1 形式的競売の申立
2 共有物の任意売却と競売の違い
3 形式的競売のメリット・デメリット
4 私文書による形式的競売の申立の可否
5 和解調書・調停調書の法的性格(前提)
6 和解調書・調停調書による形式的競売の申立の可否
7 和解調書・調停調書による形式的競売申立を認める見解
8 任意売却と競売を併記する和解条項の工夫
9 共有者の競売の希望と裁判所の判断の関係
10 形式的競売の申立の手続
11 遺産分割の換価処分は調停ではできない(参考)
12 形式的競売における差押と判決後の持分譲渡(概要)

1 形式的競売の申立

共有物分割の分割類型の1つとして換価分割があります。共有物分割訴訟において,換価分割の判決が言い渡され,確定すると,その後形式的競売を行うことになります。
共有物を売却し,金銭に換えてから共有持分割合で分けるので,共有者が分配を受ける利益(金銭)の点では非常に公平・単純です。
形式的競売の申立に関しては,訴訟ではなく共有者が協議をして競売で売却すると合意した場合に競売手続をすることができるか,また,訴訟上の和解が成立した場合や,調停手続において調停が成立した場合に,競売手続をすることができるか,といった問題があります。本記事では形式的競売の申立について説明します。

2 共有物の任意売却と競売の違い

共有者が協議して,共有物を売却して金銭で分配するということ(換価分割)を合意した場合,通常は裁判所の競売でなく,不動産仲介業者(宅建業者)に依頼して一般的な売却(共同売却)を行います。
共同売却は競売と比べて,代金などについて有利な条件で売却できます。しかし,売却条件について共有者の意見が食い違って売却できないという状況も生じます。

<共有物の任意売却と競売の違い>

あ 前提事情|換価分割の希望

共有者全員が『対象不動産の売却+代金の分配』を希望している
=法律上『換価分割』と呼ばれる方式である

い 通常の売却方法=任意売却

不動産仲介業者をとおして一般のエンドユーザーに売却する
任意の共同売却といえる

う 通常の売却方法|デメリット

売却条件や個別的な条件について意見の対立が生じる
→売却プロセスが停滞するリスクがある

え 『競売』利用の発想

裁判所による競売手続であれば強制的に手続が進む
=共有者の反対により停滞する,ということが生じない

3 形式的競売のメリット・デメリット

現実的には競売よりも通常の売却の方が売却の条件・金額の点で有利です。
売却方針は一致している場合には通常の売却(任意売却)を希望するのが通常です。
しかし,当事者間の対立が熾烈である場合は,敢えて競売を希望するケースもあります。

<形式的競売のメリット・デメリット>

あ メリット

裁判所が手続を主催・遂行する
手続が非常に厳格・公正である
関係者の意向で『止める・妨害する』ことができない
※刑法96条の2〜4;強制執行妨害罪など

い デメリット

入札者が得られる『物件情報』が非常に限定されている
→入札金額=売却金額が低くなる
※不動産鑑定評価基準『競売減価』

4 私文書による形式的競売の申立の可否

共有物を競売する,という内容の私文書による合意が成立した場合であっても,競売を申し立てることは認められません。

<私文書による形式的競売の申立の可否>

あ 先取特権と同じ扱いとする発想

先取特権の存在を証する文書(私文書)が執行開始文書とされている
※民事執行法181条1項4号
換価分割の合意の私文書は競売権の存在を証する文書であると考えて執行開始文書として扱えるのではないか

い 否定する見解

ア 競売手続全体の趣旨(※1)
私文書によって換価権の存否という実体的判断を行うことは,本来,定型的に迅速かつ大量の事件処理をしようという民事執行法の趣旨に沿わない
イ 先取特権との比較(※2)
民事執行法181条1項4号は,あくまで賃金債権に基づく一般先取特権を有する使用人等のために,政策的配慮から特に私文書をもって開始文書とした特別の規定である
ウ 公私の分離
これを認めると,本来公の手続であるところの競売手続の利用を全く私的に許すことになりかねない
※相澤眞木ほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第4版』金融財政事情研究会2018年p422,423

う 東京地裁の運用

東京地裁民事執行センターではこれを否定する取扱いである
※相澤眞木ほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第4版』金融財政事情研究会2018年p422,423

え 裁判例

(留置権による競売について)
前記※1,※2の理由により,留置権の存在を証する私文書による(広義の)形式的競売の申立は不適法である
※東京高裁平成13年1月17日

