1 差押の処分制限効と使用制限効
2 差押の処分制限効の内容
3 差押の処分制限効の手続相対効
4 形式的競売における差押登記と処分制限効
5 差押によって債務者の通常の使用は制限されない

1 差押の処分制限効と使用制限効

不動産の競売手続における差押によっていろいろな法的効力が発生します。
詳しくはこちら|不動産競売における差押の効果の全体像
差押の効力のうち主要なものは債務者による処分を制限する効力です。
一方で,使用を制限する効力はとても小さいです。
本記事では,この2つの効力(処分制限効と使用制限効)の内容を説明します。

2 差押の処分制限効の内容

差押の処分制限効は,不動産の交換価値の維持が目的です。
一般的に処分によって交換価値は減少したりゼロになったりします。
そこで,処分は全面的に制限されます。
ただし第三者に対して主張するには差押登記が必須となります。

<差押の処分制限効の内容>

あ 制限される債務者の処分の内容

不動産の交換価値を損なう債務者の一切の処分が制限される

い 制限される処分の典型例

所有権の譲渡
第三者に用益権や担保権を設定する行為

う 対抗力

差押の登記により処分制限効を第三者に対抗できる
※民法177条
詳しくはこちら|対抗要件・登記の基本|種類・獲得時期・不完全物権変動・単純/背信的悪意者

3 差押の処分制限効の手続相対効

差押によって債務者の処分が制限されます(前記)。
この制限の内容は単純ではありません。
つまり,違反する債務者の行為があった場合に,この行為が完全に無効になるわけではないのです。
差押債権者が優先されるにとどまります。
処分の当事者,つまり債務者と処分の相手方の間では有効となるのです。

<差押の処分制限効の手続相対効>

あ 手続相対効の採用

差押の効力は手続相対効が採用されている

い 手続相対効の内容

差押に遅れる債務者の処分であっても
債務者と処分の相手方(第三者)間では有効である
=処分制限は債権者の権利確保の目的の範囲内に限定する
※民事執行法87条1項4号,87条2項,3項,59条2項,3項参照
※浦野雄幸編『基本法コンメンタール 民事執行法 第6版』日本評論社2009年p153

4 形式的競売における差押登記と処分制限効

共有物分割の換価分割などによって形式的競売がなされることがあります。
詳しくはこちら|共有物分割の主な分割類型には現物分割・換価分割・価格賠償がある
形式的競売は一般的な競売と似ていますが,違うところもあるので注意を要します。
実務では差押の登記は行われています。
そして,差押による処分制限の効力も認める見解が一般的です。

<形式的競売における差押登記と処分制限効>

あ 登記の嘱託

競売開始決定がなされる
裁判所書記官は開始決定に基づき差押の登記の嘱託をする

い 処分を制限する効力(肯定)

差押に処分制限効を認める見解が多い

う 反対説

目的物に対する処分を制限する実体法上の権利はない
→差押登記は処分を制限するものではない
このような見解もある
※深沢利一著『民事執行の実務(中) 補訂版』新日本法規出版2007年p1105,1106

5 差押によって債務者の通常の使用は制限されない

差押には使用制限の効力もありますが,非常に小さい範囲に限られます。
債務者自身による居住や,収益物件の賃料の受領は制限されません。
新たに第三者に賃貸するような行為だけは制限されます。
仮にこれを債務者が行ったとしても,差押債権者が優先されるということになるのです。

<差押の使用制限効>

あ 条文規定

差押は,債務者が通常の用法に従って不動産を使用or収益することを妨げない
※民事執行法46条2項

い 具体的な状況

売却により債務者が所有権を失うまでは
債務者は不動産の使用収益を継続できる

う 通常の用法の使用収益行為の例

ア 債務者自身が使用する
イ 賃料を収受する
ウ 賃貸借を同一条件で更新する
※広島高裁岡山支部昭和50年2月24日

え 通常の用法に含まれない行為の例

新たに用益権を設定する行為
例=賃借権
→差押債権者・買受人に対抗できない
→買受人の引渡命令の対象となる
詳しくはこちら|競売の買受人は引渡命令申立ができる
※浦野雄幸編『基本法コンメンタール 民事執行法 第6版』日本評論社2009年p153