1 債権の消滅時効の基本
2 消滅時効による債権消滅の効果発生プロセス
3 債権の消滅時効の起算点(原則)
4 継続的取引による債権の消滅時効の起算点
5 債権の消滅時効の時効期間(概要)
6 消滅時効期間を延長する合意は無効
7 消滅時効の中断事由
8 消滅時効の中断の効果
9 時効期間が10年に延長されるイベント(確定判決など)
10 公正証書では10年の時効期間への延長にはならない
11 準消費貸借による時効期間の延長と同じ扱い
12 債務者の破産による保証人への請求権への影響(概要)

1 債権の消滅時効の基本

債権は一定期間行使しないと時効によって消滅することがあります。
本記事では,債権の消滅時効の基本的な内容を説明します。

2 消滅時効による債権消滅の効果発生プロセス

正確にいうと,時効期間が経過すると,時効が完成します。これだけでは債権が消滅するという効果は生じません。援用という意思表示(通知)があって初めて債権が消滅します。
このプロセスの理論にはいくつかの見解がありますが,時効完成だけでは確定的に債権が消滅するわけではないという見解が一般的(通説)です。これを不確定効果説といいます。

<消滅時効による債権消滅の効果発生プロセス>

あ 債権が消滅する条件

時効完成(い)と援用(う)によって,遡及的に債務が消滅する

い 時効完成

一定の期間が経過すること

う 援用

消滅時効を利用する趣旨の意思表示(通知)
※民法144条,145条

3 債権の消滅時効の起算点(原則)

消滅時効は,一定の時間(時効期間)が経過することによって権利が消滅する制度です。
ここで,時効期間のカウントがスタートする時点(起算点)がいつなのか,という問題があります。
原則的な消滅時効の起算点は請求できる時です。

<債権の消滅時効起算点>

起算点は請求できる時である
※民法166条1項

4 継続的取引による債権の消滅時効の起算点

消滅時効について,救済的に例外的な解釈をすることもあります。例外的解釈の代表的な例は継続的取引によって生じた債権です。具体例は,いわゆる過払金の請求権です。
要するに,極力過払金が消滅しないという方向の解釈で消費者(借りた人)を救済したということです。

<継続的取引による債権の消滅時効の起算点>

あ 消滅時効の起算点

借り入れ,返済の繰り返しを,一体とした継続的取引と考える
継続的取引により生じた債権の消滅時効の起算点は継続的取引の終了時である
※民法167条,703条,704条
※最高裁平成21年3月3日
※最高裁平成21年3月6日
※最高裁平成21年7月17日

い 過払金の消滅時効の起算点

過払金請求権についての継続的取引の終了時とは
→通常は最終取引の日となる

5 債権の消滅時効の時効期間(概要)

時効期間の起算点からどの程度の期間が経過すると時効が完成するのか,ということを(消滅)時効期間といいます。時効期間は債権の内容によって異なります。基本的な消滅時効期間は10年か5年です。
詳しくはこちら|債権の消滅時効の期間(原則(民法)と商事債権・商人性の判断)
さらに,債権の種類によっては5年〜6か月という短い時効期間が適用されます。
詳しくはこちら|債権の短期消滅時効の種類・時効期間と民法改正による廃止

6 消滅時効期間を延長する合意は無効

消滅時効が短い債権について,最初から時効期間を長くしておく,というニーズがあります。
取引先との基本契約書で長めの時効期間の条項を入れておく,という発想です。
しかし,時効期間を設定する(延長する)条項は無効です。
時効の利益を事前に放棄することはできません(民法146条)。
時効期間を延長するということは,債務者にとっての時効の利益を少なくする方向ということになります。
そこで,これも時効の利益の放棄に準ずるものとして無効とされます。
当事者がどんなに納得しても法律が介入して無効となるのです。
このような規定を強行法規と呼んでいます。

7 消滅時効の中断事由

消滅時効の進行を止める方法がいくつかあります。時効の中断といいます。まずは中断となるようなアクション(中断事由)をまとめます。

<消滅時効の中断事由>

あ 請求(民法147条1号)

