1 公正証書原本不実記載等罪の基本(条文と公正証書の意味)
2 公正証書原本不実記載等罪の条文とその内容
3 刑法157条の公正証書の意味
4 刑法157条の公正証書の具体例(カミの公正証書)
5 刑法157条の公正証書の具体例(データの公正証書)
6 刑法157条の公正証書として否定される例
7 公正証書原本不実記載等罪の行為の内容(概要)
8 公正証書原本不実記載等罪の成否の具体例(概要)
9 特殊な登記と公正証書原本不実記載等罪(概要)

1 公正証書原本不実記載等罪の基本(条文と公正証書の意味)

登記や戸籍などの一定の公的な記録について,不正な申請(届出)をすると,公正証書原本不実記載等罪が成立することがあります。
本記事では,公正証書原本不実記載等罪の条文などの基礎的な内容や,客体として規定されている公正証書の意味(解釈)について説明します。

2 公正証書原本不実記載等罪の条文とその内容

最初に,公正証書原本不実記載等罪の条文そのものを押さえておきます。1文が長くて分かりにくいので,分解します。
構成要件(犯罪行為)は,虚偽の申立によって不実の記載(または記録)がなされることです。

<公正証書原本不実記載等罪の条文とその内容>

あ 条文

公務員に対し虚偽の申立てをして、登記簿、戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせ、又は権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた者は、五年以下の懲役又は五十万円以下の罰金に処する。
※刑法157条1項

い 構成要件

『ア』をして『イorウ』をさせたこと
ア 公務員に対し虚偽の申立てをした
イ 登記簿,戸籍簿その他の権利若しくは義務に関する公正証書の原本に不実の記載をさせた(カミの公正証書)
ウ 権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録に不実の記録をさせた(データの公正証書)

う 法定刑

懲役5年以下or罰金50万円以下

3 刑法157条の公正証書の意味

公正証書原本不実記載等罪が成立するには,最終的に『公正証書』(の原本)に不実の記載や記録がなされることが必要です。この犯罪行為のターゲット(客体)である『公正証書』は,権利・義務に関する事実の証明に役立つものに限定されます。

<刑法157条の公正証書の意味>

あ 基本的な解釈

権利若しくは義務に関する公正証書(の原本)とは
公務員がその職務上作成する文書であって,権利,義務に関するある事実を証明する効力を有するものをいう
※最高裁昭和36年3月30日

い 権利・義務の内容

公正証書は権利,義務に関するものでなければならない(あ)
権利,義務公法上のもの,私法上のもののいずれも含む
私法上の権利,義務財産上のもの身分上のもののいずれも含む
※大判大正11年12月22日
※大判大正4年4月30日

う 証明の程度

ア 一般的見解
権利義務の取得・喪失・変更などの証明に直接役立つものでなくとも,その基礎となる事実関係の証明に役立つ公簿であれば良い
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第3版 第8巻』青林書院2014年p181
イ 裁判例
公文書のうち,特に高い証明力を有するものに限ってこれ(あ)に該当する
※名古屋高裁金沢支部昭和49年7月30日

4 刑法157条の公正証書の具体例(カミの公正証書)

公正証書原本不実記載等罪の『公正証書』の意味は,前記のように,少し分かりにくいです。そこで,具体例をまとめます。
まずは『公正証書』のうち,物理的な紙(紙)でできたものの代表例は,登記簿・戸籍簿・住民票の原本です。

<刑法157条の公正証書の具体例(カミの公正証書)>

あ 条文の例示

ア 登記簿
イ 戸籍簿
ウ 公正証書
公証人が作成する公正証書のことである

い 判例

ア 土地台帳
土地台帳法に基づく土地台帳
※最高裁昭和36年3月30日
イ 住民票の原本
住民登録法(旧法)に基づく住民票の原本
※最高裁昭和36年6月20日
住民基本台帳法に基づく住民票の原本
※最高裁昭和48年3月15日
ウ 外国人登録原票・在留カード
外国人登録原票(現在は在留カードとなった)
※名古屋高裁平成10年12月14日
※長崎地裁佐世保支部昭和33年4月21日参照

5 刑法157条の公正証書の具体例(データの公正証書)

公正証書原本不実記載等罪の『公正証書』には,データとしての記録も含みます(前記)。
具体的には,前記のカミの公正証書がオンライン化されたものが該当します。

<刑法157条の公正証書の具体例(データの公正証書)>

あ 条文上の規定(記載)

権利若しくは義務に関する公正証書の原本として用いられる電磁的記録

い 具体例

ア 自動車登録ファイル
※道路運送車両法6条
イ 特許原簿ファイル
※特許法27条2項
ウ 住民基本台帳ファイル
※住民基本台帳法6条3項
エ 登記ファイル
不動産登記,商業登記,その他の登記のファイル
※電子情報処理組織による登記事務処理の円滑化のための措置等に関する法律2条
※大塚仁ほか編『大コンメンタール刑法 第3版 第8巻』青林書院2014年p182

6 刑法157条の公正証書として否定される例

公的な記録でも,権利・義務の証明の程度が低いものは公正証書原本不実記載等罪の『公正証書』に該当しません(前記)。具体例としては軽自動車の課税台帳が挙げられます。

<刑法157条の公正証書として否定される例>

軽自動車税課税台帳について
→権利・義務の証明の程度が低い(証明力が低い)
→『公正証書』に該当しない
※名古屋高裁金沢支部昭和49年7月30日

7 公正証書原本不実記載等罪の行為の内容(概要)

以上の説明は,公正証書原本不実記載等罪の客体(公正証書の意味)についてのものでした。公正証書原本不実記載等罪に該当する行為,つまり虚偽の申請や不実の記載(記録)については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の虚偽の申立と不実の記載・記録

8 公正証書原本不実記載等罪の成否の具体例(概要)

公正証書原本不実記載等罪が成立するかどうかがはっきりと判断できないケースも多いです。裁判所が成立を認めた事例と認めなかった事例について,それぞれ別の記事でまとめて紹介しています。
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の成立を認めた判例の集約
詳しくはこちら|公正証書原本不実記載等罪の成立を認めなかった判例の集約

9 特殊な登記と公正証書原本不実記載等罪(概要)

不動産登記では,特殊な登記申請の方法がいくつかあります。権利者でない者の登記名義を真実の所有者に移転するというものや,中間省略登記や譲渡担保の登記です。これらの特殊な登記が公正証書原本不実記載等罪に該当するかどうか,については別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|特殊な登記と公正証書原本不実記載等罪(真実の権利者への移転・譲渡担保)

本記事では,公正証書原本不実記載等罪の条文と(犯罪行為の)客体(公正証書の意味)について説明しました。
実際には,細かい事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってきます。
実際に公正証書原本不実記載等罪に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。