【賃貸借契約の更新における旧法/新法の適用(賃借人・連帯保証人)】

1 賃貸借契約の更新における旧法/新法の適用(賃借人・連帯保証人)

平成29年の民法改正で,保証人に関するルールが変更されました。施行日である令和2年(2020年)4月1日より後に契約が締結された場合は改正後(新法)のルールが適用されます。
ここで問題となるのが,施行日より前から続いている賃貸借が,施行日後に更新された,というケースです。実は,更新の内容によって結論が違います。
本記事では,賃貸借契約の更新があった時に賃借人や(連帯)保証人に適用されるのは改正前(旧法)と改正後(新法)のどちらか,という問題について説明します。

2 平成29年改正後の保証人に関する主な条文

平成29年改正で,保証人に関するルールが大きく変わりました。どう変わったのか,ということを押さえておきます。
まず,保証契約書面として調印することが必要となりました。これについては,昔から建物賃貸借契約書などに保証人がサインするのが通常であったので,実質的な変化はないでしょう。
次に,保証人が個人である場合は,「極度額」を定めることが必要となりました。極度額を定めないと無効になってしまうのです。改正前の実際の賃貸借契約書に,保証の極度額が記載されているということは普通ありませんでした。これは大きな変化です。

平成29年改正後の保証人に関する主な条文

あ 民法446条(書面による調印)

第四百四十六条 保証人は,主たる債務者がその債務を履行しないときに,その履行をする責任を負う。
2 保証契約は,書面でしなければ,その効力を生じない
3 保証契約がその内容を記録した電磁的記録によってされたときは,その保証契約は,書面によってされたものとみなして,前項の規定を適用する。

い 民法465条の2(極度額の明示)

(個人根保証契約の保証人の責任等)
第四百六十五条の二 一定の範囲に属する不特定の債務を主たる債務とする保証契約(以下「根保証契約」という。)であって保証人が法人でないもの(以下「個人根保証契約」という。)の保証人は,主たる債務の元本,主たる債務に関する利息,違約金,損害賠償その他その債務に従たる全てのもの及びその保証債務について約定された違約金又は損害賠償の額について,その全部に係る極度額を限度として,その履行をする責任を負う。
2 個人根保証契約は,前項に規定する極度額を定めなければ,その効力を生じない
3(略)

3 賃貸借の更新と改正前/後の適用(まとめ)

この問題について,最初に,結論のまとめを示してしまいます。賃借人,保証人に,どちらが適用されるのか,という結論を記載しました。これは一般的な見解による結論です。実際の事案で,違う解釈となる可能性も一応ありえます。
詳しい説明は以下,順に説明します。

賃貸借の更新と改正前/後の適用(まとめ)

あ 全体のまとめ
賃借人 (連帯)保証人
法定更新 改正前 改正前
合意更新 改正後 保証人のサインの有無で決まる(後記※1
自動更新 改正後 保証人のサインの有無で決まる(後記※1
い 合意更新における保証人への適用(※1)
保証人のサインなし 改正前
保証人のサインあり 改正後
う 改正法施行日

令和2年(2020年)4月1日

4 合意更新の場合(改正後)

最初に,賃借人に適用される規定が改正前,後のどちらか,ということを説明します。連帯保証人についてはその後で説明します。
令和2年(2020年)4月1日以降に賃貸借契約の合意更新がなされた場合,賃借人には改正後の規定が適用になります。合意更新というのは通常,賃貸人と賃借人が更新契約書に調印するもののことです。

合意更新の場合(改正後)

・・・前者(当事者間の合意)については,契約の更新の合意の時点で,更新後の契約について新法が適用されることへの期待があるといえるので,施行日前契約の締結時点において当事者が有していた旧法適用への期待を保護する必要が失われている。
そこで,当事者の合意によって更新される場合には,更新後の契約には,新法が適用されることになると考えられる。
※筒井健夫ほか著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務2018年p383

5 民法上の更新推定の場合(改正後・参考)

民法には,賃貸借の更新推定の規定があります。これは推定なので,黙示の合意があることを前提とした規定であるといえます。そこで,合意更新と同じように,令和2年(2020年)4月1日以降の更新推定のケースは,改正後の規定が適用されます。ただし,後述しますが,建物賃貸借や借地(建物所有目的の土地賃貸借)にはこの更新推定は適用されません。

民法上の更新推定の場合(改正後・参考)

あ 見解

法律の規定に基づいて更新される場合としては,例えば,賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときに,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定される場合がある(民法第619条第1項)。
これは契約更新についての当事者の黙示の合意を根拠とするものであるが,そうすると,施行日以後に合意があったものと扱うのが論理的であり,かつ,この黙示の合意の時点で,新法が適用されることへの期待があるとも考えられるので,新法が適用されると考えられる。
※筒井健夫ほか著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務2018年p383

い 条文(民法619条1項)

