1 形式的競売における共有者の入札(買受申出)の可否
2 共有者が入札する典型的な状況
3 形式的競売における共有者の入札の可否
4 共有者かつ債務者が入札する典型的な状況
5 形式的競売における共有者かつ債務者の入札の可否
6 形式的競売における差引納付・担保権設定(参考)

1 形式的競売における共有者の入札(買受申出)の可否

共有物分割訴訟の換価分割の判決によって行われる競売(形式的競売)は,担保権実行や強制競売などの一般的な競売とは違う特殊性があります。そこで,共有者自身が入札(買受申出)をすることができるか,という問題があります。
本記事では,形式的競売における共有者(所有者)の入札の可否について説明します。

2 共有者が入札する典型的な状況

実際に,共有者が入札する,という状況になることがよくあります。典型的な状況をまとめます。

<共有者が入札する典型的な状況>

共有者Aは『自身が単独所有する』ことを希望していた
共有物分割訴訟で全面的価格賠償の希望を主張した
裁判所は,判断基準における全面的価格賠償の要件を満たさないと判断した
裁判所は換価分割の判決を言い渡した→確定した
形式的競売が実施された
共有者Aは自身の単独所有を実現するために入札する

3 形式的競売における共有者の入札の可否

一般的な競売では,債務者が入札することは禁止されています。そこで,形式的競売において共有者が入札することも同じ扱いになるのではないか,という発想も生じます。しかし,形式的競売は債権回収の手段ではないので,債務者による入札禁止の趣旨があてはまりません。そこで,共有者の入札は禁止されないと考えられています。

<形式的競売における共有者の入札の可否>

あ 一般的な競売における債務者の入札禁止(前提)

一般的な担保権実行・強制競売において
債務者は元々弁済すべき立場にある
自己資金で物件を購入することより弁済を優先すべき
→債務者による買受申出(入札)は禁止されている
※民事執行法68条

い 形式的競売における共有者の入札の可否

ア 実質的な評価 共有物分割における換価分割としての競売の場合
→債権回収目的ではない
→当事者(=共有者自身)が買受申出(入札)することは禁止されない
イ 見解(※1) 留置権以外の(狭義の)形式的競売においては,(明文で禁止するものを除き)被担保債権の債務者の買受を禁止する規定(民事執行法188条,68条,192条,135条,193条2項,161条6項など)を準用する余地はない
※香川保一『注釈民事執行法(3)』p495
※『鈴木忠一 ほか『注解民事執行法(2)』p489
※伊藤眞ほか編『条解 民事執行法』光文堂2019年p1715,1716

4 共有者かつ債務者が入札する典型的な状況

次に,形式的競売の対象の不動産に担保権が設定されていて,共有者(の1人)がその被担保債権の債務者となっている状況を想定します。典型的な状況としてまとめます。

<共有者かつ債務者が入札する典型的な状況>

共有物分割の換価分割における形式的競売が行われた
共有物には住宅ローンの担保が付いている
共有者Aは自身が入札し,単独所有を実現したい
共有者Aは,住宅ローンの債務者でもある

5 形式的競売における共有者かつ債務者の入札の可否

前記のように,共有者であり,かつ債務者であるという者が入札するは,一般的な競売手続で債務者の入札が禁止される趣旨と近いともいえます。しかし,前記のように,一般的な解釈としては禁止されません。

<形式的競売における共有者かつ債務者の入札の可否>

あ 基本的な解釈

形式的競売においては,被担保債権の債務者の買受を禁止する規定は準用されない(前記※1
共有者かつ被担保債権の債務者の入札は禁止されない

い 実質的な検討

ア 発想 執行裁判所が担保権の処理について消除主義を採用した場合
→実質的に担保権の実行と同じような状態となる
→被担保債権の債務者の入札を禁止するという発想も一応ありえる
イ 担保権の処理(参考) 詳しくはこちら|形式的競売×担保権の処理|消除/引受主義・執行裁判所の判断

6 形式的競売における差引納付・担保権設定(参考)

以上のように形式的競売において共有者が入札し,落札できた場合,次の代金納付のプロセスで,差引納付が使えるかという問題がありますが,否定されます。また,代金納付において当該不動産を担保とした融資を受けるということは可能です。
このようなことについては別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|形式的競売における差引納付の適用(否定)・融資による代金納付(担保権設定)

本記事では,形式的競売における共有者(所有者)の入札の可否について説明しました。
実際には,個別的事情によって,法的扱いや,最適な対応方法が違ってきます。
実際に共有不動産や競売に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。