【夫婦トラブルに関与した者の損害賠償責任(カウンセラー・弁護士)】

1 夫婦トラブルに関与した者の損害賠償責任(カウンセラー・弁護士)

夫婦間のトラブルの解決には、いろいろな立場の人が関与します。弁護士が代表的ですが、カウンセラーもそのひとつです。
このような、トラブルを解決する人の行為が、別のトラブルを起こしてしまう、ということもあります。
本記事ではこのようなカウンセラーや弁護士の法的責任が発生するという状況を説明します。

2 子供連れ去りアドバイスによる慰謝料

子供をどちらが引き取るかということが、夫婦間の熾烈な対立に発展することがよくあります。最終的に家庭裁判所が親権者の指定として判断することになりますが、その判断基準の中に継続性の原則があります。要するに、それまでの育てていた親の元で今後も育てる方がよい、というものです。
詳しくはこちら|親権者指定での『子の利益』では4つの原則が基準となる
このような判断基準を知っていると、夫に子供を連れてゆかれた妻へのアドバイスとして、養育実績を作るために子供を連れ戻すと有利だと言いたくなります。もちろん、夫と話し合って了解をとって子供を引き取るならよいですが、強引に連れ戻すことは妥当ではありません。カウンセラーが強引な連れ戻しをアドバイスした、というケースで、カウンセラーへの慰謝料請求が認められました。
優れたアドバイス違法なアドバイスは紙一重である、ともいえます。

子供連れ去りアドバイスによる慰謝料

あ 慰謝料額
請求額 認容額
1000万円 30万円
い 事案

夫と妻が別居に至った
夫が子供を連れ去った
妻がカウンセラーに相談した
カウンセラーが妻に『子供を連れ去る(取り戻す)』ことをアドバイスした
妻がアドバイスどおりに、子供たち夫のもとから連れ去った

う 裁判所の判断

カウンセラーが妻の奪取行為を容易にする言動をした
→アドバイスは違法である
→慰謝料を認めた
※名古屋地裁平成14年11月29日

3 請求額満額認容判決による請求額設定ミス疑惑

夫婦に関するトラブルの典型のひとつは、不貞(不倫)の慰謝料請求です。交渉や訴訟に弁護士が関わることがとても多いです。
実際の不貞慰謝料を請求する訴訟では、請求額満額を認める判決というものがたまにあります。一見、適正額ぴったりをうまく請求したと思えます。しかし、裁判のルールとして、裁判所は判決として、請求額までしか認めてはいけないというものがあります。裁判所が認めてよい金額の上限は請求額なのです。
逆にいえば、もっと高く請求額を設定しておけば、裁判所がもっと高い金額を認めた可能性がある、ということになります。弁護士による請求額の設定のせいで、裁判所が認める金額を抑制してしまったかもしれない、という状況ともいえるのです。
弁護士のミスとして法的責任(賠償責任)が認められるとは限りませんが、もしかしたらもっと高い判決になっていたかも、という気持ちが残ってしまいます。

請求額満額認容判決による請求額設定ミス疑惑

あ 処分権主義(前提)

裁判所は、原告の請求額を超える金額を、判決として認めること(認容)はできない
※民事訴訟法246条

い 認容額抑制現象

請求額満額が、判決で認められた(認容された)場合、「請求額を上げておけばより高い認容額が獲得できた」という可能性がある
請求額の設定認容額を抑制した可能性ある

う 弁護士の責任の可能性

請求額の設定が妥当ではなかったとすれば、弁護士の善管注意義務違反となる可能性がある

え 一部請求作戦(参考)

請求額の一部として請求額を設定することが認められている
→この場合、事後的に追加の提訴が可能である

お 実情(参考)

実際の訴訟で、請求額と判決の認容額が一致するケースも結構ある
詳しくはこちら|不貞相手の慰謝料|事例・判例|認容額=50〜500万円

4 訴状における弁護士費用の請求漏れ

不貞慰謝料の請求について、別の問題もあります。通常、訴訟で不貞慰謝料が認められる場合、弁護士費用相当額も加算できます。しかし、原告が請求していない(訴状に記載していない)場合には裁判所が加算することはできません。
実際の訴訟では、訴状に、弁護士費用相当額の請求が記載されていないケースもあります。結論として「請求していれば認められたはずだった」という状況になります。
これについても、弁護士の法的責任が発生するとは限りませんが、不完全燃焼のような気持ちが残ってしまいます。

訴状における弁護士費用の請求漏れ

あ 弁護士費用相当額の賠償責任(前提)

不貞や離婚の慰謝料請求を含む、不法行為による損害賠償請求では、弁護士費用相当額の賠償責任も認められている
詳しくはこちら|不貞相手の不貞慰謝料の相場(200〜300万円)

い 処分権主義(前提)

裁判所は、原告が請求していない内容を、判決として認めること(認容)はできない
※民事訴訟法246条

う 実情(参考)

実際の訴訟で、弁護士費用相当額の請求(訴状の記載)がないケースも結構ある
詳しくはこちら|不倫(不貞)の慰謝料として50〜500万円を認めた裁判例

え 弁護士の責任の可能性

「請求しておけば認められた」としたら、請求しなかったこと(記載漏れ)が、弁護士の善管注意義務違反となる可能性がある

本記事では、夫婦のトラブルに関与したカウンセラーや弁護士の責任が発生するような状況について説明しました。
トラブルをかかえる当事者の方は、トラブル対応のノウハウを持ったカウンセラーや弁護士に相談する、ということが重要です。
実際に不貞行為その他の夫婦に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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