5 和解調書・調停調書の法的性格(前提)

共有物分割の調停や訴訟上の和解として『換価分割』を合意する発想もあります。
解釈論の前に『調停・訴訟上の和解』の法的性格をまとめておきます。

<和解調書・調停調書の法的性格(前提)>

あ 裁判所の審査

裁判所が内容を確認した上で成立させる
判決同様に執行力がある(債務名義の1つである)
詳しくはこちら|債務名義の種類|確定判決・和解調書・公正証書(執行証書)など
→『純粋な私的合意=私文書』とは違う

い 当事者の合意

『当事者の合意』が本質的な前提となっている
→『純粋な裁判所の判断=判決』とも異なる

う まとめ

『判決』と『協議・合意』の中間的な性格である

6 和解調書・調停調書による形式的競売の申立の可否

裁判所が作成した和解調書や調停調書は,私的な合意という性格と公的な文書という性格の両方があります(前記)。これらの文書によって形式的競売を申し立てることができるかどうかについて,実務では認める(形式的競売ができる)傾向が強いですが,統一的な見解とはいえないでしょう。

<和解調書・調停調書による形式的競売の申立の可否>

あ 見解のバリエーション

訴訟上の和解調書が開始文書に当たるかについては見解が分かれる
※相澤眞木ほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第4版』金融財政事情研究会2018年p422,423

い 裁判例

見解は統一されていない
※東京高裁昭和63年7月27日;肯定説
※大阪高裁平成2年8月17日;折衷説(裁判所が分割方法として適切かなどを実質的に判断した場合に肯定する)

う 実務の傾向

肯定する傾向がある(後記※3)

え 共有物分割訴訟の段階における注意点

換価分割の和解が成立した場合でも,執行段階で拒否されるリスクが(一応)ある
→共有物分割訴訟の段階において裁判官が換価分割の和解を認めない実例がある
(全体としては認める裁判官の方が多い)

7 和解調書・調停調書による形式的競売申立を認める見解

和解調書や調停調書によって形式的競売を申し立てることを認める見解は,担保権実行との比較などを理由としています。

<和解調書・調停調書による形式的競売申立を認める見解(※3)>

あ 担保権実行における執行開始文書(比較)

担保権実行一般の前提である担保権設定契約は当事者間の私的合意に基づくものである
これに基づく担保権の登記に関する登記事項証明書が執行開始文書とされている
※民事執行法181条1項3号

い 和解調書の性質からの検討(肯定説)

(和解調書も私的合意に基づいて作成された公的な文書である)
『ア』との対比から,訴訟上の和解において換価のために形式的競売による旨合意した場合には,その和解調書を開始文書とする申立を認めても差し支えないと考えられる
※相澤眞木ほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第4版』金融財政事情研究会2018年p422,423
※坂本勁夫『不動産競売申立ての実務と記載例 全訂3版』金融財政事情研究会p361
※『書記官事務を中心とした和解条項に関する実証的研究』法曹会p246
※深沢利一著『民事執行の実務(中) 補訂版』新日本法規出版2007年p1105

う 否定することの弊害(※4)

必ず判決によらなければならない(=和解調書を執行開始文書として認めない)とすると,当事者は競売の実現のために共有物分割のなれ合い訴訟を起こすことになりかねないという弊害が生じる
※東京高裁昭和63年7月27日

え 東京地裁の運用

東京地裁民事執行センターは,共有物分割訴訟における和解調書を執行開始文書として認めている

お 他の文書のバリエーション

東京地裁民事執行センターは,共有物分割方法を競売による旨の条項がある次の書面(裁判所作成の書面)も執行開始文書として認めている
ア 民事調停調書
イ 訴え提起前の和解(調書)
ウ 遺留分減殺請求訴訟における和解調書
エ 家庭裁判所における遺産分割調停調書
※相澤眞木ほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第4版』金融財政事情研究会2018年p422,423

8 任意売却と競売を併記する和解条項の工夫

実際に,共有者全員が共有物を売却することを決める状況では,任意に共同売却をすることを優先し,任意の売却ができなかった場合には仕方なく競売にするという決め方をすることがあります。この場合には,当然,この内容を条項としますが,ストレートに文章にすると,後で競売を申し立てようとしてもできないことになります。任意売却の期限を設定するという条項だと競売申立がスムーズにできます。

