1 債権回収|スピードの重要性|回収率が大きく異なる
2 消滅時効への対抗策|時効完成となっても『援用』に勝てば消滅しない
3 交渉|相手にとって,当方の『優先度』を上げさせる
4 交渉|相手の立場の配慮→現実的な支払方法・条件の提案|バランスが重要
5 交渉|取引を継続する場合→支払いサイト・担保の設定でリスクヘッジする
6 交渉|『プレッシャー』が強すぎると『脅迫』『恐喝』という反撃あり
7 裁判のやり方が悪いと逆に『損害賠償責任』を負う
8 弁護士に依頼することのメリット|初期段階では『アドバイスだけ』が良いこともある

1 債権回収|スピードの重要性|回収率が大きく異なる

(1)回収業務着手のスピード・わずかのタッチの差で回収の成否が決まる

債権回収は時間との闘いと言えます。
他の債権者との関係で,『タッチの差』の遅れによって『劣後』となってしまいます。
分かりやすい例では『唯一の現金を先に他の債権者に返済されてしまう』というものです。
また『差押』でも具体的アクションの早さで明暗が分かれます。
『代物弁済』『担保設定』も,債権者同士では『早い者勝ち』です。
また『破産』『民事再生』についても,手続が始まってしまうと,その後の回収が基本的に封じられます。
根本的には,『返済不能』の原因である債務者の経済状態が,時間とともに悪化してしている,ということです。
詳しくはこちら|債権回収における債権者の競合|債権者平等/『優劣が付く』の違い

(2)回収困難→長期化→消滅時効,に注意

他方,回収業務が『遅い』場合に,『消滅時効』にかかってしまうリスクもあります。
これは債務者の経済状態とは関係ありません。
ただし実際には『債務者の経済状態悪化→回収できない状態が長期化→消滅時効』というように『債権回収の不備』によって生じることも多いのです。
消滅時効は,ルールが単純ではありません。
『時効完成』となってしまっても『回収不能』とは限りません。
最善の対応については別に説明します。

2 消滅時効への対抗策|時効完成となっても『援用』に勝てば消滅しない

一定の期間が経過すると『消滅時効』にかかります。
ここまでは単純なのですが,正確なルールはちょっと複雑です。

<消滅時効の効果発生メカニズム>

あ 『債務消滅』の効果発生

『時効完成』+『援用』 → 債務消滅

い 対抗策の要点

『時効完成』か『援用』のいずれかを阻止できれば,『債務消滅』の効果は生じない

『時効完成』・『援用』の対抗策・阻止する具体的方法をまとめます。

<『時効完成』『援用』への対抗策>

あ 『時効完成』を阻止

『時効完成』は『(時効の)中断』で阻止(延長)できる(後記)

い 『援用』を阻止

『援用』の通知が『債権者に到達』した時点で効果(債務消滅)が生じる
→『援用の通知』を受け取る(発送される)よりに次の措置を取れば『債務消滅』は阻止できる
《『援用』の阻止》
ア 『中断』→『援用』は無意味になる
『時効完成前の援用』となるため
イ 弁済・代物弁済を受ける
通常通り,『弁済・代物弁済による債務消滅』となる
ウ 担保設定を受ける
『承認』として『中断』となる→『ア』と同じ

このように『時効完成』となっていても,即座に諦めるしかない,ということではないのです。
最後に,『時効中断事由』のまとめを示しておきます。

<消滅時効の中断事由>

あ 請求(民法147条1号)

ア 裁判上の請求(民法149条)
イ 支払督促(民法150条)
ウ 『訴え提起前の和解』『調停』の申立・任意出頭(151条)
エ 破産手続参加(152条)

い 差押え,仮差押,仮処分(民法147条2号)
う 承認(民法147条1号)

詳しくはこちら|消滅時効は時効中断によりカウンターリセットとなる

3 交渉|相手にとって,当方の『優先度』を上げさせる

(1)任意の手段による解消が望ましい

債権回収の具体的な手続・アクションはいくつもの選択肢があります。
最初から差押などの強制手段を取る方が良いこともあれば,逆効果となることもあります。
債務者が態度を硬化させ,『任意の手段による回収』ができなくなるようなケースです。
一般的にはコスト・スピードの点で『任意の手段による回収』の方が有利なのです。
ここでは『任意の手段による回収』の実現可能性をアップさせる手法について説明します。

