1 公租公課倍率法(総論)
2 公租公課倍率法の内容と利用状況
3 公租公課倍率を重視した裁判例
4 公租公課倍率の借地慣行を用いた裁判例(事案)
5 公租公課倍率の借地慣行を用いた裁判例(判断)
6 東京都の公租公課倍率の実情データ
7 一般的な公租公課倍率の相場
8 公租公課倍率の時代による変化
9 特殊事情による公租公課倍率の上昇(概要)

1 公租公課倍率法(総論)

賃料の簡易な算定方法として『固定資産税額』を基準にするものがあります。
公租公課倍率法と呼ばれます。
公租公課倍率法は継続賃料,つまり従来の賃料を改定する時の算定で使われることが多いです。
不動産鑑定評価基準で採用されている4つの算定手法には含まれていません。
詳しくはこちら|改定賃料算定手法の種類全体(主要4手法+簡易的手法)
その意味で,簡略版の算定方式といえます。

2 公租公課倍率法の内容と利用状況

まず,公租公課倍率法の内容と,実際の利用の状況についてまとめます。

<公租公課倍率法の内容と利用状況>

あ 算定の方法

対象の土地の税額に一定倍率を乗じた額を改定地代とする方法
内容=固定資産税・都市計画税
『年額』で計算する
(月払いの場合)年額を12で割って月額とする

い 特徴

改定賃料の算定が簡易・明確である
公平感がある

う 普及の実情

実務上,利用されることが増えている
藤田耕三ほか『不動産訴訟の実務 7訂版』新日本法規出版2010年p762

え 賃料改定特約としての活用

賃貸借契約の特約に定める実例も多い
例;固定資産税・都市計画税の3倍を地代とする
詳しくはこちら|賃料に関する特約(自動改定特約)の基本(種類とメリット)

改定賃料の特約として定めた場合は,当然,目安ではなく正式な賃料算定の方法となります。
以下,実際にどのような倍率が使われているのか,について,裁判例や統計を紹介します。

3 公租公課倍率を重視した裁判例

公租公課の倍率を重視した裁判例を紹介します。

<公租公課倍率を重視した裁判例>

あ 鑑定の内容(一部)

一般的に地代の額は公租公課の2.5倍程度である

い 裁判所の判断

他物件の鑑定では2.75倍という率が用いられている
2.5倍を若干大きな倍率に引直してみることも検討の余地がある
※東京地裁昭和60年10月15日

4 公租公課倍率の借地慣行を用いた裁判例(事案)

公租公課倍率法の利用が借地の慣行となっている,ということを明確に認めた裁判例を紹介します。
まずは事案の内容だけをまとめます。

<公租公課倍率の借地慣行を用いた裁判例(事案)>

あ 特約

賃料改定に関する特約はない
少なくとも認定された形跡がない

い 近隣エリアの慣行

東京都吉祥寺駅付近の土地について
賃料は公租公課を基準として決定されるのが一般的である
公租公課=固定資産税+都市計画税
賃料はおおむね公租公課の2〜3倍とされている
商業地は3倍程度である

う 対象土地の地代の履歴
時期 賃料(公租公課倍率)
昭和45年3月 (地上権設定=借地の開始)
昭和47年(4月)〜昭和50年(3月) 3.5倍
昭和50〜52年 2.7倍
昭和53年 2.8倍
昭和54〜55年 2.9倍

※東京高裁昭和59年6月20日;『判例タイムズ535号』p209

この事案では,近隣の地代のデータを多く集められたので,共通する事情を特定することができました。
つまり,地代が公租公課の特定の倍率となっていることが共通していたのです。

5 公租公課倍率の借地慣行を用いた裁判例(判断)

前記事案について,裁判所の判断の内容をまとめます。

<公租公課倍率の借地慣行を用いた裁判例(判断)>

あ 借地慣行の認定

対象土地近隣には『ア・イ』の借地慣行が存在した
ア 公租公課に一定の倍率を乗じて地代を決定する
イ 地代の増額について公租公課との比率を一定に保つ

い 公租公課方式の回避

昭和57年度
武蔵野市の政策により
都市計画税が暫定的に0.05%引き下げられた
公租公課倍率方式の採用には疑問がある

う 実質的な公租公課方式維持

スライド法による試算を参照する
試算額は公租公課の約3倍である
→相当である
→この金額を改定賃料とする
※東京高裁昭和59年6月20日;『判例タイムズ535号』p209

