【建物賃貸借の保証人(責任・契約更新・特別解約権・家賃保証会社)】
1 建物賃貸借の保証人(責任・契約更新・特別解約権・家賃保証会社)
建物の賃貸借では,通常,連帯保証人が必要となります。本記事では,(連帯)保証人が負う責任や契約更新との関係など,保証人の法的扱いを全体的に説明します。
2 連帯保証人の負担の主な内容
賃借人が家賃を支払わない(支払えない)場合,賃貸人(オーナー)は困ります。そのような時に,代わりに家賃を支払う,というのが連帯保証人の基本的な構造です。
連帯保証人が負う責任(保証債務)の内容を整理すると,家賃(賃料),管理費だけでなく,更新料,原状回復費用,遅延損害金など,本来賃借人が支払うべき金銭すべてが対象となっています。
連帯保証人の負担の主な内容
あ 家賃・管理費
賃借人が滞納した場合
い 更新料
う 原状回復費用
え 遅延損害金
3 建物賃貸借更新後の保証人の責任(平成9年判例)
賃貸借契約を締結する局面で,連帯保証人が契約書に調印(サイン・押印)することになります。その後,2,3年ごとに契約更新がありますが,更新の契約書に連帯保証人は調印しないことが多いです。
では,連帯保証人が負う責任(保証債務)は,更新後まで続くのか,という問題があります。この点,民法619条2項は,敷金以外の担保は更新後には続かない(消滅する)と規定しています。
では,人的担保である保証債務も消滅するのでは,という発想がでてきます。しかし,平成9年判例が,長期間更新が続いても,保証人の責任は続くと判断しています。
建物賃貸借更新後の保証人の責任(平成9年判例)(※1)
※最判平成9年11月13日
4 定期借家・借地の保証への適用(参考・否定)
連帯保証人の責任が更新後も続く,というのは通常の建物賃貸借(普通借家)が前提です。定期借家では文字どおり期間が定まっていて更新がないので,仮に再契約があったとしても,再契約後まで保証債務が続くことにはなりません。
保証債務を継続させたい場合は,再契約の契約書にも連帯保証人の調印をもらう必要があります。
定期借家・借地の保証への適用(参考・否定)
あ 定期借家への適用(否定)
定期借家は更新がない(想定されていない)ので,平成9年判例の解釈は適用されないと思われる
い 借地への適用(否定)
本判決(平成9年判例)は,建物賃貸借の場合に関するものであって,借地保証については,本判決の射程外ということになろう。
※『判例タイムズ69号』p126〜
5 更新後に保証人の責任が否定される状況
前述のように,一般的な建物賃貸借では,更新後にも連帯保証人の責任が継続するのが原則です。しかし例外もあります。
例外的に更新後に保証債務が継続しないことになる事情にはいろいろなものがありますが,明確な(確実に判断できる)基準というものはありません。
たとえば,家賃の滞納が膨れ上がっているのに賃貸人が解除もせず,また連帯保証人に知らせていなかった,というようなケースでは,連帯保証人にとって不意打ちになるので,更新後の滞納については連帯保証人に支払義務はないということになることがあります。
更新後に保証人の責任が否定される状況
あ 平成9年判例における例外の指摘
・・・反対の趣旨をうかがわせるような特段の事情のない限り,・・・保証の責めを負う趣旨で合意がされた・・・
保証債務の履行を請求することが信義則に反すると認められる場合には保証人は責任を負わない
※最判平成9年11月13日(前記※1)
い 特殊な事情の典型例
ア 長期間の賃料の滞納
賃借人が長期間にわたり,賃料の支払を怠っている
イ 保証人への連絡不備
賃貸人が保証人に,保証債務の発生(滞納など)について連絡しなかった
ウ 契約終了の手段の不行使
保証債務(滞納など)が生じていたのに,賃貸人が契約の更新拒絶・解約をしなかった,または合意更新に応じた
エ 賃借建物の損壊
賃借人が故意に建物を大きな規模で損壊した
※塩崎勤稿『判例タイムズ1005号 臨時増刊 主要民事判例解説』p82〜
う 判例・裁判例
ア 昭和51年東京地裁
債務名義(和解調書)があり,明渡の強制執行が容易であった
それにも関わらず,賃貸人は賃借人に使用を継続させた
→保証人の責任が否定された
※東京地裁昭和51年7月16日
ウ 平成6年東京地裁
滞納していたにも関わらず,2回の合意更新がなされた
→保証人の責任が否定された
※東京地裁平成6年6月21日
エ 平成10年東京地裁
更新時には,延滞額が200万円に達していたが,賃貸人は解除せず,法定更新となった
その後,賃料延滞は400万円を超えた
→更新後の賃料債務について,保証人の責任が否定された
※東京地裁平成10年12月28日
