1 解除とフリーレント撤回+全期間賃料分の損害金(総論)
2 建物賃貸借契約(定期借家)の主な内容
3 違約金・敷金償却の規定
4 賃借人の違反行為と主張の対立
5 期間満了前の解除の違約金の合理性
6 1年未満の解除による敷金償却の合理性
7 明渡の遅延損害金の合理性
8 裁判所の判断(結論)
9 他の実質フリーレント撤回の裁判例(概要)

1 解除とフリーレント撤回+全期間賃料分の損害金(総論)

建物の賃貸借において,初期の一定期間の賃料を発生させない方式があります。
フリーレントと呼んでいます。
長期間入居してくれることを前提として,オーナーが提供する特典です。
一方,特に定期借家では,オーナーとしては期間満了までの賃料収入を想定します。
このような前提があるので,期間の途中で契約が解除されるとオーナーとしては想定外の不利益を受けます。
そこで,契約上で,違約金などのペナルティを設定しておくことが通常です。
このような違約金などの規定(合意)を有効と判断した裁判例を紹介します。

2 建物賃貸借契約(定期借家)の主な内容

まずは,この事案における賃貸借契約の内容をまとめます。
3年間の定期借家契約でした。

<建物賃貸借契約(定期借家)の主な内容>

あ 契約のタイプ

建物の定期賃貸借契約
期間=3年
賃料=月額45万円

い フリーレント

3か月分の賃料不発生期間がある
※東京地裁平成25年6月25日

3 違約金・敷金償却の規定

この契約では,違約金や敷金償却が定められていました。
実質的には賃借人が受けた特典の撤回や,将来発生したはずの賃料といえます。

<違約金・敷金償却の規定>

あ 期間満了前の解除の違約金(※1)

期間満了前の賃借人の債務不履行による解除の場合
違約金=期間満了までの賃料相当額

い 1年未満の解除による敷金償却(※2)

賃借人の債務不履行による解除について
解除の時期が契約開始日から1年未満の場合
→敷金から賃料3か月分を償却する
(実質的な違約金と同様である)
詳しくはこちら|敷金の基本|法的性質・担保する負担の内容・返還のタイミング・明渡との同時履行

う 明渡の遅延損害金(※3)

契約終了後,賃借人が明渡を遅滞した場合
損害金=賃料の倍額に相当する金額
※東京地裁平成25年6月25日

4 賃借人の違反行為と主張の対立

賃借人が賃料を滞納し,賃貸人が契約を解除するに至りました。
ここで,違約金や敷金償却が具体化します。
賃借人は無効であると主張し,熾烈な見解の対立が発生しました。

<賃借人の違反行為と主張の対立>

あ 賃借人の違反行為

契約開始から1年未満において
賃借人が賃料を滞納した
賃貸人は賃貸借契約を解除した
賃貸人は明渡を遅滞した

い 違約金の請求

賃貸人は前記※1,※3の違約金・遅延損害金を請求した
賃貸人は敷金から賃料3か月分の償却を行った(前記※2)

う 賃借人の主張

違約金の請求や敷金の償却(い)について
→公序良俗・消費者契約法に違反するので無効である
詳しくはこちら|消費者契約法|不当条項|事業者の責任免除・消費者の負担加重
※東京地裁平成25年6月25日

5 期間満了前の解除の違約金の合理性

裁判所は,違約金などの規定(合意)の合理性を判断してゆきます。
まず,期間満了前の解除による違約金について,合理的であると判断しました。

<期間満了前の解除の違約金の合理性(※4)>

あ 契約締結の前提

『ア・イ』が契約締結の前提となっている
ア 契約が少なくとも3年間は継続する
イ 終期まで賃料支払が継続する

い 違約金(前記※1)の趣旨

契約満了前に契約が終了すると賃貸人は想定された収入を失う
→逸失賃料相当額を損害賠償の内容とする

う 評価

違約金の内容には合理性がある
※東京地裁平成25年6月25日

6 1年未満の解除による敷金償却の合理性

契約開始から1年未満の解除による3か月分の敷金償却は,実質的なフリーレントの撤回です。
このような趣旨から,裁判所は合理的であると判断しました。

<1年未満の解除による敷金償却の合理性(※5)>

あ フリーレントの前提

3か月分のフリーレントの前提として
少なくとも1年間の契約期間を見込んでいる

い 敷金償却(前記※2)の趣旨

契約開始後1年以内の解除について
フリーレント相当分を撤回する趣旨である

う 評価

敷金償却には合理性がある
※東京地裁平成25年6月25日

7 明渡の遅延損害金の合理性

明渡が遅れた場合の遅延損害金の規定(合意)がありました。
違約金の一種です。
また,これ自体は一般的に多くの賃貸借契約に含まれるものです。
裁判所は合理的であると判断しました。

<明渡の遅延損害金の合理性(※6)>

あ 合意された遅延損害金の内容

明渡の遅延損害金(前記※3)=賃料の倍額
→1日あたり3万円となる

い マーケット的考察

一般的な賃貸借契約においてもされるものである

う 帰責性

契約終了したときにおいて
賃貸人がすみやかに明渡義務を履行することにより
遅延損害金の発生を免れることが可能である

え 評価

遅延損害金の合意には合理性がある
※東京地裁平成25年6月25日

8 裁判所の判断(結論)

以上のように,違約金や敷金の償却について,裁判所はいずれも合理的であると判断しました。
そこで,いずれの請求(償却)も有効であるという結論になりました。

<裁判所の判断(結論)>

あ 違約金・敷金償却の合理性

違約金・敷金償却・遅延損害金について
→いずれも合理性がある(前記※4,※5,※6)

い 賃借人への請求の有効性

公序良俗・消費者契約法に違反しない
→請求を認める

う 連帯保証人への請求の有効性

連帯保証契約に消費者契約法の適用があったとしても
消費者契約法に違反しない
→請求を認める
※東京地裁平成25年6月25日

9 他の実質フリーレント撤回の裁判例(概要)

フリーレントの実質的な撤回に関する裁判例はほかにもあります。
定期借家ではない一般の建物賃貸借の中途解除のケースで,フリーレントの撤回とともに,賃料2か月分の違約金が認められています。
この裁判例については別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|1年未満の解除によるフリーレントと礼金免除の撤回(裁判例)