賃貸借の期間が満了した後賃借人が賃借物の使用又は収益を継続する場合において,賃貸人がこれを知りながら異議を述べないときは,従前の賃貸借と同一の条件で更に賃貸借をしたものと推定する。この場合において,各当事者は,第六百十七条の規定により解約の申入れをすることができる。
※民法619条1項

6 借地借家法の法定更新の場合(改正前)

借地借家法が適用される賃貸借,つまり建物賃貸借と建物所有目的の土地賃貸借は,借地借家法の法定更新の規定が適用されます。これと重複する規定である,民法の更新推定の規定は適用されません。
借地借家法の法定更新では,当事者(賃貸人や賃借人)が(黙示も含めて)新たな合意をしたわけではありません。そこで,令和2年(2020年)4月1日以降に法定更新があったとしても,改正後の規定は適用されず,改正前の規定が適用される状態が維持されることになります。

借地借家法の法定更新の場合(改正前)

あ 見解

借地借家法では,法定更新が定められ,契約の更新をしたものとみなされることがあるが(同法第26条),これは当事者の意思に基づかないものであるから,契約更新の時点で当事者に新法が適用されることについての期待があるともいい難く更新後も旧法が適用されることになると解される。
※筒井健夫ほか著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務2018年p383

い 条文(借地借家法26条1項)

建物の賃貸借について期間の定めがある場合において,当事者が期間の満了の一年前から六月前までの間に相手方に対して更新をしない旨の通知又は条件を変更しなければ更新をしない旨の通知をしなかったときは,従前の契約と同一の条件で契約を更新したものとみなす。ただし,その期間は,定めがないものとする。
※借地借家法26条1項

7 自動更新の場合(改正後)

賃貸借契約書の中で自動更新のルールが設定されていることもよくあります。当事者(賃貸人と賃借人)が何もしなくても更新されるという意味では,法定更新と同じです。では,令和2年(2020年)4月1日以降に自動更新がなされたケースでは,法定更新と同じように改正前の規定が適用されるのでしょうか。結論はそうなりません。
自動更新の具体的な条項にはいろいろな文言のものがありますが,要するに当事者が契約を終了させない場合に更新されるというものです。
詳しくはこちら|建物賃貸借の法定更新の際の更新料支払義務(更新料条項の解釈)
当事者が終了させないという判断が介在しているともいえます。そこで,賃貸人と賃借人の意思が一致した(合意した)とも受け取れます。そのため,令和2年(2020年)4月1日以降の自動更新には改正後の規定が適用されると考えられます。
法定更新は元となるルールは法律であって,当事者が決めたわけではありません。自動更新は元となるルールは賃貸借契約の条項であり,当事者が決めた(合意した)ものです。この違いが結果の違いとして現れているということができるでしょう。

自動更新の場合(改正後)

当事者間の合意によって契度が更新される事例としては,・・・期間の満了前に両当事者のいずれかが異議を述べない限り,自動的に契約が更新されるケースが想定される。
自動的に契約が更新される場合でも,契約期間満了までに契約を終了させないという不作為があることをもって,更新の合意があったと評価することができると考えられる。
※筒井健夫ほか著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務2018年p383,84

8 「期間」の更新の場合

以上では,賃貸借契約の更新について説明しました。これと少しだけ違うものとして,期間の更新というものがあります。民法の平成29年改正で条文としても新たに登場しています。
とはいっても,実際には賃貸借契約の更新でも期間の更新でも根本的な違いがあるわけではありません。そこで,改正前と改正後のどちらの規定が適用されるか,という問題については,どちらの更新でも同じ扱いとなると考えられています。

「期間」の更新の場合

あ 見解

更新については,契約全体の更新という形式を取らず,期間の更新という形式が取られることもあると考えられるが,基本的には,同様に扱えば足りると解される。
※筒井健夫ほか著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務2018年p384

い 参考条文(民法604条)

(賃貸借の存続期間)
第六百四条 賃貸借の存続期間は,五十年を超えることができない。契約でこれより長い期間を定めたときであっても,その期間は,五十年とする。
2 賃貸借の存続期間は,更新することができる。ただし,その期間は,更新の時から五十年を超えることができない。
※民法604条

9 合意更新における保証人への適用

以上の説明は,賃借人に適用される規定が改正前,改正後のいずれか,というものでした。
ここから,(連帯)保証人に適用される規定についての説明に入ります。
まず,賃貸人と賃借人が合意更新をする状況を想定します。この場合,賃貸人・賃借人に加えて保証人も調印する方式と保証人は調印しない方式のふたつのタイプに分けられます。
保証人が調印しない方式では,保証契約については新たに締結したことになりません。令和2年(2020年)4月1日以降に合意更新がなされたケースでも,保証人については改正前の規定が適用される状態が維持されます。なお,平成9年判例で,賃貸借契約の保証人は更新に関与していない場合でも,賃貸借契約が続く限り,保証契約も続くことになっています。
合意更新の際,保証人が調印する方式では,保証契約を新たに締結したことになるので,保証人については(も)改正後の規定が適用されることになります。

