1 保存行為の基本的内容
2 保存行為の具体的内容
3 妨害排除請求の具体例と保存行為該当性(概要)
4 共同相続人による預金の取引履歴開示請求

1 保存行為の基本的内容

広義の(共有物の)管理行為の分類の1つに保存行為があります。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類
本記事では共有物の『保存』行為について説明します。
最初に『保存』行為の基本的事項をまとめます。

<保存行為の基本的内容>

あ 意思決定の要件

各共有者が単独で行うことができる
※民法252条ただし書き

い 保存行為の基本的解釈

次の両方に該当する行為
ア 物理的な現状を維持することイ 他の共有者に不利益が及ばない ※川井健稿/川島武宜ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p457(共有物の現状を維持する行為)

2 保存行為の具体的内容

保存行為の具体的内容・典型例をまとめます。

<保存行為の具体的内容>

あ 修繕

共有物を修繕すること

い 腐敗し易い物の売却

腐敗し易い物を売却=換価する
これにより『価値がすぐには下がらない』状態となる

う 妨害排除請求

無権利者に対する次のような請求がある(後記※1
ア 明渡請求イ 抹消登記請求 ※最高裁昭和31年5月10日;『イ』について
ただし近年では、保存行為の概念を介在させなくとも、共有持分権そのものの効力として妨害排除請求ができるという見解が有力である
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求・第三者異議訴訟)

え 法定相続登記

法定相続による所有権移転登記を申請すること
詳しくはこちら|相続に関する登記申請|非協力者の存在×証書真否確認訴訟・給付訴訟

お 地役権設定登記手続請求(概要)

地役権の要役地が共有となっており、(要役地の共有者が)承役地所有者に対して地役権設定登記手続を請求すること
※最高裁平成7年7月18日
詳しくはこちら|共有物と共同訴訟形態(損害賠償・境界確定・地役権設定登記請求・賃料増減額)

3 妨害排除請求の具体例と保存行為該当性(概要)

妨害排除請求というのはちょっと広い概念です。
具体的な内容をまとめます。

<妨害排除請求の具体例と保存行為該当性(概要)(※1)

あ 明渡請求

共有物が第三者Aに不法に占有されている
→Aに対して明渡請求を行うことは保存行為であるという見解もある
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求・第三者異議訴訟)

い 抹消登記請求

共有不動産の登記に無権利者Aの登記が存在する
→Aに対して抹消登記手続を請求することは保存行為であるという見解(判例)があった

う 保存行為該当性

妨害排除請求は現状を維持するものではなく、原状を回復するものである
保存行為そのものではない
むしろ、共有者の1人が単独で妨害排除請求をすることができる根拠は共有持分権自体であるという考えが現在は主流となっている
詳しくはこちら|不正な登記について原告の持分を超える抹消を認める根拠(保存行為・共有持分権)

4 共同相続人による預金の取引履歴開示請求

少し変わったものとして、契約上の地位の準共有のケースにおいて、保存行為が適用されたものがあります。それは、預金契約上の地位を共同相続人が準共有していることを前提として、取引履歴の開示請求を保存行為であると位置づけた判例です。

共同相続人による預金の取引履歴開示請求

あ 判決文引用

預金者が死亡した場合、その共同相続人の一人は、預金債権の一部を相続により取得するにとどまるが、これとは別に、共同相続人全員に帰属する預金契約上の地位に基づき、被相続人名義の預金口座についてその取引経過の開示を求める権利を単独で行使することができる(同法(民法)264条、252条ただし書)というべきであり、他の共同相続人全員の同意がないことは上記権利行使を妨げる理由となるものではない。
※最判平成21年1月22日

い 判例解説(参考)

本判決が、原判決と異なり、預金債権の帰属とは別に、共同相続人全員における預金契約上の地位の準共有をわざわざ観念した上、その保存行為として取引経過開示請求権の単独行使を肯定するという理論構成を採用したのは、相続紛争の実情に鑑みると、共同相続人の一人による取引経過開示請求権の単独行使を預金債権の帰属をめぐる紛争と切り離して認めることが妥当であり、かつ、開示の相手方が預金契約上の地位の準共有者である共同相続人にとどまる限りにおいては、プライバシー侵害や守秘義務違反の問題を容易に回避し得ると考えたためではないかと思われる。
※田中秀幸稿/『最高裁判所判例解説 民事篇 平成21年度』法曹会2012年p65、66

本記事では、共有物の保存行為について説明しました。
実際には、個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることがあります。
実際の共有物の扱いの問題に直面されている方は、本記事の内容だけで判断せず、弁護士の法律相談をご利用くださることをお勧めします。