【借地上の建物の『修繕』の意味と修繕禁止特約の有効性】

1 『修繕』の意味と借地借家法での扱い(総論)
2 『修繕』の意味と具体例
3 修繕の規模と『増改築』への該当性
4 修繕を禁止する特約の有効性
5 建築基準法の大規模修繕の意味と建築基準法の扱い
6 大修繕と『朽廃』の関係(概要)

1 『修繕』の意味と借地借家法での扱い(総論)

借地上の建物の修繕は,規模によっては『増改築』に該当します。
つまり,増改築禁止特約で禁止される工事になるのです。
詳しくはこちら|増改築禁止特約における『増改築』の意味と解釈
実際に,行った修繕が増改築に該当するかしないか,という点で見解の対立が生じるケースが多いです。
本記事では『修繕』の意味や増改築として扱われる基準について説明します。・

2 『修繕』の意味と具体例

まず,理論的には『修繕』は『増改築』とは別の概念です。
しかし,実際の工事としては区別は不明確です。
つまり,どちらともいえるような工事があり得るのです。

<『修繕』の意味と具体例>

あ 一般用語としての『修繕』の意味

『修繕』という用語の一般的な意味について
→目的物の完全な使用収益を妨げる障害を除去し,完全な使用収益ができるように従前の状態とほぼ同じ状態に修復すること
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p223,224

い 借地借家法の『修繕』と『増改築』の関係

『修繕』は,『増改築』とは別の概念である
実際には区別は明確ではない

う 『修繕』の具体例

屋根瓦が破損し雨漏りが生じている状況において
従前の瓦を破損していない瓦に取り替える行為
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p224

3 修繕の規模と『増改築』への該当性

『修繕』のつもりであっても,規模が大きいと『増改築』に該当します。
規模が小さいと『増改築』とはまったく別の概念となります。
判別する基準としては,建物の耐用年数への影響の程度といえます。

<修繕の規模と『増改築』への該当性>

あ 修繕の規模と借地借家法の扱い
建物の耐用年数への影響 借地借家法における扱い
大きく影響を及ぼす 改築(増改築)に該当する
大きく影響を及ぼさない 通常の修繕である
い 『大修繕』の法的位置づけ(※1)

借地関係では『大修繕』は『増改築』そのものである
→『大修繕』という概念は不要である
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p224

う 『通常の修繕』の法的位置づけ

通常の修繕は建物の維持,保存の範囲内である(後記※2

4 修繕を禁止する特約の有効性

大修繕は『増改築』と同じなので,これを禁止する特約は原則的に有効です。
一方,純粋な『修繕』(通常の修繕)については,これを禁止することは不合理です。
そのような特約は無効となります。

<修繕を禁止する特約の有効性>

あ 大修繕禁止特約の有効性

大修繕は『増改築』そのものである(前記※1
大修繕を禁止する特約について
→増改築禁止特約と同じ扱いとなる
→原則的に有効である
詳しくはこちら|借地契約の増改築禁止特約の有効性と違反への解除の効力

い 通常の修繕禁止特約の有効性(※2)

通常の修繕を禁止する特約について
→借地上の建物の維持,保存の範囲内である
→合理性を欠く
→無効である
※大判昭和13年6月21日

う 区別の困難性

大修繕(増改築)(あ)と通常の修繕(い)の区別について
→実際には困難な場合が多い
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p208

実際には,『大修繕/通常の修繕』の区別ははっきりしないことも多いです。
具体的な工事内容から区別を判断した裁判例について,別の記事で紹介しています。
詳しくはこちら|『通常の修繕』と特約で禁止される修繕の判別をした裁判例(集約)

5 建築基準法の大規模修繕の意味と建築基準法の扱い

ところで,建築基準法には『大規模の修繕』という用語と定義があります。
借地借家法の大修繕とは別の概念です。
参考として,2つの法律の違い・比較をまとめておきます。

<建築基準法の大規模修繕の意味と建築基準法の扱い>

あ 建築基準法の『主要構造部』の意味

壁,柱,床,はり,屋根,階段
建築物の構造上重要でない間仕切壁,間柱,局部的な小階段等は除く
※建築基準法2条5号

い 建築基準法の『大規模の修繕』の意味

建築物の主要構造部の1種以上について行う過半の修繕をいう
※建築基準法2条14号

う 借地借家法における扱い

建築基準法の『大規模の修繕』(い)について
そのほとんどは借地借家法の『増改築』(一部改築)に該当する
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p224

6 大修繕と『朽廃』の関係(概要)

大修繕は,『増改築(禁止特約)』とは別のところで問題になることもあります。
旧法時代の借地における建物の『朽廃』の判断で,施工された大修繕を差し引くような判断があるのです。
増改築の意味とは直接関係ありませんが,参考として紹介しておきます。

<大修繕と『朽廃』の関係(概要)>

あ 大修繕後の朽廃の判断(判例;概要)

法定期間が適用される旧法時代の借地について
建物の朽廃に近い時期に大修繕を行った場合
→従来の建物が朽廃したであろう時期に借地が終了する
増改築や修繕を禁止する特約とは関係ない
※最高裁昭和42年9月21日

い 反対説

別の見解もある
詳しくはこちら|建物の大規模な修繕と朽廃時期の推定による借地権の消滅(判例)

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