1 現物分割の要件
2 現物分割の条文
3 現物分割の消極的要件と基本的解釈
4 土地の狭小・細分化による現物分割の否定
5 建築基準法上の接道の支障による現物分割の否定
6 建物の敷地(土地)の現物分割の可否
7 建物の現物分割の可否
8 建物とその敷地(土地)の現物分割の可否
9 著しい価格減少による現物分割の可否
10 狭小土地+共有建物→現物分割を否定した裁判例
11 19〜35%価格減少+共有建物→現物分割を否定・肯定した裁判例
12 約11%価格減少+共有建物老朽化→現物分割を肯定した裁判例

1 現物分割の要件

共有物分割の分割類型には3つあり,その1つが現物分割です。共有物分割訴訟では,現物分割ができるかどうかについて意見が対立することがよくあります。
詳しくはこちら|現物分割の全体像(典型例・価格賠償との組み合わせ・分割線の決定)
本記事では,現物分割の要件について説明します。

2 現物分割の条文

最初に,現物分割を定める民法258条2項の条文を押さえておきます。現物分割の要件は,基本的にこの条文の解釈によることになります。

<現物分割の条文>

前項の場合において,共有物の現物を分割することができないとき,又は分割によってその価格を著しく減少させるおそれがあるときは,裁判所は,その競売を命ずることができる。
※民法258条2項

3 現物分割の消極的要件と基本的解釈

条文からは,現物分割が不能である場合と現物分割によって著しく価格が減少する場合には現物分割ができないと読めます。

<現物分割の消極的要件と基本的解釈>

あ 現物分割の消極的要件

『ア・イ』のいずれかに該当する場合,換価分割を選択できる(=どちらにも該当しない場合に現物分割をすることになる(全面的価格賠償は除く))
ア 不可能
現物を分割することができない
イ 著しい価格減少
現物分割によって著しく価格を減少させるおそれがある
※民法258条2項

い 現物分割不可能の基本的解釈

民法258条2項にいう『現物ヲ以テ分割ヲ為スコト能ハサルトキ』(注;改正前の文言)とは,現物分割が物理的に不可能な場合のみを指称するのではなく,社会通念上適正な現物分割が著しく困難な場合をも包含するものと解すべきである
※最高裁昭和46年6月18日

う 著しい価格減少の基本的解釈

著しい価格減少とは,現物分割により,土地利用において無駄を生ぜしめるような場合である
※名古屋地裁昭和46年12月22日

4 土地の狭小・細分化による現物分割の否定

現物分割が否定される類型の1つは,現物分割をすると土地がとても狭くなるという事情です。裁判例としては,分割後に共有者が取得する土地が10坪未満であるケースで現物分割が否定されています。古い裁判例では,1人が取得するが約99坪になるケースで現物分割が否定されています。この頃は,農地を細分化しないために長男が全面的に取得する家督相続がまだ一般的であったので,約99坪であっても農地としては狭いという感覚だったのかもしれません。

<土地の狭小・細分化による現物分割の否定>

あ 分割後1.5〜3坪

現物分割をした場合,各共有者の取得する土地が1坪半〜3坪とかになる
→現物分割はできない
※東京地裁八王子支部昭和41年10月26日

い 分割後6坪

現物分割をした場合,各共有者の取得する土地が6坪あまりになる(他の事情もある)
→現物分割はできない
※東京地裁昭和44年9月16日(後記※1)

う 分割後7.3坪

現物分割をした場合,各共有者の取得する土地が約7.3坪になる
経済的効用の乏しい土地を生み出し,土地の有する宅地としての価値をいたずらに損ねる
→現物分割はできない
※大阪地裁昭和50年10月28日

え 畑について分割後98.8坪

分割の請求については右不動産は1反6畝余歩(14歩)(494坪)に過ぎざる1筆の畑地にして之を分割せば著しくその価格を損するのおそれありと認むる・・・現物の分割をなさずして之を競売し・・・
(共有者は5名なので1人あたり98.8坪(約326平方メートル)となる)
※東京控判大正9年4月14日(新聞1757号p17)

5 建築基準法上の接道の支障による現物分割の否定

土地を現物分割した場合に,面積としては宅地として十分であっても,建築基準法の接道義務をクリアしないと現実的に宅地として使えません。このようなケースでは現物分割は不能ということになります。

<建築基準法上の接道の支障による現物分割の否定>

対象土地を3人の共有者に現物分割をしようとした場合,建築基準法上の接道義務を充たす土地としての分割が不可能である
→現物分割はできない
※東京地裁平成3年7月16日

6 建物の敷地(土地)の現物分割の可否

共有物分割の対象の土地の上に第三者が所有する建物が建っている状態も,現物分割が否定されやすいです。
共有の土地上に共有の建物がある場合,つまり土地と建物の両方が共有物分割の対象となっている場合に,建物が1個であり現物分割ができないため,土地も現物分割できないという裁判例があります。
一方,共有の建物が複数であるため,個々の建物を共有者のいずれかの単独所有とする現物分割が可能であるケースでは,土地の現物分割が認められています。