6 平成29年改正民法による保証への影響(概要)
ところで,(連帯)保証のルールは,平成29年の民法改正で大きく変わりました。特に極度額を定める必要があることになったのは重要です。
令和2年(2020年)4月1日以降の契約で連帯保証人が負う債務の極度額が定められていないと保証契約自体が無効となります。
では,それ以前から続いている賃貸借契約が,令和2年(2020年)4月1日以降に更新となった場合は,連帯保証人はどのように扱われるでしょうか。これは,更新の仕方によって違ってきます。このことは別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|賃貸借契約の更新における旧法/新法の適用(賃借人・連帯保証人)
7 保証人による特別解約権
(連帯)保証人の立場からすると,家賃の滞納が続いている場合,自身が負う債務が増え続ける(払い続ける必要がある)ことになります。
この点,賃貸借契約を解約(解除)すれば,それ以上滞納が増えないことになります。しかし,保証人は,賃貸借契約の当事者ではないので,解約はできないのが原則です。
これについて,保証人の負担が異様に大きくなっているようなケースで,例外的に保証人による解約が認めた裁判例があります。正確には,解約できる基準が示されました。ただ,当該事案では,預託していた保証金が多額だったので,保証人の支払義務(滞納額が保証金を超過した分)は賃料1か月分程度でした。そこで,保証人の責任が著しく増大とはいえないと判断され,保証人による解約は認められていません。
保証人による特別解約権
あ 保証人による解約
「い」のすべての条件を満たす場合,保証人が賃貸借契約の解約(解除)をすることができる
い 要件
ア 根保証
賃貸借契約における保証人が金額・期間の定めのない保証をしている
イ 長期間の不履行
貸借人が賃料債務の履行を長期間怠っている
ウ 賃借人の資産状況の悪化
賃借人に,契約当初予見できなかった資産状態の悪化があった
エ 保証人の負担の増大
将来保証人の責任が著しく増大することが予想される
※東京地裁昭和51年7月16日
8 建物賃貸借の保証人になる者の典型例
ところで実際に,建物の賃貸借契約で(連帯)保証人となるのはどのような人でしょうか。
賃借人の家族(近親者)や,同じ職場の人が求められることが多いです。最近は,そのような個人ではなく,家賃保証会社に保証人になってもらう,というケースも多いです。
建物賃貸借の保証人になる者の典型例
あ 典型的な人選
ア 賃借人の身内のうち誰かイ 賃借人と同じ職場の従業員個人 例=上司や同僚
い 最近の傾向
賃貸人側が家賃保証会社を紹介・指定するケースもある
賃借人が一定の保証料を負担する
9 家賃保証業務に関する法規制
前述のように,建物賃貸借の業界では,家賃保証会社による家賃保証サービスが普及しています。家賃が滞納となった場合,家賃保証会社が代わりに賃貸人に支払い,その後,家賃保証会社が賃借人に請求(求償)します。つまり取り立てるのです。
この点,金融業の場合は貸金業法が適用され,取り立てについては厳しいルールが課せられています。家や職場への訪問や早朝,深夜の取り立てが禁止される,というようなルールです。
しかし,家賃保証サービスには貸金業法は適用されず,それ以外にこのサービスを規制する法令は今のところありません。
結局,家賃保証会社は公的審査がなされていないということです。利用する際は信用できる家賃保証会社かどうかを確認した方がよいでしょう。しっかりした仲介業者が紹介する事業者は安心できます。この点たとえば,成約だけを優先させて,審査の甘い家賃保証会社を紹介する(その後家賃滞納などのトラブルが起きやすい)仲介業者もある,という指摘もあります。
家賃保証業務に関する法規制
あ 金銭貸付の保証(参考)
金銭の貸付についての保証は,貸金業に該当する
貸金業の登録が必要である
※貸金業法2条3項,3条
い 家賃保証と貸金業法の関係
家賃保証は金銭の貸付の保証ではない
→貸金業に該当しない
=貸金業登録は不要である
う 新たな法規制の議論(廃案)
家賃保証業適正化法が国会で審議された
→平成23年末に廃案となった
え 結論
現在,家賃保証サービスを対象とする法規制はない
=許認可や登録をしなくても事業を行える
本記事では,建物賃貸借の保証人の法的扱いについて全体的に説明しました。
実際には,個別的な事情によって,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に,賃貸借や連帯保証人に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。