合意更新における保証人への適用

あ 保証人による調印なし

賃貸借契約に付随して保証契約が締結されていることがあるが,保証に関する規定(新法第446条以下)の改正については,保証契約の締結時を基準として新法が適用されるか否かが定まることになる。
一般に,賃貸借に伴って締結される保証契約は,賃貸借契約が合意更新された場合を含めてその賃貸借契約から生ずる賃借人の債務を保証することを目的とするものであると解され(最判平成9年11月13日参照(後記※2)),賃貸借契約の更新時に新たな保証契約が締結されるものではない
そうすると,賃貸借契約が新法の施行日以後に合意更新されたとしても,このような保証については,新法の施行日以後に新たに契約が締結されたものではないから,保証に関する旧法の規定が適用されることになる。

い 保証人による調印あり

新法の施行日以後に,賃貸借契約の合意更新と共に保証契約が新たに締結され,又は合意によって保証契約が更新された場合には,この保証については,保証に関する新法の規定が適用されることになることは言うまでもない。
※筒井健夫ほか著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務2018年p384

う 賃貸借の保証の範囲(平成9年判例・参考)(※2)

賃貸借契約の保証人は,原則として,更新後に発生する(賃借人が負う)債務についても責任が及ぶ
※最判平成9年11月13日
詳しくはこちら|建物賃貸借の保証人(責任・契約更新・特別解約権・家賃保証会社)

10 法定更新における保証人への適用

次に,賃貸借契約が令和2年(2020年)4月1日以降に法定更新されたケースでは,保証人はどうなるでしょうか。保証人は新たな保証契約をしているわけではないので,改正前の規定が適用される状態が維持されます。

法定更新における保証人への適用

借地借家法第26条に基づき法定更新がされる場合としては,契約の更新をしない旨の通知をしたが,正当事由(同法第28条)がないために更新される場合と,契約の更新をしない旨の通知をしなかったことによって更新される場合とがあり得るが,この両者を区別することなく,いずれについても,施行日以後に法定更新がされた場合については更新後も旧法が適用されると解される。
※筒井健夫ほか著『一問一答 民法(債権関係)改正』商事法務2018年p384

11 連帯保証人への通知という対応方法と文面サンプル

連帯保証人に改正後の規定が適用される場合,賃貸人としては,極度額について連帯保証人と交渉して,一定の金額を了解してもらう必要が出てきます。改正前の規定が適用されるままであれば,そのような手間はかからず,また,保証の金額(極度額)の制限はないままとなります。
そして,保証人に改正前の規定が適用されるようにするためには,以上の説明でお分かりのように,保証人に調印させない(関与させない)方法をとればよいのです。
ただ一方で,保証人と連絡をとっていない状況が長期化すると,保証人が賃貸借契約の保証人となっていることを忘れるということがあり得ます。もちろんそれで保証契約が無効になることはありませんが,知らせておくことで,実際に保証人に請求することになった時に,不満を持たれることを回避でき,スムーズに回収が進むことにつながります。保証人への送る通知(手紙)の文面のサンプルを紹介しておきます。

連帯保証人への通知という対応方法と文面サンプル

あ 対応の工夫

賃貸人としては,更新の際に(連帯)保証人に調印(サイン)を求める場合は,極度額を示して同意してもらう(調印してもらう)必要がある
これを避けるには,そもそも連帯保証人に調印を求めなければよい(この場合には,従前の内容が継続した状態になる)
一方,連帯保証人に注意喚起をするために,通知をしておく,という方法はある(合意ではないので極度額を定める必要はない)

い 連帯保証人への通知の文面サンプル

以下の賃貸借契約について令和●●年●月●日,賃貸人と賃借人は,契約期間2年で合意更新しました。
(賃貸借契約の内容)
契約締結日 平成●年●月●日
賃貸人 ●●
賃借人 ●●
(物件所在地・名称・賃料)
連帯保証人である貴殿は,本件賃貸借契約が終了し,賃借人が建物を明け渡した上ですべての清算が終了するまで,連帯保証人としての責任を負っております。
なお,賃貸借契約書にも記載がありますが(●●条),ご住所,ご連絡先や勤務先(お仕事)に変更がありましたらお知らせくださいますよう,あわせてお願いします。
貴殿に,何らかの手続をお願いすることはありませんが,念のためお知らせする次第です。

本記事では,令和2年(2020年)4月1日以降の賃貸借契約の更新の際,賃借人や連帯保証人には改正前(旧法)と改正後(新法)のどちらが適用されるのか,という問題を説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に賃貸借契約や連帯保証に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【サブリースの終了(更新拒絶)における正当事由の判断と明渡(占有移転)の方式】
【共有であるかどうか・持分割合の認定(民法250条の推定・裁判例)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00