<任意売却と競売を併記する和解条項の工夫>

あ 前提事情(共通)

任意売買ができないときに競売に付するという和解をする

い 好ましくない例

ア 条項の例
『任意売買ができなかった場合は,競売に付することに合意し』
イ 弊害
形式的競売の開始文書には執行文を要しないことから,『ア』が執行開始要件となる
申立人は任意売買ができなかった事実を証明し,執行裁判所がそのような事実の存否について実体判断をせざるを得ないこととなってしまう
しかし一般的に,ある事実が存在しないことの証明は,極めて困難である

う 好ましい例

ア 条項の例
『原告及び被告は,・・・競売に付することに合意し,○年○月○日以降,共同して又は単独で競売の申立をする。
ただし,それまでに売却できた場合にはこの限りではない。』
イ その後の扱い
調書に記載された期限より前に形式的競売の申立をすることを封じることができる
当事者全員が書面(私文書)によって期限の変更について合意していても同様である
期限を前倒しするには,新たな執行開始文書(訴訟上の和解調書など)を改めて取得する必要がある
※相澤眞木ほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第4版』金融財政事情研究会2018年p422,423

9 共有者の競売の希望と裁判所の判断の関係

訴訟上の和解では換価分割を合意できるとは限りません(前述)。そこで共有者全員が裁判官に換価分割の内容の判決をほしいと表明すればそのとおりに判決を出してもらえるだろう,という発想が生じます。しかし,共有物分割訴訟の性質(特殊性)から,そのとおりにならないこともあります。

<共有者の競売の希望と裁判所の判断の関係>

あ 発想

共有者全員で裁判所に換価分割の判決を要求(希望)すれば,このとおりの内容で判決が言い渡される(=競売を利用できる)
(このようななれあい訴訟がなされる可能性を指摘する裁判例もある(前記※4))

い 当事者の希望の位置付け

裁判所の判断要素の1つとなる
しかし当事者の希望が裁判所を拘束するわけではない
詳しくはこちら|共有物分割訴訟|形式的形成訴訟|当事者の主張の位置付け法律,判例による分割類型の選択基準が優先される

う 問題が具体化する状況

共有者が共有物を取得することを希望していない限り全面的価格賠償は選択されない(相当性が認められない)
しかし,現物分割をすることが現実的に可能である場合
→共有者全員が現物分割を希望していない(換価分割を希望している)としても現物分割が優先されることがある
詳しくはこちら|共有物分割訴訟×現物分割回避|実務的かけひき・戦略

10 形式的競売の申立の手続

換価分割の内容の確定判決や和解調書などは(一応否定説もありますが)執行開始文書となります。形式的競売の申立の手続としては,判決の謄本や確定証明書が必要となります。執行文や送達証明書は不要とされています。

<形式的競売の申立の手続>

あ 申立の必要書類

ア 共有物分割請求事件の判決謄本または正本
イ 判決確定証明書
ウ 一般的な競売申立に必要な書類
不動産登記事項証明書や資格証明書など

い 不要な書類

強制執行ではないから執行文は必要ない
東京地裁民事執行センターでは送達証明書の提出も不要としている
※相澤眞木ほか編著『民事執行の実務 不動産執行編(下)第4版』金融財政事情研究会2018年p422

11 遺産分割の換価処分は調停ではできない(参考)

共有物分割の換価分割以外にも形式的競売を用いるものは多くあります。
その1つに遺産分割審判に伴う換価処分があります。これは遺産分割審判の終局処分としての換価分割とは違います。
この換価処分は特殊な法的性格があるので,当事者(相続人)の合意による調停ではできません。
詳しくはこちら|換価処分の性質と換価処分できる状況(申立・調停・即時抗告審は不可)

12 形式的競売における差押と判決後の持分譲渡(概要)

前述のように,換価分割の判決(や裁判上の和解)の後には,共有者が形式的競売を申し立てることになります。そして裁判所は差押を行い,これにより処分禁止効が生じるというのが一般的見解です。ただし,差押より前(口頭弁論終結時以降)に共有持分の譲渡がなされたとしても,結局判決の効力は及ぶと解釈されています。これについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|不動産競売における差押の処分制限効と使用制限効

本記事では,競売するという内容の私文書における合意や裁判所の和解や調停が成立した場合に競売手続を申し立てることができるかどうか,ということを説明しました。
実際には,個別的な事情によって最適な手法は違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。