ア 裁判上の請求(民法149条)
イ 支払督促(民法150条)
ウ 『訴え提起前の和解』『調停』の申立・任意出頭(151条)
エ 破産手続参加(152条)
裁判で請求する(提訴する)といういことである
口頭や書面での『請求する』という通知は民法149条の請求には含まれない
このような通知は『催告』として別の扱いとなる
詳しくはこちら|時効完成を避ける緊急時は『催告』で6か月延長できる

い 差押え,仮差押,仮処分(民法147条2号)

民事執行や民事保全手続のことである

う 承認(民法147条1号)

債務者が債務を負っていることを認めるというアクションである
実務上は債務確認書とか弁済計画書とかのタイトルで債務者が調印した書面が使われる
弁済という行為自体が債務を認めているという態度といえる
→(一部の)弁済も承認に該当する

8 消滅時効の中断の効果

消滅時効の中断にあたる行為(中断事由)があった場合,その時点が新たな時効の起算点となります。時効期間自体は変化しません。
例えば,工事代金の場合,当初より時効期間が3年間(短期消滅時効)です。
分割払いであれば,各回の支払が承認となり,時効の中断となります。そこで,新たな時効の起算点は支払の時点となります。
結局,新たな消滅時効が完成する時点は,最後の支払日から3年後ということになります。

<消滅時効中断の効果>

あ 起算点

中断時点に新たに設定される

い 時効期間

変化なし

9 時効期間が10年に延長されるイベント(確定判決など)

元々,5年やそれ以下の短期の消滅時効期間が設定されている債権があります。
一般的な時効中断があっても,時効期間は変わりません。
しかし,判決確定があると,時効期間は一律10年となります(民法174条の2第1項)。
純粋な判決ではなくても,判決と同じ扱いを受けるものもあります。判例で(消滅時効に関して)判決と同じ扱いを受けることが認められたものをまとめます。

<時効期間が10年に延長されるイベント(確定判決など)>

確定判決 民法174条の2第1項前段
裁判上の和解 民法174条の2第1項後段
認諾,放棄 コンメンタール民法総則,我妻榮・有泉亨
支払督促 最判昭53年1月23日の理由中の判断
破産での債権表への記載(※2) 最判平成7年3月23日
会社更生での債権表への記載(※2) 最判昭53年11月20日

※2 破産管財人・裁判所により債権調査が行われたことが前提となっている(後述)

10 公正証書では10年の時効期間への延長にはならない

公正証書(執行証書)は,判決と同視される扱いがあります。
詳しくはこちら|債務名義の種類は確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)などがある
しかし,時効期間の延長に関しては,判決と同視されません(東京高裁昭和56年9月29日)。
既判力という効力がない点で判決と同視できない,というのが理由です。

11 準消費貸借による時効期間の延長と同じ扱い

最初の契約の時点で時効期間を自由に決めるということはできません(前記)。
しかし,既に発生している債権については,結果的に時効期間を長くするのと同じような効果を生じさせること可能です。それは,準消費貸借契約を締結することによって,債権の種類を変えるという方法です。
例えば,工事代金が滞納となった状態において,この代金を金銭消費貸借にチェンジした結果,消滅時効期間が伸びることになります。

<準消費貸借の消滅時効への影響>

あ 短期消滅時効の例(前提)

工事代金債権は3年間の時効期間が適用される
詳しくはこちら|債権の短期消滅時効の種類・時効期間と民法改正による廃止

い 準消費貸借の具体例

工事代金の残代金について金銭消費貸借の目的とする
支払方法(分割)や利息・損害金などを取り決める

う 消滅時効期間ヘの影響

債権の種類は消費貸借による返還請求権となる
工事代金債権ではなく一般的な債権である
→消滅時効期間は10年or5年となる
詳しくはこちら|債権の消滅時効の期間(原則(民法)と商事債権・商人性の判断)

12 債務者の破産による保証人への請求権への影響(概要)

貸金の借主(主債務者)が破産しても,貸主(債権者)は保証人に対して請求できます。その意味では,債務者の破産は保証人に影響しないといえます。
しかし,保証人が負う保証債務(の債権)の消滅時効には影響が生じることがあります。
これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|債務者の破産による保証人への請求権の消滅時効への影響

本記事では債権の消滅時効の基本的な内容について説明しました。
実際には個別的な事情によって消滅時効の判断が違ってくることもあります。
実際に消滅時効に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。