1 PC-9800シリーズvsEPSONの互換機|鎖国中の群雄割拠時代
2 PC-9800vsEPSONの互換機|BIOS|著作権の合戦
3 EPSONチェック×SIP|地味な冷戦
4 『複製×SIP(プロテクト)外し→著作権侵害』とは違うので注意
5 『戦後』の日米対戦|『SOTEC・eOne433』vs『Apple・iMac』
6 『SOTEC・eOne433』vs『Apple・iMac』→裁判所の判断=侵害肯定

1 PC-9800シリーズvsEPSONの互換機|鎖国中の群雄割拠時代

マーケットの中で『法的ハードルを乗り越えた』と言えば,EPSONのPC-9800シリーズ互換機を紹介しないわけには行きません。
その昔,日本のPCマーケットが鎖国・ガラパゴスだった頃,多くのマシーンによる群雄割拠の時代が続いていました。
『大和PC』と呼ぶべきマシーンの面々は,PC-9800,X-68000,FMタウンズ,MSX(2,2+,turboR),ファミリーベーシックなどなど。
このような諸製品のシェアを押さえて,NECのPC-9800シリーズはシェアを拡大して行き『国民機』というキャッチコピーをPRしていた次第です。
このような国内の覇権争いのクライマックスがEPSONの互換機の合戦なのです。

<EPSONのPC-9800シリーズ互換機>

あ EPSON社製の『互換機』の機種

PC-286,PC-386,PC-486

い EPSON社製の『互換機』の性能

NEC社製のPC-9800シリーズで稼働するソフトウェアが稼働する
要するに,PC-9800シリーズと互換性のあるPC,という意味

NECが持っていたマーケットにおける大きなシェアをEPSONが奪う!という大きなイベントです。
NECは迎撃体制を取ります。

<PC-9800シリーズvsEPSONの互換機の合戦|戦場>

あ BIOS

プログラムの著作物にあたる
複製権or翻案権侵害の主張

い EPSONチェック

NEC製などのソフトウェアに『EPSON製マシーンでは動作しない機構』が組み込まれた

2 PC-9800vsEPSONの互換機|BIOS|著作権の合戦

<BIOS>

あ BIOSとは

ハードウェアとの最も根本的レベルの入出力を行うためのプログラム
要するにプログラムの核心・心臓部分と言うべきもの
『プログラムの著作物』として著作権の対象である

い 各陣の主張

ア NEC
NECが作成したプログラムに『依拠』している
→著作権(複製権・翻案権)侵害
イ EPSON
EPSONが独自に作った,『依拠』していない
→著作権侵害はない

う 決着

使用するBIOSを,別のものに置き換えた
EPSONがNECに金銭を支払う形の和解成立

このように,司法の場で白黒付ける,ということを回避した解決に至ったのです。
『大和魂』・『和』の心による『EPSONの互換機スタート』となったのです。

3 EPSONチェック×SIP|地味な冷戦

『和』でスタートした後も水面下での合戦が続きました。
これは,こじんまりした感じではあるけれど,PCユーザーには地味に忌々しい,迷惑な『冷戦』が始まったのでした。

<EPSONチェックの合戦|地味で忌々しい冷戦>

あ EPSONチェックとは

NECが自社で販売するソフトウェアに『PCの機種を確認→EPSON製の場合は動作しない』機構(プロテクト)を付けた
NEC陣営に属するサードパーティー製のソフトウェアに組み込まれることもあった
《主なEPSONチェック搭載ソフト》
ア N88-BASIC(DISK-BASIC)
イ MS-DOS

い EPSONの迎撃手法

『EPSONチェック』を解除するパッチを提供した
呼称=『ソフトウェア・インストレーション・プログラム(SIP)』

EPSONの互換機愛用者にとっては実益のない忌々しい記憶として刻まれている合戦です。
記憶媒体の主流が『フロッピーディスク』という時代でリード・ライトの速度が遅いのです。
SIPの処理に時間と『ディスケット交換』という地味な作業を強いられたのです。

4 『複製×SIP(プロテクト)外し→著作権侵害』とは違うので注意

『プロテクト外し』と言うと,『違法』『著作権侵害』という発想がありましょう。
これは『複製』の例外である『私的複製』の,さらに例外としての『プロテクト解除』という規定のことです(著作権法30条1項2号;『技術的保護手段の回避』)。
SIPではプログラム(ソフトウェア)の『複製』は行ないません。
オリジナルの『フロッピーディスクorHDD』上のプログラムの一部を変更するのです。
『再製』(複数化)ではないので,そもそも『複製』に該当しません。
その例外やさらに例外,ということはもともと関係しないのです。
詳しくはこちら|私的複製の例外|技術的保護手段の回避|プロテクト外し

なお,このような『冷戦』の終結は『国外』から訪れました。
DOS/V機(IBM互換機)+Windowsの普及,という『黒船襲来』『開国』でした。
鎖国中の群雄割拠を知らない世代の方は『Windows98』というOSの名称と『PC-9800』というPCの名称の混同が頻発します。
注意が必要です。

5 『戦後』の日米対戦|『SOTEC・eOne433』vs『Apple・iMac』

なお,開国後も『大和PC』vs『舶来PC』のバトルがたまに生じています。
『SOTEC・eOne433』vs『Apple・iMac』というものが有名なものの1つです。

<『SOTEC・eOne433』vs『Apple・iMac』|東京地裁平成11年9月20日>

あ Appleの請求

販売の差止請求(仮処分)

い 法的根拠の選択肢
法的根拠 保護される対象 問題点
意匠権 物品の外観形態(形状・模様・色彩など) 『登録』が必要(日本で登録未了だった)
特許権 『技術的』思想の創作(発明・考案) 『デザイン』自体は対象外
不正競争防止法2条1項3号 商品形態模倣行為(デザイン) 酷似(デッドコピー)だけが対象
不正競争防止法2条1項1号 周知表示混同惹起行為 『類似』で足りる(後述)
う Appleが選択した法的根拠

不正競争防止法2条1項1号,3条『周知表示混同惹起行為』

6 『SOTEC・eOne433』vs『Apple・iMac』→裁判所の判断=侵害肯定

『周知表示混同惹起行為』以外は上記の『問題点』記載の理由で採用できなかったのです。
詳しくはこちら|知的財産権の全体像|特許権・意匠権の基本
次に,裁判所の判断をまとめます。

<周知表示混同惹起行為の該当性判断|東京地裁平成11年9月20日>

あ 周知表示混同惹起行為の要件

ア 他人の商品等表示である
イ 需要者の間に広く認識されている(周知性)
ウ 同一or類似である
エ 使用・譲渡・引渡し・展示・輸出・輸入・オンライン提供のいずれかを行っている
オ 混同を生じる

い 裁判所の判断

5つとも認めた→差止請求認容(仮処分)

この手続は『仮処分』のため,立証の程度は通常よりも低めで足りることとされています。
粗い証明,という意味で『疎明』と呼ばれます。
このようなこともあり,最終的に裁判所は5つの『要件』が満たされていると認めました。