【改定賃料の鑑定結果と裁判所の判断の関係】

1 鑑定と裁判所の判断の関係
2 相当賃料の鑑定の不合理な点
3 総合方式の4手法の合理性を否定した事例

1 鑑定と裁判所の判断の関係

賃料増減額の訴訟では,裁判所は鑑定結果を考慮します。
本記事では鑑定結果と裁判所の判断の関係について説明します。
裁判所は鑑定結果に拘束されないという根本的な理論があります。
むしろ批判的な検討・確認により結果の適正さを徹底することが必要とされます。
これは裁判所と当事者の両方についていえることです。

<鑑定と裁判所の判断の関係(※1)

あ 賃料鑑定の証拠力・説得力

賃料の鑑定結果について
相当賃料額を把握するための重要な証拠価値を持たない
鑑定の内容(手法)によって証拠価値が左右される

い 裁判所の判断と鑑定結果の関係(拘束力)

賃料の鑑定結果について
法律上の概念としての相当性(適正額)の解釈を拘束しない
=裁判所の判断を拘束するものではない

う 訴訟における鑑定結果の実務的扱い

賃料増減額の訴訟において
鑑定結果は常に批判的に摂取されなければならない
※鈴木忠一ほか『実務民事訴訟講座4 不動産訴訟・手形金訴訟』日本評論社1969年p153

2 相当賃料の鑑定の不合理な点

継続賃料として相当な金額を鑑定することはよく行われます。
鑑定結果は,判断する者の主観・裁量が多く含まれています。
つまり,鑑定する者によって異なる結果が出るといえます。
構造的にブレが生じる状況になっているのです。

<相当賃料の鑑定の不合理な点>

あ 評価理論

ア 試算手法 4つの賃料試算手法(評価理論)について
→合理性が確立されているとはいえない
イ 総合方式 合理性を欠く試算賃料を『総合』しても
→合理性を獲得するわけではない
実際に単に平均する安直な鑑定の実例が多い

い 判断の前提事実

鑑定において前提とする事実について
裁判所の事実認定を経ていない
→算定の元が粗い
→評価の結果の正確性も乏しくなる

3 総合方式の4手法の合理性を否定した事例

総合方式の賃料試算手法は不合理な点を含みます(前記)。
実際に,4つの試算をすべて採用しなかった裁判例もあります。

<総合方式の4手法の合理性を否定した事例>

あ 賃貸借の内容

商業用の土地の賃貸借契約
借地人が地上に収益物件(建物)を所有・運用している

い 鑑定の内容

相当の地代について
『ア〜エ』の4手法の総合方式により算定した
ア 収益還元法イ 賃貸事例比較法(比準賃料)ウ スライド法エ 差額配分法

う 裁判所の判断

4手法のいずれも合理性を欠く
→鑑定結果は採用できない
土地残余法により相当賃料を算定すべきである
※東京高裁平成14年10月22日
詳しくはこちら|総合方式と賃料試算の4手法の合理性を否定した裁判例(平成14年東京高判)

これは特殊なもので一般化はできません。
ただし,鑑定結果を安直に鵜呑みにする態度への戒めとして,とても良い参考となる判断です。

本記事では,改定賃料の鑑定と裁判所の判断の関係について説明しました。
実際には,個別的な事情によっては,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に地代や家賃などの賃貸借契約に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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