1 不貞慰謝料請求(不法行為責任)における「破綻」判定の実例
2 不法行為責任判定の「破綻」の判定の傾向
3 別居3か月後の性的関係の事案(平成8年最判)
4 別居3か月後の破綻認定
5 「破綻」認定への批判(疑問)
6 別居1年2か月後の破綻認定(平成17年東京高判)
7 まとめ

1 不貞慰謝料請求(不法行為責任)における「破綻」判定の実例

夫が妻以外の女性と性的関係を持った場合、原則として、不貞慰謝料が発生します。ただし、性的関係を持った時点で、すでに夫婦関係が破綻していた場合には慰謝料は発生しません(平成8年最判)。
詳しくはこちら|夫婦の一方との性交渉が不法行為になる理論と破綻後の責任否定(平成8年判例)
ここまでは分かりやすいのですが、実際に「破綻していた」といえるか、という判定は簡単ではありません。ちょっとした主張や証拠の違いで、結論が真逆になることもあります。
本記事では、実際に裁判所が「破綻」を判定する目安(傾向)や、実際に判断したケースを説明します。

2 不法行為責任判定の「破綻」の判定の傾向

不貞慰謝料を否定する「破綻」の判断基準として明確なものがあるわけではありません。ただし、実際の裁判所の判断の傾向としては、別居の後であれば破綻後であるという判断になりやすいです。

不法行為責任判定の「破綻」の判定の傾向

あ 西原氏見解(概要)

(同じ破綻でも、離婚原因としての「婚姻を継続し難い重大な事由」(民法七七〇条一項五号)の場合は、通常、五年、一〇年ないしはそれ以上の別居期間の後にはじめて認められている。)
不法行為責任を否定するための事情としての「破綻」は、それよりもはるかに短かい期間で、また内容的にも簡単に認定されているが、はたして妥当であろうか。
※西原道雄稿『婚姻関係破綻後に夫婦の一方と肉体関係を持った第三者の他方に対する不法行為責任』/『私法判例リマークス1997(上)平成8年度判例評論』日本評論社1997年p71

い 離婚判例ガイド(概要)

(不法行為責任判断の「破綻」について)
何を「破綻」とみるかについては、おおむね判例は、夫婦の「別居」が先行している場合に破綻していたと判断するようであり、別居後に婚外関係が発生しても、第三者の不法行為責任は発生しないとしている。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p161
詳しくはこちら|婚姻関係の「破綻」が問題となる状況と判断基準の共通性

3 別居3か月後の性的関係の事案(平成8年最判)

次に、実際に裁判所が、「破綻」したかどうかを判断したケースを紹介します。まず、前述の平成8年最判の事例の内容を紹介します。
ポイントは、別居と性的関係の流れ(前後関係)です。
夫と女性Aが知り合い、その約1か月後に別居が始まり、その約3か月後に性的関係に至った、という流れです。性的関係に至った時期には、すでに「破綻」していたかどうか、という判定で結論が決まります。

別居3か月後の性的関係の事案(平成8年最判)

あ 調停申立

夫は、昭和61年7月ころ、妻と別居する目的で家裁に夫婦関係調整の調停を申し立てた
夫は、妻が調停期日に出頭しなかったため、右申立を取り下げた

い 知り合う→別居→性的関係

ア 知り合う 女性Aは、スナックでアルバイトとして働いてた
昭和62年4月頃、夫がスナックに客として来店し、女性Aと夫は知り合った
イ 別居 5月6日、夫は自宅を出て別のマンションに転居し、妻と別居するに至った。
ウ 性的関係 夏ころまでに、夫と女性Aは性的関係を持った
※最判平成8年3月26日

4 別居3か月後の破綻認定

夫婦関係の「破綻」とは、共同生活ができない、かつ、回復の見込みがない、ということです。とても抽象的なので、判断は簡単ではなく、もともと、判断する裁判官によるブレが大きいのです。
このケースについて裁判所は、性的関係を持った時期が別居後であることを指摘し、破綻後である、と判断しました。

別居3か月後の破綻認定

あ 「破綻」の意味(概要・前提)

夫婦が婚姻の目的である共同生活を達成しえなくなり,その回復の見込みがなくなったこと
詳しくはこちら|婚姻関係の「破綻」の基本的な意味と判断基準

い 原審(控訴審・前提)