判断の内容は多少複雑です。正面から公租公課倍率法を採用した,という形式にはなっていません。
しかし,結果として,公租公課の3倍という地代を相当と判断しました。
この判断の中に,公租公課の倍率が妥当であるということが含まれているとも考えられます。

6 東京都の公租公課倍率の実情データ

統計による代表的なデータとして東京都における公租公課の倍率を挙げておきます。

<東京都の公租公課倍率の実情データ>

あ 日税不動産鑑定士会のデータ

東京都23区内の平均

基準時点 住宅系 商業地系
平成27年1月1日 4.35倍 4.05倍
平成24年1月1日 4.25倍 3.81倍

外部サイト|日税不動産鑑定士会|継続地代の実態調べ

い 東京簡易裁判所のデータ

調停が成立した69件の平均

調停成立時期 住宅系 商業地系
平成6年後半〜平成7年前半 3.1倍 2.4倍

※『東京簡易裁判所管内における継続賃料の動向』/東京民事調停連合会『東調連会報平成7年第48号』

これはあくまでも統計上の平均です。
当然ですが,個別的な事案にそのまま適用されるわけではありません。

7 一般的な公租公課倍率の相場

実務における経験・実情からやや幅広く一般的な公租公課倍率の相場をまとめます。

<一般的な公租公課倍率の相場>

あ 住宅地

一般的な住宅地の地代について
年額の目安=固定資産税・都市計画税額の3~4倍
地域によっては『5倍』程度が普及していることもある

い 商業用地

一般的な商業施設の敷地の地代について
年額の目安=固定資産税(都市計画税)の7〜8倍

8 公租公課倍率の時代による変化

公租公課倍率法は単純で分かりやすいので実務上使われる場面が多いです。
その際は,過去の倍率が重視され,維持される傾向もあります。
この点,過去の公租公課倍率は特殊事情の影響を大きく受けています。
これを考慮しないと不適切な算定をしてしまうことにつながります。
時代の変化による大きな『ブレ』をまとめました。

<公租公課倍率の時代による変化>

あ 昭和40年代の調停

『2〜3倍』『2.5倍』が相場だった
その中でも,住宅地は低め,商業地は高めであった

い バブル期の地価急上昇

地価の急上昇が生じた
しかし(継続)地代は低い上昇率にとどまった

う 平成6年の『固定資産税の評価額引上げ』

ア 平成6年に施行された政策
・固定資産税の評価額の引上げ
・負担調整率による税額の漸増
イ 生じた現象
・地価が下落して行く
・固定資産税等は増額される
ウ 『継続地代』への影響
継続地代と固定資産税等との相関関係が絶たれた

え 平成9年以降の『地価・固定資産税の関連性復活』

ア 平成9年以降に施行された政策
地価の下落率を固定資産税等の増額に反映させる
イ 『継続地代』への影響
継続地代と固定資産税等の相関関係が取り戻されつつあると言える
※鵜野和夫『不動産の評価・権利調整と税務 第38版』清文社2016年p579

9 特殊事情による公租公課倍率の上昇(概要)

以上の公租公課倍率は,特殊な事情がないことを前提にしています。
特殊な事情があると,公租公課倍率の相場が大きく上がることがあります。

<特殊事情による公租公課倍率の上昇(概要)>

あ 傾向

権利金や更新料の授受がない場合
→賃料の相場が大きく上昇する傾向がある

い 具体例

ア 裁判例
公租公課の6.5倍
※東京高裁平成12年7月18日
イ 税務上の通達の流用
更地価格の6%
※国税庁通達・課資2-58(例規)直評9昭和60年6月5日
詳しくはこちら|権利金や更新料の支払がないケースの賃料算定と『相当の地代』