【実行していない先行抵当権を基準として法定地上権の成否を判断する】

1 実行していない抵当権と法定地上権の判断基準時点
2 法定地上権の成立要件(概要)
3 一般債権の競売でも法定地上権は抵当権が基準
4 一般債権の競売の法定地上権の抵当権基準の例外
5 複数抵当権のうち第1抵当権で法定地上権を判断する
6 土地の強制競売における建物の抵当権の影響
7 抵当権がある不動産を対象とする形式的競売における法定地上権(概要)

1 実行していない抵当権と法定地上権の判断基準時点

不動産の競売を申し立てた者以外の抵当権が対象不動産に設定されていることもあります。実行していない抵当権が既に存在するという状況です。
このようなケースでは,どの時点を基準にして法定地上権の成立を判断するかが1つに定まらないといえます。
本記事では,実行していない先行抵当権があるケースでの法定地上権の判断について説明します。

2 法定地上権の成立要件(概要)

まず最初に,一般的な法定地上権の成立要件を確認しておきます。

<法定地上権の成立要件(概要)>

あ 法定地上権の成立

『い・う』の両方に該当する場合
→法定地上権が成立する

い 土地・建物の同一所有

『ア・イ』の時点で土地・建物の所有者が同一であった
ア 抵当権実行について→抵当権設定時点イ 強制競売(一般債権による競売)→差押時点

う 競売による所有者の食い違い

競売の結果,土地・建物の所有者が異なるに至った
※民法388条
※民事執行法81条
詳しくはこちら|法定地上権の基本的な成立要件

3 一般債権の競売でも法定地上権は抵当権が基準

抵当権者ではない一般債権者が不動産の強制競売を申し立てるケースがあります。
このような競売手続や,あるいは公売の手続において,既に抵当権が設定されている場合には,この抵当権を基準にして法定地上権の判断をします。
要するに,抵当権者が把握・想定している価値を保護(維持)する趣旨です。

<抵当権者以外による競売と法定地上権(原則)>

あ 先行する抵当権設定(※1)

不動産に抵当権が設定された
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていた

い 強制競売または公売(※2)

『ア・イ・ウ』のいずれかが行われた
ア 抵当権者以外の一般債権者が強制執行をしたイ 抵当権者が債務名義に基づいて強制執行をしたウ 公売がなされた

う 法定地上権の成否

土地と建物の所有者が異なるに至った場合
→民法388条により法定地上権が成立する
※大判大正3年4月14日
※最高裁昭和37年9月4日
※森田修編『新注釈民法(7)物権(4)』有斐閣2019年p194,195
※柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p387
※柚木馨ほか編『新版 注釈民法(9)物権(4)』有斐閣1998年p576,577

お 民法388条と民事執行法81条の関係

民事執行法81条(・国税徴収法127条)の規定は民法388条の補充規定であり,民法により法定地上権が成立するとされる場合には適用されない
※田中康久『新民事執行法の解説 増補改訂版』金融財政事情研究会1980年p159
※浦野雄幸『逐条解説民事執行法 全訂版』商事法務研究会1981年p178

4 一般債権の競売の法定地上権の抵当権基準の例外

一般債権者の強制競売申立では,既に設定されている抵当権の設定時点を基準に法定地上権の成立要件を判断します(前記)。
しかし,競売手続の最後の売却の時点までに,先行する抵当権が消滅すると,判断の基準時点は変わります。
既に先行する抵当権者への配慮は不要なので,原則に戻って,差押時点を基準に判断することになります。

<抵当権者以外による競売と法定地上権(例外)>

あ 先行する抵当権設定

土地or建物に抵当権が設定された(前記※1
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていた

い 抵当権者以外による競売

抵当権者以外により競売申立or公売がなされた(前記※2

う 差押時の所有者の食い違い

差押の時点において
土地と建物の所有者が異なっていた
=約定土地利用権の設定がなされているはずである

え 抵当権消滅

売却までに抵当権が消滅した

お 法定地上権の成否

民法388条によっても法定地上権の成立は認められない

か 考え方

先行する抵当権が既に消滅しているので
この抵当権を基準として判断することにはならない
※大判昭和9年2月28日;同趣旨
※柚木馨ほか編『新版注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p387

5 複数抵当権のうち第1抵当権で法定地上権を判断する

複数の抵当権が設定されているケースもよくあります。
後順位(第2)抵当権が実行された場合でも,法定地上権の判断は第1抵当権を基準にします。
要するに,第1抵当権者が想定・把握している価値を保護(維持)する趣旨です。

<複数の抵当権と法定地上権>

あ 第1抵当権の設定

第1抵当権が設定された
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていた

い 第2抵当権の設定

第2抵当権が設定された
この時点での法定地上権の成立要件は満たされていなかった

う 第1抵当権の実行と法定地上権の成否(参考)

第1抵当権が実行された場合
→法定地上権は成立する(当然といえる)

え 第2抵当権の実行と法定地上権の成否

第2抵当権が実行された場合
→法定地上権は成立する

お 考え方

先行して設定された(第1)抵当権を基準として判断する
※大判昭和14年7月26日
※最高裁平成2年1月22日;傍論において
※名古屋高裁平成7年5月30日
※柚木馨ほか編『新版注釈民法(9)物権(4)改訂版』有斐閣2015年p352

6 土地の強制競売における建物の抵当権の影響

以上の説明は,担保権設定のある不動産について,他の担保権の実行や強制執行(や公売)がなされたというケースの扱いです。
この点,土地について強制競売(や公売)がなされた時に,建物に抵当権が設定されているとしても,これは当該競売手続で法定地上権が成立するかどうかの判定に影響しません。もちろん,土地と建物が逆になっても同じです。

<土地の強制競売における建物の抵当権の影響>

あ 一般的見解

土地と建物のうち,抵当権の設定されていない方の不動産について強制執行が行われた場合は,民事執行法81条が適用される
※森田修編『新注釈民法(7)物権(4)』有斐閣2019年p194,195

い 具体的扱い

当該強制執行の差押の時点を基準として,法定地上権の成否を判断する

7 抵当権がある不動産を対象とする形式的競売における法定地上権(概要)

形式的競売の場合に法定地上権が適用されるかどうかについては統一的な見解がありません。しかし,対象不動産に抵当権が設定されている場合には,法定地上権が適用されるのが一般的見解です。
詳しくはこちら|形式的競売における法定地上権の適用の有無

本記事では,最先順位の抵当権の実行以外による競売がなされた時に法定地上権はどのように扱われるかを説明しました。
実際には,個別的な事情によって結論が違ってくることもあります。
実際に抵当権(担保権)や競売に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【不動産競売における差押の処分制限効と使用制限効(民事執行法46条)】
【法定地上権の物理的要件(設定時に建物が存在すること)の解釈論】

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