女性Aが夫と肉体関係を持ったのは、5月の妻と夫の別居後のことであり、その当時、妻と夫との夫婦関係は既に破綻し、形骸化していた
慰謝料請求権を否定した

う 平成8年最判

女性Aが夫と肉体関係を持った当時、夫と妻との婚姻関係が既に破綻しており、女性Aが妻の権利を違法に侵害したとはいえないとした原審の認定判断は、正当として是認することができ、原判決に所論の違法はない。
※最判平成8年3月26日

5 「破綻」認定への批判(疑問)

以上の判断に対して、疑問も指摘されています。別居後3か月、というのは別居の直後といえるので、「破綻」したと言うには早すぎるのではないか、という考えです。
そもそも別居とは、具体的には夫が家を出たというものです。夫の家出(別居)よりも前に夫は女性Aと知り合っています。この流れをみると、別居(家出)より前から夫は女性Aと交際する(性的関係を持つ)ことを予定していたと判断できるかもしれません。そう考えると、納得しきれない感じも残ります。

「破綻」認定への批判(疑問)

本事案の場合、1987(昭62)年5月に夫が家を出る前に夫はCと知り合っており夏頃には夫と女性Aは男女関係になったと認定されている。
妻がやや常識を反する行動をしたからといって、妻に離婚の意思があったわけではない。
夫とCが性交したのは、別居から3か月未満であるので、Cの存在が夫の家出を決定づけたとみられないこともない。
夫がCと性交をした当時、判旨のいうように婚姻関係が「既に破綻」していたといえるか極めて微妙である。
ちょっとした証拠の有無により破綻と不貞の先後の認定が異なってしまう不合理さを印象づける判決でもある。
※二宮周平ほか著『離婚判例ガイド 第3版』有斐閣2015年p162

6 別居1年2か月後の破綻認定(平成17年東京高判)

次に、別のケースを紹介します。同居している時点で夫婦の関係はかなり悪化していました。そして同居期間中に不貞行為が始まり、その直後に妻が家を出て(別居し)、離婚調停を申し立てました。その後、妻と不貞相手との間に子供が誕生し、親子関係不存在確認訴訟が行われ、判決が言い渡されます。
このケースで、「破綻」したといえるのはどの時点か、ということが問題となりました。
最終的に裁判所は、親子関係不存在確認の判決確定の時点としました。別居後約1年2か月後ということになります。
平成8年判例の判断よりも遅い判定のようにも思えます。ただ、この事案では、夫は最後まで「妻に戻ってきて欲しい」と言っていました。生まれた子供が夫の子ではなく不貞相手の子であると公的に判定された時点では、その望みはなくなった(あきらめるべきだ)という考えがあったのかもしれません。

別居1年2か月後の破綻認定(平成17年東京高判)

あ 事案内容

平成元年頃から夫婦仲が悪化していた
平成8年ころ、妻はコンビニエンスストアで働くようになった
平成9年夏ころ、妻は客であった不貞相手と知り合った
平成11年6月ころ、妻と不貞相手性交渉を行った
平成11年7月25〜26日、夫と妻は性交渉を行った(これが最後である)
平成11年6月27日、妻は夫と別居し、離婚調停を申し立てた(夫は離婚を拒否した)
平成12年4月、妻と不貞相手の間に子が生まれた
妻は、夫に対して親子関係不存在確認の訴えを提起した
平成12年9月2日親子関係不存在確認の裁判が確定した
その後、夫は妻との離婚を決意するに至っていない

い 裁判所の判断

以上の経過にかんがみると、遅くとも平成12年9月2日には、夫と妻の婚姻関係は、完全に破綻したものと認められる。
※東京高判平成17年6月22日

7 まとめ

平成8年の最高裁判例の判断をみると、(夫の立場で)「妻以外の女性と交際する場合には、家を出て(別居して)3か月間証拠をとられなければ、慰謝料の問題にならない」と思えてしまいます。しかし、そのように単純に一般化できません。別居以前から夫婦の仲が悪化していた、ということが判断に影響しています。
逆に、別居前の夫婦仲の悪化の状況によっては、別居の直後に性的関係があったケースでも、破綻後であると判断されることもあります。
あくまでも「破綻」の判断は、個別的な、多くの事情を考慮してなされるのです。

本記事では、不貞慰謝料の請求において、夫婦関係の「破綻」の判断がなされた具体的な事例を紹介しました。
実際には、個別的な事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不貞(不倫)などの夫婦に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。