【全面的価格賠償に対する否定的な見解(要件の厳格な適用)】

1 全面的価格賠償に対する否定的な見解

共有物分割の分割類型(分割方法)の1つに、全面的価格賠償があります。この分割類型は平成8年判例で認められ、その後実務で定着し、令和3年改正の民法で条文の規定となりました。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の基本(平成8年判例で創設・令和3年改正で条文化)
特に、平成8年判例の直後には、全面的価格賠償という分割類型を批判する見解もありました。今でも、共有物分割の実際の案件における主張の中で、このような理論(批判)を活用できることもあります。本記事では、全面的価格賠償に対する否定的な見解を紹介、説明します。

2 奈良氏見解=全面的価格賠償は違憲・立法権侵害である

奈良次郎氏は、平成8年最判による全面的価格賠償の採用を真正面から批判しています。最初に、裁判所の裁量(判断)の範囲、という形式面から、実質的な立法権を侵害している、違憲である、という趣旨の指摘をします。
要するに、(当時の)民法の条文上は分割類型が2つに限定されていたので、分割類型の3つ目として創設することは裁判所の立場では許されない、やるとしたら立法(国会)が条文として3つ目の分割類型として規定すべきである、ということです。なお、この悲願は令和3年にようやく叶いました(後述)。

奈良氏見解=全面的価格賠償は違憲・立法権侵害である

・・・同条二項(注・令和3年改正前の民法258条2項)は、明確に規定されていない別個・独立の共有物の分割方法が存在することを予定していない規定である。
この二項に規定する競売による分割と一項に定める現物分割以外の共有物の分割方法は特に規定されていないのだから、別個独立の分割方法を定めるということは、これらと対等・独立した共有物分割方法を新たに創設するということで、性質上、裁判所の裁量権によって創設することは許されない。
本来裁判所の裁量によって形成されるべき性質のものではない、別個・独立の分割方法であること自体、最高裁判決自身が認めているともいえる。
実質的に民法二五八条二項の一部改正であって、新たな分割方法の創設なのである。
本件一連の判決の論理運びからいえば、受訴裁判所の裁量権の行使の対象とはならない筈のものである。
にもかかわらず、これを敢えて肯定したことは、具体的妥当性の追求の余りに、実質的に、立法権を行使したものと評価すべきもので、解釈論の限界を超えた理論構成である。
今後の、民法等の解釈論等にも大きな影響を与える可能性があるもので、法の柔軟な解釈・適用の下に、いわば限界を解き放たれた法解釈論の可能性を許容するものと解することができる。
※奈良次郎稿『共有物分割訴訟と全面的価格賠償について』/『判例タイムズ953号』1997年12月p44

3 奈良氏見解=批判と手続の整備(立法)の必要性

奈良氏は別の角度からも、全面的価格賠償を批判しています。現物分割が優先されるという枠組みから外れる、また、裁判所が不動産の評価を適切に行うことができる体制ができていない、というようなことを理由にしています。

奈良氏見解=批判と手続の整備(立法)の必要性

あ 現物分割の軽視と不動産評価の困難性への配慮不足

最近の前記最判平成8年10月31日の一連の判決を読むと、何かしら、従来の共有物分割訴訟に関する民法の(明文)規定を一体どう理解すべきなのかという感じを強く受ける。
従来の基本的な理解である、共有物自体の現物分割が基本であるという、いわば基本構造の理解が無視された結果を、しかも、評価の現実の実体についても(私からみれば)暖味模糊のままに、裁判所によりなされた評価が常に的確であり、また、そのような評価が常に可能であるとの前提に立っていることにすら、大きな疑問を感じる。

い 裁判所による的確・妥当な判断への疑問

いや、それ以上に、裁判手続による評価自体が客観的に実際上全て的確であるという絶対的な信念に基づいているかのような感じのようにも受ける
しかし、裁判所の公正(このことには、常に信頼をおいてよいだろう)に絶大な信頼を与えることと、現状はそれに相応しい的確・妥当な裁判を常にしているかということとは、必ずしも一致せず、別なこともあり得るということ、即ち、調査のうえの実証的検討が必要のように思われる。
そのようなことに留意する必要はあろう。