<建物の敷地(土地)の現物分割の可否>

あ 第三者所有の建物の敷地(現物分割否定)

ア 裁判例
共有物分割の対象の土地上に第三者が建物を所有するケースについて
土地の分割が著しくその価格を損するおそれがある
→現物分割はできない
※東京地裁昭和39年7月15日
イ 学説
むしろ分割不能に当たるか否かを問題にすべきものと思われる(結論に反対しているわけではないと読める)
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p481

い 共有の建物の敷地(概要)

土地と建物が共有物分割の対象となっている場合
建物の個数が1個であれば(全体の)現物分割はできない方向性となる
建物の個数が複数であれば(全体の)現物分割ができることもある
建物を区分所有とすることにより(建物の)現物分割ができる(土地は共有のまま敷地利用権となる)
(いずれも後記※5)

7 建物の現物分割の可否

1個の建物を現物分割とすることは通常はできません。ただし,区分所有とすることを伴う現物分割は可能であることもあります。
また,複数の建物を一括して現物分割とすることは可能です。具体的には個々の建物をいずれかの共有者の単独所有とするという方法です。

<建物の現物分割の可否>

あ 原則

1個の建物の現物分割はできない
※東京地裁昭和44年9月16日(後記※1)
建物につき区分所有を認めえない限りは現物分割は不能である
※川島武宣ほか編『新版 注釈民法(7)物権(2)』有斐閣2007年p481

い 区分所有にすることを伴う現物分割(概要・※4)

建物を区分所有にすることを伴う現物分割は可能である
敷地となっている土地(の所有権や賃借権)も共有物分割の対象となる
詳しくはこちら|区分所有とすることを伴う現物分割

う 複数の建物の現物分割

複数の共有建物を対象とする共有物分割において
それぞれの建物をいずれかの当事者の単独所有とする現物分割は可能である
※東京高裁昭和59年8月30日(後記※2)
※東京地裁平成9月1月30日(3筆の土地と3個の建物を対象とする共有物分割;後記※3)

8 建物とその敷地(土地)の現物分割の可否

共有の土地とその土地上にある建物の両方が共有物分割の対象となるケースもよくあります。
建物が1個である場合は,建物の現物分割ができないので,土地も現物分割ができなくなることが多いです。ただし,建物と比べて土地が広い(建ぺい率に余裕がある)場合は,『土地の一部と建物』と『土地の残り』の2つに分ける現物分割が可能であることもあります。
建物が複数である場合は,個々の建物を単独所有とする現物分割(前述)を用いれば,土地について現物分割をすることも可能になります。

<建物とその敷地(土地)の現物分割の可否(※5)>

あ 建物が1個であるケース

(土地と1個の建物を対象とした共有物分割において)
本件共有物件が土地及び建物であるから現物をもって分割することが法律上不能であること言うまでもなく・・・
※大阪地裁昭和25年10月16日
※東京地裁昭和44年9月16日(同趣旨,他の事情もある,後記※1)

い 建物が複数であるケース

(土地と複数の建物を対象とした共有物分割において)
土地を現物分割にするとともに,それぞれの建物をいずれかの当事者の単独所有とする現物分割は可能である
※東京高裁昭和59年8月30日(原審は現物分割を否定した,後記※2)
※東京地裁平成9月1月30日(3筆の土地と3個の建物を対象とする共有物分割;後記※3)

う 区分所有とすることを伴う現物分割

建物を区分所有とすることが可能である場合
建物を区分所有として,土地を共有のまま敷地利用権とするという内容の現物分割ができることがある
詳しくはこちら|区分所有とすることを伴う現物分割

9 著しい価格減少による現物分割の可否

現物分割を採用できない要件(事情)として,現物分割をすると著しく価格が減少するというものもあります(前記)。
裁判例としては,価格減少率11%ではこれにあたらない(現物分割可能)というものがあります。また,価格減少率19〜35%程度というケースで,原審は現物分割を否定し,控訴審では現物分割を認めました。
単に価格減少率だけで現物分割の可否を判断したわけではないですが,判断基準の目安(参考)になります。

<著しい価格減少による現物分割の可否>

あ 価格減少率11%→可能

現物分割にすることにより約11%の価格減少が生じる(他の事情もある)
→現物分割を採用した
東京地裁平成9月1月30日(後記※3)

い 価格減少率19〜35%→可能

当事者が提出した査定結果によると,更地価格総額1億7000万円が約3000万円ないし5000万円低下し,分割土地の利用,処分がより制限されることが予想される(他の事情もある)
(=価格減少率19〜35%)
→原審では現物分割を否定したが控訴審では認めた
※横浜地裁昭和57年4月21日(後記※2)
※東京高裁昭和59年8月30日(後記※2)

