1 買受人譲渡許可の裁判の形式的要件(総論)
2 買受人譲渡許可の裁判の当事者と申立時期
3 買受人譲渡許可の裁判の申立時期
4 申立の期限切れと建物買取請求権
5 借地権の存在の要件と解除の影響
6 借地権の取得経緯の要件(競売・公売)
7 私的な担保権の実行と買受人譲渡許可の裁判

1 買受人譲渡許可の裁判の形式的要件(総論)

競売や公売で借地上の建物を買い受けた人は,本来,事前に地主の承諾が必要です。
実際には買い受けた後に裁判所の許可を得ることが多いです。
詳しくはこちら|借地上の建物の競売・公売における買受人譲渡許可の裁判の趣旨と特徴
本記事では,この裁判(買受人譲渡許可)の形式的要件を説明します。
要するに,買受人譲渡許可の裁判を申し立てることができる条件という意味です。

2 買受人譲渡許可の裁判の当事者と申立時期

買受人譲渡許可の裁判を申し立てることができる者は買受人です。
一般の譲渡許可の裁判では借地人(譲渡する予定の者)です。譲り受ける予定の者ではありません。
一般の譲渡許可の裁判とは違うところです。

<買受人譲渡許可の裁判の当事者>

あ 申立人(申立権者)

借地上の建物を競売・公売により取得した買受人

い 相手方

地主
※借地借家法20条1項

3 買受人譲渡許可の裁判の申立時期

買受人譲渡許可の裁判を申し立てることができるタイミングは代金納付の後の2か月間です。
借地権を取得してしまったでも申立ができるのです。
申立人・申立時期のいずれも,一般の譲渡許可の裁判とは異なります。
買受人譲渡許可の裁判の特徴的なところです。

<買受人譲渡許可の裁判の申立時期>

あ 申立時期(期限)

買受人が建物の代金を支払った後2か月以内
※借地借家法20条3項

い 権利の移転時期(参考)

代金納付により権利が移転する
※民事執行法79条,118条
詳しくはこちら|借地上の建物の競売・公売における買受人譲渡許可の裁判の趣旨と特徴

4 申立の期限切れと建物買取請求権

買受人譲渡許可の裁判は,一般の譲渡許可とは違い借地権の移転後でも申立ができます(前記)。
しかし,2か月の期限が過ぎてしまうと申立ができません。
結果として,土地を明け渡すよう請求される状態になります。
このようなケースでは,買受人(建物の新所有者)は,地主に対して建物の買取を請求できます。
最低限の保護だけは残っているといえます。

<申立の期限切れと建物買取請求権>

あ 申立の期限切れ

買受人が期限内に買受人譲渡許可の申立をしなかった場合
→買受人は土地賃借権取得を地主に対抗できない
→地主は買受人に対し,建物収去土地明渡請求ができる
※東京高裁平成17年4月27日

い 建物買取請求権

『あ』の場合
→買受人は建物買取請求権を行使できる
※借地借家法14条
詳しくはこちら|建物買取請求権の基本・要件・趣旨
※澤野順彦『実務解説 借地借家法 改訂版』青林書院2013年p259,260

5 借地権の存在の要件と解除の影響

買受人譲渡許可の裁判では借地権が存在するということも前提(要件)です。
当然といえます。
しかし,元の借地人の債務不履行により解除されるということに注意が必要です。
買受人譲渡許可の申立の直前に借地契約が解除されたというケースがあったのです。
このケースでは,原則的な理論どおりに,譲渡許可の裁判はできないという結論になりました。

<借地権の存在の要件と解除の影響>

あ 形式的要件

借地権が存在することについて
→買受人譲渡許可の裁判の形式的要件の1つである
=申立ができる条件

い 元の借地人の債務不履行による影響

買受人の代金納付よりも前の時点において
賃借人の債務不履行によって解除されていた場合
例;賃料不払い
→譲り受けるべき借地権が存在しない
→買受人譲渡許可の申立自体ができない
買受人は元の借地人に対する担保責任を追及できることがある
※民法570条ただし書参照
※最高裁平成8年1月26日

6 借地権の取得経緯の要件(競売・公売)

買受人譲渡許可の裁判は競売と公売の時だけに使える特殊な手続です。
競売をさらに分類すると3種類のものがあります。
これ自体は当然のように思えますが,私的な担保権も該当するかどうか,という問題があります(後記)。

<借地権の取得経緯の要件(競売・公売)>

あ 競売の種類

ア 強制競売
※民事執行法45条〜
イ 担保不動産競売
※民事執行法180条〜
ウ 形式的競売
※民事執行法195条

い 公売

国税徴収法に基づく滞納処分による差押財産の公売
※国税徴収法94条〜

7 私的な担保権の実行と買受人譲渡許可の裁判

担保権としては,抵当権のような民法上の規定によるものが典型的です。
一方,私的な担保権(非典型担保)として譲渡担保などがあります。
詳しくはこちら|担保の種類・全体像|典型担保・非典型担保|実行の要件
これらは競売・公売としては扱われません。
そこで担保権実行の後で譲渡許可を申し立てるという特典が使えないのです。
この不都合をクリアするために,実行前に債権者が一般の譲渡許可を申し立てる方法がトライされています。
しかし解釈としては否定される傾向にあります。

<私的な担保権の実行と買受人譲渡許可の裁判>

あ 私的な担保権の実行

ア 仮登記担保権の実行
イ 譲渡担保権の実行

い 買受人譲渡許可の申立の可否

『あ』による借地上の建物の所有権移転について
→買受人譲渡許可手続の規定の類推適用はできない
=買受人譲渡許可の申立はできない
=実行の申立はできない
※東京高裁昭和56年8月26日;仮登記担保権について
※大阪高裁昭和61年3月17日;譲渡担保権について

う 実行前の債権者による申立(概要)

担保権の実行前の段階において
債権者が借地権譲渡許可の申立をすることについて
→否定される傾向がある
債権者代位による方法も同様である
詳しくはこちら|借地権譲渡許可申立・非訟事件|譲渡担保|申立時期・債権者代位