との協定・圧力などの『妨害』

う 『立法』をコントロールする方法|適法

ロビー活動・政治活動
《影響を及ぼす適法な要素》
ア 票田イ 政治献金(一定の範囲)ウ 天下り先確保

え 『立法』をコントロールする方法|違法

ア 政治献金規制法違反イ 収賄罪・贈賄罪

適法な範囲でも、結構大きな利益・財産を事業者から政治関係者に移転可能です。
それを超える=犯罪のリスクをテイクするケースもよくあります。
非常に大きなリスクをテイクしてでも財産を渡すモチベーションがあるのです。
事業者と政治家の利益はユーザーの犠牲をイコールです。

4 ネオラッダイトの分析|『合法・社会としての選択』『全体最適ではない』

このような『ネオ・ラッダイト』はあくまでも『合法』です。
例えば、立法内容自体が『合っている・間違っている』というわけではありません。

ネオ・ラッダイトの評価・言い方

『判断が間違っている』 ☓
『間違っている状態』 ☓
『社会としての判断結果』 ◯
『全体最適ではない』 ◯
『全体最適に調整する(完了)までに時間を要する』 ◯

5 ネオラッダイトの分析|『間違っている』という言い方は間違っている

立法による制度が『間違っている』と言えるのは『違憲』の場合だけです。
この『違憲』ですが、生じる傾向が強いです。

機械の打ち壊しに近い横暴的解釈に注意

あ 類推解釈の強い欲望by既得権益

新テクノロジーは既存の法律の対象外ということが多い
既得権益が『類推解釈』で罰するという横暴に出る傾向が強い

い 少数を守る憲法;類推解釈禁止の原則

刑事罰の対象=犯罪、についての解釈では『類推解釈』は違憲となる
※憲法31条
※最判昭和30年3月1日

6 既得権者+依存する官庁保護のための競争制限現象|経済学・判例

ネオ・ラッダイトという用語は使わなくても、同様の指摘は経済的な研究では当然のこととなっています。

既得権者+官庁保護現象|経済学

市場への介入・規制は社会的弱者や消費者の保護といった理由を掲げて行われる。
しかしそれらは、競争制限による特定の生産者や業界の保護、それに依存する官庁の保護に帰結する場合が多い
※野口旭『経済学を知らないエコノミストたち』日本評論社p98

既得権者+官庁保護現象|判例

道路運送法のタクシー業の許可制について
『既得権者の利益擁護的傾向、利用者の利便無視的傾向、汚職関係等の生ずる余地を持つ』
※神戸地裁昭和42年11月29日

業法・法規制が『既得権者保護』として機能する現象については別記事で説明しています。
(別記事『業法・法規制』;リンクは末尾に表示)

7 ネオラッダイトの一例|登記システムのイノベーションvs阻止する司法書士

ネオ・ラッダイトの例は社会の中に無数にあります。
『経済活動の自由の制約をする法律があったらネオ・ラッダイトと思え』という格言があります。
敢えてここでは、法律系マーケットで将来想定されるものを指摘しておきます。

ネオ・ラッダイトの発生候補

あ 阻止ターゲット

『登記システムをブロックチェーン技術がリプレイス』の阻止

い 主役

司法書士業界
法務局のサーバ・システム受注(納入)業者

『信書』の基準|参入規制=許可制|ユニバーサルサービス・黒猫問題

8 ネオラッダイトあれこれ

ネオラッダイトと言えそうな対立構造はいろいろと見いだせます。

ネオ・ラッダイトあれこれ

9 ネオ・ラッダイトを打ち破る5つのルート

ネオ・ラッダイトを打ち破る手法は5つに分けられます。
これについては別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|ネオ・ラッダイト討伐|3権・テクノロジー・グレーゾーン=ベンチャーの聖域

本記事は一般的な説明です。個別の事案にそのまま当てはまるとは限らず、一見似ている事案でも、事情が異なれば結論は異なります。個別的事情により、法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。本記事でご説明したものと同様の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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