【義務を負う者が複数存在するケースの共同訴訟形態(妨害排除・確認訴訟)】

1 義務を負う者が複数存在するケースの共同訴訟形態(妨害排除・確認訴訟)

妨害排除請求や確認請求の相手方が複数人存在するケースがあります。たとえば、土地の利用権原がない建物が共有となっている場合の建物収去土地明渡請求や、所有権を主張する2つの当事者のうち一方が複数人である(つまり共有であると主張している)場合の所有権確認請求です。
ここで共有者(共有名義人)が被告である場合、共同訴訟形態が問題となります。本記事ではこれについて説明します。

2 建物共有者に対する土地明渡請求の共同訴訟形態

土地の占有権原のない建物が共有となっている場合、土地所有者は建物の共有者に対して建物収去土地明渡を請求できます。この訴訟について、判例は通常共同訴訟であると判断しています。

建物共有者に対する土地明渡請求の共同訴訟形態

あ 共有建物による不法占有

土地をAが所有している
土地上に占有権原のない建物がある
建物はB・Cが共有している
共同相続によりこの状態になっている

い 土地所有者の対応

Aは建物収去土地明渡請求訴訟を提起した
土地所有権に基づく妨害排除請求の1つである

う 共同訴訟形態

ア 見解の分布 固有必要的共同訴訟かどうかについて
裁判例・学説は分かれていた
※滝澤孝臣編著『最新裁判実務大系 第4巻 不動産関係訴訟』青林書院2016年p379〜382
イ 最高裁判例 共有者が負う明渡義務は不可分債務である
固有必要的共同訴訟ではない
→AはB・Cのいずれかor両方を被告として提訴できる
※最判昭和43年5月28日
※最判昭和43年3月15日

3 共有名義人に対する所有権確認請求の共同訴訟形態

所有権を主張する2当事者がいる場合、自分に所有権があることの確認を求める訴訟を提起できます。要するに、被告は共有を主張する複数名ということになります。
この場合の共同訴訟形態は通常共同訴訟となります。共有者の一部だけを被告とする、ということも可能です。

共有名義人に対する所有権確認請求の共同訴訟形態

あ 不正な家屋台帳

家屋台帳において建物がB・Cの共有となっていた
真実の所有者はAであった

い 確認訴訟提起

Aが確認訴訟を提起した

う 共同訴訟形態

必要的共同訴訟ではない(通常共同訴訟である)
→B・Cのいずれかor両方を被告とすることができる
※最判昭和34年7月3日

4 共有名義人に対する抹消登記手続請求の共同訴訟形態(概要)

不実の登記が共有名義となっている場合、実体上の所有者は共有名義人に対して抹消(や移転)登記を請求できます。
この場合の共同訴訟形態については、統一的な見解はありません。ただし、通常共同訴訟または類似必要的共同訴訟という見解が一般的です。これを前提とすると、共有名義人のうち一部だけを被告とすることも可能です。

共有名義人に対する抹消登記手続請求の共同訴訟形態(概要)

不動産登記における共有名義人を被告とする抹消(または移転)登記請求訴訟の共同訴訟形態について
統一的な見解(判例)はない
現在では、一律に通常共同訴訟(または類似必要的共同訴訟)とする見解が一般的になっている
詳しくはこちら|共有名義人が被告である登記手続請求訴訟の共同訴訟形態の全体像

5 通常共同訴訟の判決による執行における同意書(概要)

通常共同訴訟である場合、例えば侵害している者のうち一部を被告に含めないということが可能です。このようなケースで抹消登記請求を認める判決が言い渡されて確定すると、執行の段階で問題が生じます。要するに判決(債務名義)に基づいて原告が単独で登記申請をする時に、被告から除外されていた登記義務者がどのように関与するか、という問題です。
結論としては、被告となっていなかった登記義務者の同意書を用いることになります。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|共同訴訟形態の基本(通常・固有必要的・類似必要的の分類など)

6 共有者が原告である訴訟の共同訴訟形態(参考)

以上で説明したのは、共有者(共有名義人)が被告である訴訟の共同訴訟形態でした。これとは逆に、共有者が原告である訴訟の共同訴訟形態の問題もあります。
まず、妨害排除請求については、実体上、共有者が単独で請求できます。そこで訴訟としても、共有者の1人が単独で提起できることになります。
詳しくはこちら|共有者から第三者への妨害排除請求(返還請求・抹消登記請求・第三者異議訴訟)
また、確認請求については、共有持分権の確認を請求するなら共有者単独でできますが、共有権(所有権)の確認を請求するなら共有者全員が原告となって提訴する必要があります。
詳しくはこちら|共有物に関する確認訴訟の当事者適格・共同訴訟形態

本記事では、登記上の侵害をしている者が共有者(複数)であるケースにおける、妨害排除請求や所有権確認請求の共同訴訟形態について説明しました。
実際には、個別的な事情によって判断が異なることもあります。
実際に共有が関係する不正な登記の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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