う 価格減少率の基準の目安

価格減少率19〜35%程度のケース(い)において,原審と控訴審の判断が分かれた
→20〜30%程度が判断基準の目安となると思われる
もちろん,他の事情も反映されるので,価格減少率だけで判断が決まるわけではない

10 狭小土地+共有建物→現物分割を否定した裁判例

以上の説明で紹介した裁判例は,実際にはいろいろな要素を検討して現物分割の可否の判断をしています。以下,主要な判断要素が複数あった裁判例の内容をまとめます。
最初に,現物分割をすると土地が狭小になることと,建物が1個であるため現物分割できないという判断を示した裁判例です。

<狭小土地+共有建物→現物分割を否定した裁判例(※1)>

あ 権利関係

本件土地,建物につき,原告らおよび被告らが各4分の1の持分権を有する
土地・建物について共有物分割請求がなされた

い 建物の現物分割

本件建物を現物をもって分割することは法律上不能である

う 土地の現物分割

本件土地は,法律上分割することは不能ではないが,これを4分割するときは,原告らおよび被告らの取得する部分はそれぞれ6坪余りの狭小なものとなる
しかも地上にある本件建物の分割が法律上不能なのであるから,本件土地の分割は著しく価格を損する以外の何物でもなく,したがって本件土地の現物分割は不相当である
→現物分割を否定した(=換価分割とした)
※東京地裁昭和44年9月16日

11 19〜35%価格減少+共有建物→現物分割を否定・肯定した裁判例

現物分割をすると土地の価格うが19〜35%程度減少するということについて,原審と控訴審で現物分割の可否の判断が分かれたケースです。

<19〜35%価格減少+共有建物→現物分割を否定・肯定した裁判例(※2)>

あ 事案

X,Yが共有する土地について,共有物分割請求がなされた
当該土地上にはX,Yが共有する建物が存在する

い 原審=現物分割否定

現物分割をすると81%〜65%に土地の価値が下がる,また,対象土地上の建物と土地の権利者が違う状態になる
→現物分割を否定した
※横浜地裁昭和57年4月21日

う 控訴審=現物分割肯定

分割対象の土地を一団として処分した場合の価格とこれを現物分割してそれぞれを処分した場合の価格の合計とを比較すると,前者の方が高価であろうことは容易に予想されるが,それは土地の分割処分には通常伴なうところであって,その故に現物分割が価格を損なうとか現物分割の方法によるのが相当ではないとすることはできない
分割対象の土地の地上にはX及びYの共有の建物があって,右地を現物分割しても直ちにそれぞれがこれを更地として利用することができる状況にはないけれども,やがては右建物を取り壊して中高層建物に建て替えるなどのことが予想されるものであるうえ,その敷地である分割対象の土地を現物分割しても,それによって当分の間のその利用関係や権利関係が現状以上に複雑になる訳のものでもないのであるから,右のような事情も右土地の現物分割を妨げるものではなく・・・
→原審を取り消して現物分割を採用した
※東京高裁昭和59年8月30日

12 約11%価格減少+共有建物老朽化→現物分割を肯定した裁判例

現物分割による土地の価格減少率が約11%であったことと,建物が老朽化していたことにより,現物分割を認めた裁判例です。

<約11%価格減少+共有建物老朽化→現物分割を肯定した裁判例(※3)>

あ 事案

3筆の土地,当該土地上の3個の建物について共有物分割請求がなされた

い 建物の老朽化

本件各建物は建築後21年ないし32年を経過した老朽建物であり,使用資材の品等,施工とも劣り,当面の使用価値は認められるものの,市場交換価値は全くないものと認められる

う 土地の現物分割

本件各土地を2個に分割しても十分に建物を建築して利用しうる面積及び形状にある
本件各土地を2分してそれぞれ独立した所有権とした場合,本件建物の一部を取り壊すことになる可能性も否定できないが,本件各建物は市場交換価値は全くないものと認められるから,関係者に対し土地の利用上特段の不利益を与えることはない

え 価格減少率

(当事者提出の査定報告書によると)
全体を一括して売却した場合には約1億1007万円の価格であるのに対し,分割して売却した場合の価格の合計は9750万円から9792万円程度に低下する(旨の記載がある)
その低下の割合はせいぜい10パーセント強程度に過ぎない(11.0〜11.4%)
現物分割によって本件各土地の価格が著しく損するとまでは到底認められない

お 結論

裁判所は現物分割を採用した
(3個の建物については,それぞれの建物をいずれかの者の単独所有とした)
※東京地裁平成9月1月30日

本記事では,現物分割の要件について説明しました。
実際には,個別的な事情により判断が違ってきます。
実際に共有物(共有不動産)に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。