(2)任意の回収を実現するには『優先度アップ』が重要

任意の回収,ということは逆に言えば『債務者が自発的に弁済(代物弁済・担保提供)を行う』ということです。
これは心理的な効果という側面が強いです。
『回収実現』につながる心理的な要因をまとめます。

<『債務者の自発的な弁済』を実現するポイント>

・債務者に『当方(特定の債権者)の優先度』を上げさせる
・法律的な手続によるプレッシャー・心理への影響,も間接的に用いる

『当方の優先度を上げる』ための具体的な方策を次に説明します。

(3)『優先度』アップ|初動の重要性

『債務者の経済状態悪化』の程度が軽い時点から『優先度アップ』は始まっています。

<軽度の経済状態悪化時点での『優先度アップ』>

支払期限が経過(遅延)した直後に債務者に連絡(督促)する

これにより,『(債権者が)見ているよ』という態度が債務者に伝わります。
単純・素朴な方法ですが,債務者に『払おう』と思わせる効果が大きいです。
逆に言えば『滞納後しばらく連絡してこない債権者』は『今後も何もしてこない』と思われます。
国際的な防衛における『抑止力』と同じメカニズムが働くのです。
いずれにしても『初動』次第で,圧倒的に(債務者の)『優先度』をアップできるのです。

4 交渉|相手の立場の配慮→現実的な支払方法・条件の提案|バランスが重要

債務者の経済状態悪化・滞納状況がやや進んで来たシーンでの対策を説明します。
この場合,差押などの強制手段を実行したり予告して,任意の弁済や担保設定を促すような手段に進みます。
状況によっては『プレッシャーをかける』つまり強気過ぎる交渉によって『任意の回収』の実現可能性をつぶしてしまうこともあります。
強気・毅然とした態度も必要ですが『任意の回収』の実現も重要です。
債務者の心理にも配慮した,状況全体を踏まえた臨機応変な対応が最適化につながります。
ここで,『心理戦』の戦略を最適化するためには,債権回収の交渉の全体像の把握が必須です。
つまり,債権者・債務者の利害の整理です。

<債権回収|条件交渉|債権者・債務者双方の利害を整理>

あ 債権者にプラス

ア 担保設定・分割金利を付ける
↑請求を猶予するという『譲歩』の『対価・保険』という位置付け
担保の例=売掛債権(現在・将来)・集合動産
詳しくはこちら|事業上の動産・債権担保(ABL)|対象物・設定方法
イ 金銭以外での返済(代物弁済)
代替物の例=動産(商品)・売掛債権(相手がその取引先に対して持っている売掛債権の譲渡を受ける)
ウ 取引を継続する
取引の条件(料金設定)も含めて『債権者に有利』『債務者に有利』のどちらにもなる
俗称→『既存債務を今後の取引に溶かしこむ』

い 債務者にプラス

ア 分割・支払猶予を与える(『一括請求,差押』をしないこと)
イ 取引を継続する
取引の条件によって有利・不利を調整できる

任意の交渉においては,双方が納得できる条件が設定できる,ということが成立の条件となります。
検討する『条件』の範囲はより広く取ることが『合意できる条件を作る』ことにつながります。
具体的に重要なのは,多くの設定を組み合わせて『現実的な支払方法・条件』を提案することです。
このように,債権回収の交渉においては,債権者は『強気』だけでなく『相手(債務者)の立場』にも配慮することが回収実現につながるのです。
関連コンテンツ|合意書の条項の種類|債権回収の減額譲歩・2種類の条項|みなし贈与→課税

