【離婚時の財産分与における非上場株式の評価と分与方法】

1 離婚時の財産分与における非上場株式の評価と分与方法

離婚成立の際、夫婦の財産を清算します。
詳しくはこちら|離婚時の財産分与の総合ガイド(法的理論・手続・実務上の問題の全体像)
離婚時の財産分与において、特に問題となりやすいのが非上場株式の取扱いです。本記事では、財産分与における非上場株式の評価(株価算定)や分与の方法を説明します。

2 対立(紛争)の背景

会社経営者の離婚では、オーナー持株が夫婦財産の大部分を占めることが多く、その適切な評価と分与方法が争点となります。上場株式のように日々の市場価格が存在しない非上場株式は、評価方法によって価格が大きく異なります。また、経営権の維持という重要な課題にも直結しています。

3 非上場株式が財産分与の対象となるケース

(1)財産分与の対象となる株式の条件

(清算的)財産分与の対象は、婚姻期間中に夫婦の協力によって取得された財産に限られます。婚姻前から保有していた株式や相続によって取得した株式は、原則として特有財産として財産分与の対象外となります。ただし、婚姻期間中に株式の価値が増加した部分については、夫婦の協力による寄与が認められる場合があります。共有財産と特有財産の区別は、取得時期と取得原因を詳細に調査することで明確にする必要があります。
詳しくはこちら|財産分与の対象財産=夫婦共有財産(基本・典型的な内容・特有財産)

(2)会社経営者のオーナー持株の特殊性

会社経営者が保有するオーナー持株は、単なる投資対象ではなく経営権と密接に結びついています。株式の分散は会社経営に重大な支障をきたす可能性があるため、実務上は経営者側に株式を集約することが事実上必須となります。また、多くの非上場会社では株式に譲渡制限が付されており、第三者への譲渡には会社の承認が必要です。ただし、経営者側への株式移転については会社は承認するでしょうから、実質的な障害にはなりません。

4 非上場株式の評価が困難な理由

(1)上場株式との根本的違い

非上場株式の最大の特徴は、証券取引所のような公開市場が存在せず、客観的な市場価格が形成されないことです。上場株式であれば日々の取引価格によって時価が明確に把握できますが、非上場株式にはそのような基準がありません。また、非上場株式は流動性が著しく低く、売却したくても買い手を見つけることが困難な場合が多いという問題もあります。

(2)評価方法による大きな価格差

非上場株式には複数の評価手法が存在し、どの方法を採用するかによって評価額に大きな差が生じます。これが当事者間の争いの主要な原因となっています。さらに、会社の財務情報や経営実態に関する情報は経営者側に偏りがちで、情報の非対称性が適切な評価を困難にしています。より正確な評価のためには公認会計士による専門的な鑑定が有効ですが、その費用は100万円単位と高額であるため、当事者間の合意形成を阻害する要因となることもあります。

5 非上場株式の評価方法

(1)財産分与における評価の考え方

財産分与における非上場株式の評価は、私人間の公平性を重視した個別評価が原則となります。相続税評価のような画一的な基準ではなく、当該会社の具体的な状況を考慮した適切な評価方法を選択する必要があります。評価方法の選択においては、会社の業種、規模、収益性、資産構成などの要素を総合的に検討することが重要です。
詳しくはこちら|非上場株式(未上場・取引相場のない株式)の株価算定・評価の総合ガイド

(2)実務上の評価手法

簡易的方法として純資産価額方式があります。これは「仮に会社を解散させた場合に株主に返ってくる金額」を評価額とする考え方で、会社の資産から負債を差し引いた純資産を基に株価を算出します。客観性に優れるという長所がありますが、全資産の時価評価について当事者間で争いが生じる可能性があります。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:純資産価額方式

専門的方法としては収益還元方式(DCF法)があります。これは将来の予想収益やキャッシュフローをもとに現在価値を算出する方法で、企業の将来の収益獲得能力を反映できるという長所があります。しかし、将来予測の不確実性と割引率設定における恣意性が課題となります。
少数株主向けの評価方法として配当還元方式があります。これは将来獲得する配当に着目した評価方法ですが、無配当の会社では利用が困難です。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:収益方式(DCF法と配当還元法)

(3)評価額決定の実際

当事者間で評価額について争いが生じた場合、まずは双方が納得できる簡易的な評価方法での合意を目指します。過去の株式譲渡事例がある場合は、その取引価格も参考資料となります。
合意に至らない場合は、最終的には家庭裁判所の審判や訴訟(判決)で決定されることになります。裁判所では、提出された資料に基づき、事案に応じて適切な評価方法を選択して株式価額を決定します。この場合、専門家の鑑定意見が重要な判断材料となることが多くあります。
参考として、医療法人の出資持分について大阪高判平成26年3月13日では純資産価額の7割評価を採用しています。これは個別的な特殊事情による調整をした結果ですし、そもそも医療法人の持分(現在は持分自体がない)と株式では、法的性質が異なります。そのまま株式の財産分与にあてはまるわけではありません。
ところで、会社法上の株価決定(会社非訟)では複数の評価方法を組み合わせることが多く、また、相続税評価では国税庁方式による画一的評価が行われています。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:会社非訟事件(裁判)での株価算定
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)

