1 仮差押と消滅時効についての判例理論
2 仮差押と消滅時効の判例に対する反対説
3 長期間放置された仮差押の解消方法
4 仮差押の効力消滅による時効中断効果の消滅
5 差押・仮差押のイレギュラー終了と時効中断
6 差押,仮差押による時効中断のタイミング
7 他の方が申し立てた手続に参加した場合も時効中断の効果が生じる
8 他の債権者の競売申立と時効中断

1 仮差押と消滅時効についての判例理論

仮差押には時効中断の効力があります。つまり,保全する債権の時効が完成しないという効果があるのです。この効果の存続について,判例は無期限と判断しています。

<仮差押と消滅時効についての判例理論>

仮差押による被保全債権の時効中断の効力について
→仮差押の執行保全の効力が存続する間は継続する
例;仮差押登記が存在すると永久に継続する
※最高裁平成10年11月24日

2 仮差押と消滅時効の判例に対する反対説

上記の判例理論では,仮差押がある限り永久に消滅時効が完成しません。これについては不合理を指摘する反対説もあります。

<仮差押と消滅時効の判例に対する反対説>

あ 正式な訴訟の判決での扱い

判決確定後,消滅時効が進行する
→10年で時効完成となる
※民法174条の2

い 仮差押と消滅時効の判例理論との比較

判例理論だと『仮差押(暫定的措置)→永久に時効が完成しない』となる
『正式な訴訟』(『あ』)よりも,『暫定的措置』の方が保護が厚い,ということになる
このバランスは不合理である

しかし,この反対説は最高裁で採用されているわけではありません。
現時点で生きている判例では時効は進行しない(完成しない)とされています。

3 長期間放置された仮差押の解消方法

仮差押が放置され,数十年前の登記が残ったままということもよくあります。通常は消滅時効が活用場面の典型例です。しかし,判例の理論により,消滅時効が使えません(前記)。
この場合の現実的な解決方法をまとめます。

<長期間放置された仮差押の解消方法>

あ 不合理な状態

仮差押のために消滅時効が完成しない
数十年前の仮差押登記が残っていることもある
関係者の間では実質的な対立関係は既にない
意味のない登記が永久に続くのは不合理である

い 解消方法

次のような解消方法がある
ア 本案訴訟の起訴命令を申し立てる
イ 仮差押命令の取消の申立
事情変更などを理由として主張する
※最高裁平成10年11月24日参照

起訴命令や保全の取消については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|民事保全に対する対抗手段|保全異議・取消・抗告・解放金

4 仮差押の効力消滅による時効中断効果の消滅

仮差押による時効中断の効力は,特殊事情があると『生じない』こともあります。これについて整理します。

<仮差押の効力消滅による時効中断効果の消滅>

あ 原則

次の2つに該当する場合
→初めから中断しなかったことになる
ア 仮差押が取下げられた
イ 仮差押が取り消された

い 例外

仮差押解放金の供託によって仮差押が取消された場合
→仮差押執行の対象物が『供託された解放金』となる
=正確には『供託金取戻請求権』である
→時効中断の効力は継続する(消滅しない)
※最高裁平成6年6月21日

解放金の供託があると,仮差押の対象物が解放金に交替した状態になります。仮差押自体は存続するので,中断の効力も存続するのです。
仮差押解放金については,別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|民事保全に対する対抗手段|保全異議・取消・抗告・解放金

5 差押・仮差押のイレギュラー終了と時効中断

差押や仮差押の手続が通常どおりに終了しないケースもあります。イレギュラーな終了となった状態での時効中断に関する解釈をまとめます。

<差押・仮差押のイレギュラー終了と時効中断>

あ 中断効が生じる

ア 差押える物がないために執行が不可能になった
※大判大正15年3月25日
イ 債権の差押命令が第三債務者に送達されなかった
『債務者』には送達されたことが前提である
※大判昭和2年12月3日

い 中断効が生じない

債務者の住所が不明で執行ができなかった
※最高裁昭和43年3月29日

う まとめ

最低限,『債務者への通知』まで達成すれば
→時効中断の効力が生じる

6 差押,仮差押による時効中断のタイミング

差押や民事保全の種類によって,時効中断の効力が生じる時期が微妙に異なります。

<差押,仮差押等による時効中断効発生時点>

あ 原則

差押,仮差押通知が『債務者』に送達された時

い 不動産の差押,仮差押

『あ』の送達と,差押,仮差押の登記のいずれか早い時

う 動産

執行官に対して動産執行の申立てをした時

7 他の方が申し立てた手続に参加した場合も時効中断の効果が生じる

他の債権者が申し立てた執行手続きに参加することにより,中断の効力が生じることもあります。

<執行手続に参加することによる時効中断効>

あ 他の債権者の行った競売に執行力ある正本に基づいて配当要求を行った場合

時効は中断する

い その後,競売手続きが取り消された場合

取り消しまでの中断効は継続する
『初めから中断しなかった』ことにはならない

う 他の債権者の行った競売手続きにおいて,自分の持つ抵当権に基づいて配当要求を行った場合

時効は中断しない
※最高裁平成元年10月13日;強制執行について
※最高裁平成8年3月28日;抵当権実行について

8 他の債権者の競売申立と時効中断

他の債権者が競売を申し立てた時の別の債権者の持つ債権の時効も中断されます。ここで競売手続が終了した後には中断の効果がなくなります。少し複雑な解釈となります。これをまとめます。

<他の債権者の競売申立と時効中断>

あ 事案

債権者Aが甲不動産について仮差押を行った
甲不動産について,他の債権者Bが強制競売を申し立てた
この不動産は競落された
仮差押の登記が抹消された

い 裁判所の判断(解釈の内容)

仮差押の取消の原因について
→外部的要因である
→法律の規定に従わなかったことが原因ではない
※民法154条
→抹消時点までは中断の効果は生じる

う 裁判所の判断(結論)

『仮差押登記抹消時点』までは消滅時効が『中断』している
『仮差押登記抹消時点』以降は消滅時効が『進行』する
※最高裁昭和59年3月9日

民法154条に,仮差押が取り消された場合は時効中断の効力を生じないと規定されています。
ただし,『効力を生じない』ということが,仮差押の時点に遡るのかどうかは明記されていません。
この解釈論について,判例上判断が確立しています。
結論としては,仮差押の取消までの中断の効力は維持される,というものです。