5 交渉|取引を継続する場合→支払いサイト・担保の設定でリスクヘッジする

債権回収の交渉で設定する条件として『取引を継続する』というカードもあります。
この場合,債権回収の実現に有利にも不利にもなることがあります。
重要なのは『取引条件の設定』です。
債務者の事業が継続すれば,利益が生じ,返済が続くことにつながります。
今後の取引条件によっては,こうならず『未払代金が増える』ということにもなります。
当然ですが『取引継続』の場合は『取引条件の設定』が非常に重要です。
『納品と同時の現金決済=支払いサイトなし』がベストです。
もちろん,債務者の経済状態が悪化している時点ではこのような理想的設定は不可能ということも多いです。
その場合でも『支払いサイトを短く設定』すべきです。
最低限でも納入した商品について『所有権留保』の設定をしておくことは必須でしょう。
詳しくはこちら|所有権留保|設定方法・実行方法・利用例

6 交渉|『プレッシャー』が強すぎると『脅迫』『恐喝』という反撃あり

債権回収の交渉は,いろいろな条件を『提案』します。
その中で,回収手段について説明・予告することもあります。
そして両者が『合意』して始めて成立するのです。
ところがこのような『任意の交渉』について『恐喝・強要・業務妨害』罪などの反撃を受けることがあります。
確かに『債権があるから請求することは正当』と言えます。
形式的には適法行為でも,具体的方法・程度によっては『違法』となってしまうのです。

<債権回収の交渉×違法性|判断要素>

あ 請求内容の法的根拠が明確・適正か
い 予告内容の手段が適法か

要するに『心理戦』『プレッシャー』と『違法性』が隣り合わせになっている,と言えます。
具体的な個々のアクションについて,慎重さも必要とされているのです。
詳しくはこちら|権利行使と脅迫罪・恐喝罪との区別(ユーザーユニオン事件)

7 裁判のやり方が悪いと逆に『損害賠償責任』を負う

債権回収では『裁判所の利用』が非常に重要なプロセスになります。
効果が大きい反面『反撃』を受けるリスクもあります。
典型的なのは『弁済された』債権について提訴してしまう,というケースです。
判例では,弁済ではなく『破産免責』となった債権についての『支払督促申立』という事例があります。

<破産免責の債権による支払督促申立の違法性>

あ 事案

債務者が破産→免責決定確定となった
その後債権者が,免責対象の債権について『支払督促申立』をした

い 裁判所の判断

違法性あり
『相手方』とされた者1名について慰謝料5万円認容
※東京地裁平成20年2月29日

請求の方法が悪いと,刑事だけではなく民事上もペナルティを受けるのです。

8 弁護士に依頼することのメリット|初期段階では『アドバイスだけ』が良いこともある

債権回収の手続は『弁護士に依頼する』ことが強制されているわけではありません。
本人・会社の担当者が直接行うこともできます。
具体的な状況によって,弁護士が介入するメリット・デメリット,適切な『介入(サポート)の範囲』が違ってきます。

<弁護士の介入のメリット>

あ 交渉段階

代理人弁護士による交渉
→債権者の回収意欲が債務者に伝わる(プレッシャー)
→返済の『優先度アップ』につながる

い 訴訟,保全(裁判手続)

本人の遂行
→主張・立証での不備があると『遅くなる』『認められない』
→不利な結果に直結
弁護士が遂行するとスピーディー・確実

う 支払督促

本人でも難しい手続ではない
ただし『異議』が出されると訴訟に移行→本人の遂行は不利につながる
弁護士が遂行すると
→確実+債務者の心理として『異議で訴訟へ移行させる』ことを断念する方向に働く

<弁護士の介入のデメリット>

あ 任意の交渉では,債務者が態度を硬化させる

弁護士は水面下で『アドバイス+書面作成などのサポート』にとどめると良い

い 一定のコスト・時間を要する

顧問契約などがあれば,スピーディー・気軽な相談(アドバイス提供)が可能

弁護士の介入にはメリットとデメリットがあるのです。
逆にいえば『介入が妥当かどうか・サポートの範囲を含めて相談する』ということは有意義です。
債権回収のノウハウのある弁護士に早めに『まずは相談してみる』ということにデメリットはありません。
敢えて言えばコストがかかりますが,回収の実現との比較では『デメリット』というほどではないことが多いです。
特に『初期段階』であれば,内容を踏まえて,弁護士が『アドバイスするだけ』で有利に進むことにつながることがよくあります。