6 評価の基準時→別居時の原則

財産分与における株式の評価基準時は、離婚成立日が原則とされます。具体的には、協議離婚であれば離婚届が受理された日、調停離婚の場合は調停成立日、審判離婚の場合は審判確定日、裁判離婚の場合は口頭弁論終結日となります。
なお、財産分与の対象となる財産の範囲を決める基準時は、別居時とするのが実務上の取扱いです。これは、別居により夫婦の経済的協力関係が終了したと考えられるためです。
詳しくはこちら|清算的財産分与の対象財産の範囲の基準時と評価の基準時

7 評価に必要な書類

非上場株式の適切な評価のためには、評価対象会社の財務状況を正確に把握することが不可欠です。具体的には、直近3期分の決算報告書、貸借対照表、損益計算書、株主資本等変動計算書、キャッシュフロー計算書などの財務諸表一式が必要となります。また、定款、株主名簿、事業計画書、不動産鑑定書(会社が不動産を保有している場合)なども評価に重要な資料となります。

8 非上場株式の財産分与方法

(1)経営者への株式集約の必要性

非上場会社における株式の分散は、迅速な意思決定を阻害し、会社経営に重大な支障をきたす可能性があります。特に、経営方針を巡って元夫婦間で対立が生じた場合、会社運営が停滞するリスクがあります。そのため、実務上は経営者側に株式を集約することが事実上必須となっています。経営権の維持は、従業員の雇用確保や取引先との関係維持の観点からも重要な要素です。

(2)他の財産による調整と債務負担方式

株式を一方が取得することになった場合、株式以外の夫婦共有財産(不動産、預貯金、有価証券など)を用いてそれぞれが取得する財産の評価額が公平になるように調整を行います。しかし、株式の評価額が他の共有財産の総額を上回る場合には、経営者が自己資金により不足分を補填する方法(債務負担方式)が採用されます。この方式では、経営者が配偶者に対して対価を支払うことで、株式を経営者に集約させながら公平な財産分与を実現します。
詳しくはこちら|清算的財産分与の具体的分与方法のバリエーション(現物分与の対象・債務負担など)

(3)株式移転の事務手続き

多くの非上場会社では定款に株式の譲渡制限条項が設けられており、株式譲渡には取締役会または株主総会の承認が必要です。その場合、株式の移転には、株式譲渡承認の手続きが必要となります。ただし、財産分与により経営者側が株式を取得する場合、通常、会社側が承認を拒否することはありません。

9 評価額で争いになった場合の対処法

(1)当事者間での解決方法

評価額について争いが生じた場合、まず当事者間での話し合いによる解決を目指すことが重要です。簡易的な評価方法(純資産価額方式)を採用することで、迅速かつ低コストでの解決が可能となります。早期解決により、精神的負担の軽減や弁護士費用の節約というメリットも得られます。また、将来の事業環境の変化によるリスクを回避することもできます。

(2)専門家による鑑定

当事者間での合意が困難な場合には、公認会計士や税理士による専門的な鑑定を検討することになります。専門家による鑑定は客観性と説得力に優れていますが、費用対効果を慎重に検討する必要があります。鑑定費用が争いとなっている金額に比して過大である場合には、他の解決方法を模索することも重要です。

(3)調停・審判(訴訟)での解決

離婚成立前であれば、離婚の調停や訴訟と財産分与がセットになります。離婚成立後には、財産分与だけ(単体で)の調停や審判を利用することになります。最終的には、審判や訴訟として、裁判所が採用する評価方法により株式価額が決定されることになります。
裁判所では、最終的には、公認会計士などの専門家を鑑定人として選任し、客観的な評価を行うことになります。ただし、当事者の主張と提出資料に基づいて裁判所が評価額を決定できることもあります。実務では、和解が成立する、評価額について合意が成立する、などにより、実際に鑑定の実施まで進むことは稀です。

10 税務上の注意点

(1)財産分与時の税務→譲渡所得税に注意

財産分与による株式の移転については、譲渡所得税の課税が生じます。誤解が多いところですので要注意です。
詳しくはこちら|財産分与に譲渡所得税が課税される(判例・通達)

(2)将来の相続対策との関係

財産分与による株式の移転は、将来の事業承継対策にも影響を与えます。事業承継税制の適用を検討している場合には、財産分与による株式移転が制度の要件に与える影響を事前に確認することが重要です。また、後継者への株式承継計画との整合性も考慮する必要があります。なお、相続税、贈与税の計算では、国税庁方式による画一的評価が行われます。財産分与における株式の個別評価とは異なりますので注意を要します。
詳しくはこちら|非上場株式の株価算定・評価:国税庁方式(相続税・贈与税)

11 まとめ

非上場株式の財産分与は、評価方法の選択から分与方法の決定まで、高度な専門知識を要する複雑な問題です。市場価格の不存在、情報の非対称性、高額な鑑定費用など、多くの課題が存在します。適切な解決のためには、会社の状況、株主の立場、評価の目的を総合的に考慮した戦略的なアプローチが不可欠です。

12 関連テーマ

(1)離婚時の財産分与における金融資産の扱い(夫婦共有財産か特有財産か)

詳しくはこちら|離婚時の財産分与における金融資産の扱い(夫婦共有財産か特有財産か)

本記事では、離婚時の財産分与における非上場株式の評価と分与方法について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に非上場株式の財産分与に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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【非上場株式の株価算定・評価:所得税・法人税における評価】
【非上場株式の株価算定・評価:固定合意における株価評価ガイドライン】

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