1 競売の買受人は簡易的な明渡手続を利用できる;引渡命令
2 引渡命令の相手方は対抗力のある占有権原がない者に限定される
3 引渡命令の申立ができるのは代金納付日から6か月だけ

1 競売の買受人は簡易的な明渡手続を利用できる;引渡命令

(1)一般的な明渡の強制執行は訴訟が必要

強制的に明渡を実現するには,明渡の強制執行をすることになります。
その前提として,一般的には,確定判決が必要です(民事執行法22条1号)。
別項目;強制執行するためには一定のアイテムが必要;債務名義
つまり,買受人(新所有者)が占有者に対し(所有権に基づく)明渡請求訴訟を提起し,勝訴(認容)判決を獲得することが必要なのです。
しかし,この方法は,要は,正式裁判を提起し,判決まで進めることになるので,時間・手間(コスト)がかかります。

(2)競売の買受人は簡略的な引渡命令の申立ができる

そこで,法律上,買受人専用の簡易手続が用意されています。
引渡命令というものです(民事執行法83条)。
この手続きは,基本的に書面審査で,かつ,審査対象・方法も形式的・簡易的です。
一定の要件を満たしていれば,1週間程度で決定(命令)が発令されます。
このように,時間・手間・費用といったコストが大幅に削減できます。

2 引渡命令の相手方は対抗力のある占有権原がない者に限定される

引渡命令は簡易で便利なのですが,利用できる対象が限定されています。

引渡命令の対象(まとめ)>

占有者に,対抗力のある占有権原がない場合
典型例=旧所有者

具体的には,次のようにもまとめられます。

引渡命令の対象となる占有者>

・債務者(旧所有者)
物件明細書上,占有権原が認められていない占有者
 =『2 買受人が負担することとなる他人の権利の欄』に記載されていない占有者
※民事執行法83条1項

引渡命令の手続きは非常に簡易・迅速です。
逆に,強制的な明渡執行を受けるべきことが明らか=審査が簡単,という場合に限定して認められるのです。
上記の,物件明細書とは,競売の対象となる不動産の権利関係がコンパクトにまとめられた資料のことです。
物件明細書の中に,占有者の権利についてコメントされている欄があります。
通常は,『2 買受人が負担することとなる他人の権利』という欄に記載されています。
このように物件明細書の記載を基準に判断する理由は,簡易・迅速というスタイルにあります。
つまり,形式的な判断基準を定めておかないと,審査,つまり事実認定に時間がかかってしまうのです。

3 引渡命令の申立ができるのは代金納付日から6か月だけ

(1)引渡命令の申立時期の制限

引渡命令の申立は次のような期間制限が設定されています。

<引渡命令の申立可能期間>

あ 通常(明渡猶予期間の適用なし)

→代金納付から6か月

い 明渡猶予期間の適用あり

→代金納付から9か月
※民事執行法83条2項

(2)期間制限の趣旨

仮に,競売から長期間が経過した場合は,一般論として,占有権原に変化がある可能性が出てきます。
そうなると,明渡の可否を慎重に審査すべき,ということになります。
引渡命令は特別な例外としての簡易手続きなので期間制限が設定されているのです。
原則は6か月間,です。
ただし,明渡猶予期間が適用される場合は,原則として6か月間は明渡を請求できません。
そうすると,やっと引渡命令申立ができるようになった瞬間に期間切れとなってしまいます。
そこで,明渡猶予期間が適用される場合は,申立可能期間は9か月とされているのです。