【特殊な登記と公正証書原本不実記載等罪(真実の権利者への移転・譲渡担保)】

1 特殊な登記と公正証書原本不実記載等罪
2 真実の所有者への移転(形式的名義人の承諾なし)
3 真実の所有者への移転(形式的名義人の承諾あり)
4 真実の所有者への移転(登記原因の虚偽)
5 中間省略登記と公正証書原本不実記載等罪(概要)
6 譲渡担保と公正証書原本不実記載等罪

1 特殊な登記と公正証書原本不実記載等罪

登記や戸籍などの一定の公的な記録について,不正な申請(届出)をすると,公正証書原本不実記載等罪が成立することがあります。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の基本(条文と公正証書の意味)
登記の申請の中には特殊なものもあり,公正証書原本不実記載等罪が成立するかどうかが問題となることがあります。具体的には,真実の権利者への移転や譲渡担保や中間省略の登記のことです。
本記事では,これらの特殊な登記の申請について公正証書原本不実記載等罪が成立するかどうかを説明します。

2 真実の所有者への移転(形式的名義人の承諾なし)

登記上の所有者(名義人)が,真実の所有者と異なる状態であったというケースです。手続のルールとしては,名義だけ持っている者も関与する必要があります。しかし,不正な手段で,名義人の関与(承諾)なく,真実の所有者が登記申請をすると,虚偽の申請になり,公正証書原本不実記載等罪が成立します。

<真実の所有者への移転(形式的名義人の承諾なし)>

あ 事案

不動産登記上B名義で登記されている
真実の所有者はAである
AがBの承諾もなく,BがAに売渡した旨の虚偽の登記申請をした
その旨が登記簿原本に記載された

い 裁判所の判断

公正証書原本不実記載等罪が成立する
※最高裁昭和35年1月11日
※東京高裁昭和39年1月21日

3 真実の所有者への移転(形式的名義人の承諾あり)

前記のケースと同様に,所有者ではない者が登記上の名義人となっているケースです。名義だけ持っている者が関与(承諾)していても,登記申請の内容(取引の種類)が架空のものであれば虚偽の申請として公正証書原本不実記載等罪が成立します。
具体的にいえば,本来は錯誤による抹消や更正の申請をするか,『真の登記名義の回復』による移転登記の申請をすべきなのです。便宜的に売買で申請してしまうと虚偽となるのです。

<真実の所有者への移転(形式的名義人の承諾あり)>

あ 事案

不動産の所有名義人Bとの間に現実の売買の事実はない
Aは,売買契約が成立した旨虚偽の証書を作成した
Aは,売買を登記原因として所有権移転登記を申請した
その旨が登記簿原本に記載された

い 裁判所の判断

たとえ当該不動産の真実の所有者がAであり,名義人Bが将来その登記名義をAに変更することを予め了解していたとしても,公正証書原本不実記載等罪の成立を免れない
※最高裁昭和39年6月2日

4 真実の所有者への移転(登記原因の虚偽)

以上の判例も関係しますが,一般論としては,登記原因(取引の種類など)が真実のものと違っていれば虚偽なので,公正証書原本不実記載等罪が成立するということです。そして,このことは,登記名義を真実の所有者に戻すという正しい目的であっても変わらないのです。

<真実の所有者への移転(登記原因の虚偽)>

あ 基本的解釈

一般に,真実の権利者に対する移転登記申請でも,虚偽の権利移転行為を原因とする登記申請により所有権移転登記を行う時は公正証書原本不実記載等罪にあたる
※東京高裁昭和56年8月25日

い 具体例(概要)

公正証書原本不実記載等罪の成立を認めた判例がある

虚偽の内容 判例
所有権移転の登記原因(贈与と売買) 大判大正10年12月9日
所有権移転の登記原因日付 大判昭和9年9月14日

5 中間省略登記と公正証書原本不実記載等罪(概要)

登記の申請手続を簡略化する方法として,中間省略(登記)があります。結果として真実の所有者に登記名義を移転させるという意味では正しいといえます。しかし真実の所有権が移転したプロセスと登記上の所有権の移転プロセスが一致しません。そのため,中間省略登記違法です。公正証書原本不実記載等罪が成立することもあります。
詳しくはこちら|従来方式の中間省略登記の内容と違法性(裁判例の歴史)
一方,実体上も中間者への所有権移転がないような取引であれば,登記上も当然中間者への所有権移転登記は不要です。中間省略登記代替的手法とか新中間省略登記と呼ばれる手法です。
詳しくはこちら|中間省略登記代替的手法(新中間省略登記)の内容や認める公的見解と誤解

6 譲渡担保と公正証書原本不実記載等罪

融資の際の担保の方法の1つとして譲渡担保があります。形式(登記上)は所有権移転(譲渡)であるけれど,実質(目的)は担保という仕組みです。民事的には特に問題はありません。
この点,登記申請の内容と真実の権利関係が異なると捉えると,虚偽の申請や不実の記載(登記)となり,公正証書原本不実記載等罪に該当してしまいます。これについては,現実に行われていることから分かるように,実務では公正証書原本不実記載等罪は成立しないと一般的に考えられています。

<譲渡担保と公正証書原本不実記載等罪>

あ 一般的見解

譲渡担保の目的での,売買による所有権移転登記の申請について
→公正証書原本不実記載等罪は成立しない
※通説的見解
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第3版 第8巻』青林書院2014年p187

い 民事的な解釈(参考)

所有権が移転する見解と担保権が設定される(所有権は移転しない)見解がある
ただしこの2つの見解のいずれでも現実的な扱いに違いは生じない
詳しくはこちら|譲渡担保権の設定方法と実行方式(処分清算方式と帰属清算方式)

本記事では,特殊な登記申請の方法により公正証書原本不実記載等罪が成立するかどうかという問題について説明しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に公正証書原本不実記載等罪に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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