う 評価手続(制度)の整備の不足

評価手続においても、裁判所に強い権限を與えるのであれば、それに相応しただけの各種の対応手段(関係当事者に対しても)をも與えることが必要であろう。
その各種の手段を與えないままに、既成事実を作り上げることは、必ずしもよいことではないと考える。
善きにつけ、悪しきにつけ、適切妥当な対応手段を講じることができる程度に、民法上での対策を講じる必要があろう。
これなしに何となく色々な方法を案出するのは、具体的妥当性ばかりを追求していくだけで、それに見合うだけの対策的な適当な手段を與えないままでは、現実に関係する当事者・利害関係人等のみならず、一審等の裁判官を困らせるか、それとも安易に基本原則が不明確なままに流されてしまうことを容認することになるのでないか。
このままでは、結局、従来のというか現在の条文では、賄えない問題が生じてくるのでないだろうか。
丁度、いわゆる仮登記担保を巡る一連の判決により形成された判決法理では手続的には対応しきれなくなる懸念が生じて、いわゆる仮登記担保法が制定されたときと同様に、共有物分割訴訟でも、数は多くないけれども、理論的には、明文上、的確に対応することができる限度ないし程度を超えてしまうのではないかという感じを受ける。
このような状態になったのであれば、むしろ、特則等の基準を明確かつ的確に定め、現在の家事審判規則に定めているような手続規定も定めて、その限度を明確にした上での規定を整備することが必要でありかつ妥当なことではないだろうか。
ただ、前述のように、事件数が必ずしも多くないことが、緊急の必要性を薄め、立法上の解決を遅くすることになるかも知れない。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p13、14

4 奈良氏見解=理論への批判と実務における検討の切り分け

前述のように、奈良氏は全面的価格賠償の理論面を批判し、さらに「過ちを改める」べきであると強くコメントしています。
その一方で、現実には(実務では)全面的価格賠償が定着するのであるから、実務では判例の理論を前提として(全面的価格賠償が認められている前提で)検討をする必要がある、という指摘もしています。

奈良氏見解=理論への批判と実務における検討の切り分け

私個人は、「全面的価格賠償方式」には、大きな疑問を有することは、前掲「共有物分割訴訟と全面的価格賠償方式」において述べた通りであるが、最高裁判決が、小法廷(第一小法廷)であっても、関与裁判官五人の全員一致で、三件もなされたことだし、さらには、第二小法廷でも、関与裁判官四名全員一致で、同趣旨に近い判決がなされたことに照らすと、共有物分割訴訟においても、金銭的価格賠償方式が、裁判実務を支配することは明らかである。
判決論理に対する批判は批判として、私は、主張するが、裁判実務上の立場からみて、判例の立場を踏まえた上での裁判実務的見地から検討を加えることは、不当ではない。
もちろん、過ちを改めるに、はばかることなかれということは望ましいことであるが、そのことと、別個の見地からの検討とは、全く違うことである。
※奈良次郎稿『全面的価格賠償方式・金銭代価分割方式の位置付けと審理手続への影響』/『判例タイムズ973号』1998年8月p23

5 直井氏見解=批判と「特段の事情」を狭く解釈する提唱

直井義典氏も、全面的価格賠償を批判しています。全面的価格賠償では、共有者が、現物を得る者金銭を得る者に分かれるので、形式的公平が維持されないととと、(奈良氏と同様に)不動産の評価の困難性を理由として挙げています。
その上で直井氏は、「特段の事情」を狭く解釈する、つまり、全面的価格賠償を選択する判断を大きく制限するということを提唱しています。

直井氏見解=批判と「特段の事情」を狭く解釈する提唱

あ 批判(結論)

(遺産分割との比較を前提として)
・・・、一般の共有の事案においても全面的価格賠償を認めることには、躊躇せざるをえない

い 形式的公平性を害する

全面的価格賠償によると共有者のうちの一部の者は現物を一部の者は金銭を取得することになるため、民法典の定める分割方法とは異なり、共有者間の形式的公平が満たされないからである。
全面的価格賠償を認めることは、いわば私的収用を行うこととなるのである。
現物の価格が大きく変動しているような場合には特に共有者間に不公平をもたらしかねない。

う 適正評価の困難性

さらに、全面的価格賠償の前提となる共有物価格の適正な評価も非常に困難である。
・・・

え 厳格な解釈の提唱

したがって、今後、裁判所としては「特段の事情」につき、狭く解釈することで対処すべきと考える。
私見としては、全面的価格賠償は家事審判規則109条(注・当時)の明文規定のある遺産分割と実態として類似するものに限定して認められるべきと考える。
この点、一般の共有物分割と遺産類似の共有物の分割との違いを重視しない本判決の判示には疑問がある。
※直井義典稿『いわゆる全面的価格賠償の方法による共有物分割の許否』/『法学協会雑誌115巻10号』1998年p1587

6 実務の運用との乖離(参考)

以上のように、全面的価格賠償という分割類型自体への批判もありますが、実務では、全面的価格賠償は有用な分割類型として定着し、多くの案件で活用されています。さらに、令和3年改正で、3つ目の分割類型として民法の条文に明記されるに至っています。
詳しくはこちら|令和3年改正民法258条〜264条(共有物分割・持分取得・譲渡)の新旧条文と要点
つまり、以上で紹介、説明した批判(見解)は実務でそのまま受け入れられているわけではありません。
一方、個々の共有物分割の事案の中で主張の中で活用できることはありますので、今でも、以上の見解(議論)は有用です。

本記事では、全面的価格賠償という分割類型に対する否定的な見解を説明しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
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【全面的価格賠償の法的性質(現物分割・部分的価格賠償との比較・創設なのか)】
【全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情】

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