【共有物分割訴訟において権利濫用・信義則違反・訴えの利益を判断した裁判例(集約)】

1 共有物分割訴訟において権利濫用・信義則違反・訴えの利益を判断した裁判例(集約)

共有物分割訴訟では、権利の濫用が主張されることが類型的に多いです。これに関してはいろいろな法的な解釈論や傾向があります。
詳しくはこちら|共有物分割訴訟における権利濫用・信義則違反・訴えの利益なし(基本・理論)
本記事では、実際に裁判所が共有物分割請求が権利の濫用、信義則違反や訴えの利益を判断した、つまり分割請求自体を認めるかどうかを判断した実例を整理しながら紹介します。

2 権利濫用を肯定した裁判例(集約)

まずは、裁判所が権利の濫用(そのもの)を認めた、つまり共有物分割を否定したいくつかの裁判例を表にまとめました。

権利濫用を肯定した裁判例(集約)

あ まとめ
裁判例 共有物 共有者の関係性 特殊事情
東京地裁平成3年8月9日 土地・建物 遺産分割後の相続人(遺産流れ) 先行する遺産分割で占有者は占有の対価を実質的に負担している、この時点では全面的価格賠償の判例がなかった(ので選択できなかった)
東京地裁平成8年7月29日 マンション 遺産分割後の相続人(親子・遺産流れ) 占有者は60歳以上、原告は医師
東京高裁平成25年7月25日(後記※8 マンション 遺産分割後の相続人(遺産流れ) 先行する遺産分割協議では占有者の居住を前提としていた
東京地判平成19年1月17日 土地・建物 遺産分割後の相続人(遺産流れ) 共有者は当該建物において営む共同浴場の共同経営者であった、加害的な意図が詳細に認定されている(後記※8
大阪高裁平成17年6月9日 土地・建物 夫婦 本来は財産分与で占有者(妻)が取得する見込み、居所の確保は原告(夫)の義務である(後記※1
東京地裁平成26年4月25日(※2)(後記※1 マンション 夫婦 婚姻関係は破綻していない
東京地判平成27年5月27日(後記※8 マンション 持分購入者と他の共有者 (前記※2)の控訴審係属中に共有者の1人が持分を売却した→持分の買主が新たに共有物分割訴訟を申し立てた
福岡高裁平成19年1月25日 通路(土地) 隣接地の所有者
東京地判平成25年12月25日 通路(土地) 隣接地の所有者
い 補足説明

(※1)の裁判例について
別の記事で説明している
詳しくはこちら|夫婦間の共有物分割の実例(権利濫用の判断など)
(※8)の裁判例について
別の記事で説明している
詳しくはこちら|共有物分割請求を権利の濫用であると判断した裁判例(集約)

3 実質的に権利濫用を肯定した裁判例(集約)

次に、裁判所が権利の濫用(そのもの)は認めなかったけれど、他の理由で分割請求を否定したという裁判例を表にまとめました。

実質的に権利濫用を肯定した裁判例(集約)

あ まとめ
裁判例 共有物 共有者の関係性 特殊事情 裁判所の判断
横浜地判昭和62年6月19日(後記※5 通路(土地) 隣接地の所有者 民法257条、676条に準じ、その権利に内在する制約として・・・共有物の分割を求めることができない
東京高裁昭和57年12月27日(後記※4 土地の賃借権 土地上には区分所有建物が存在する 事柄の性質上、特段の事由のない限り、敷地の賃借権の分割を請求することは出来ない
い 補足説明

(※5)の裁判例については、別の記事で説明している
詳しくはこちら|共有の私道の共有物分割(肯定・否定の見解とその根拠)
(※4)の裁判例については、別の記事で説明している
詳しくはこちら|借地権の共有物分割(現物分割・換価分割に伴う問題)

4 権利濫用・信義則違反を否定した裁判例(集約)

最後に、当事者(被告となった共有者)が権利の濫用信義則違反を主張したけれど裁判所がこれを認めなかった(共有物分割を実現した)裁判例です。
結局、分割請求自体を否定する事情のパターンはある程度決まっているけれど、最終的な判断は個別的事情によって違ってくるということが分かります。

権利濫用・信義則違反を否定した裁判例(集約)

あ まとめ
裁判例 共有物 共有者の関係性 特殊事情
大阪地裁昭和41年2月28日 建物 遺産分割後の相続人(遺産流れ) 過去に立退料の授受があった
東京高判平成6年11月30日(後記※9 土地(訴外建物あり) 相続人(遺産流れ) 原告は提訴前に調停申立をした
大阪高判平成7年3月9日(後記※10 建物 夫婦(係属中に離婚成立) 夫(原告)は妻(被告)の有責性による離婚請求棄却を主張していたため、財産分与の申立を避けて共有物分割請求をしたと思われる
東京地裁平成4年2月28日(※3) 通路(土地) 隣接地の所有者 裁判所は現物分割を選択した
東京高判平成4年12月10日(後記※6 通路(土地) 隣接地の所有者 (前記※3)の控訴審、裁判所は現物分割を選択した(維持した)上で、通行地役権を認めた
東京地判平成3年10月25日(後記※7 通路(土地) 隣接地の所有者 被告は信義則違反を主張したが裁判所は認めなかった(分割を実現した)
東京地判平成25年1月28日 土地+建物 事業者による持分買取 原告は「地上げの強行」として却下を求めたが、裁判所は「不適法とすべき理由はない」とだけ示した
東京地判平成25年6月25日 土地(訴外建物あり) 相続人(遺産流れ) 裁判所は、当該土地上に建物を所有する者(土地共有者)が取得する全面的価格賠償を採用した
東京地判平成25年11月28日 土地+建物 相続人(遺言+遺留分減殺) 裁判所は、当該不動産に居住する原告が取得する全面的価格賠償を採用した
東京地判平成31年3月20日 借地権 相続人(遺産流れ) 裁判所は、当該借地上の建物の共有者ではない原告が取得する全面的価格賠償を採用した(建物収去土地明渡請求も認容した=被告らの住居を奪う結果)
い 補足説明

(※6)(※7)の裁判例については、別の記事で説明している
詳しくはこちら|共有の私道の共有物分割(肯定・否定の見解とその根拠)
(※10)の裁判例については、別の記事で説明している
詳しくはこちら|夫婦間の共有物分割の実例(権利濫用の判断など)

5 訴訟前の調停が権利濫用否定に働いた裁判例

前記の、権利濫用を否定した裁判例の中に、共有物分割の訴訟を申し立てる前に、民事調停を申し立てたことが権利濫用を否定する事情の1つとなったという裁判例の事案を紹介します。判決には明記されていませんが、加害意図を否定する方向、また、被告への配慮をしたという方向に働いたといえるでしょう。

訴訟前の調停が権利濫用否定に働いた裁判例(※9)

あ 当事者の主張

(共有物分割の対象の)不動産は、T(被相続人)の生前、同人が会社に貸していたものであり、本件共有物分割請求はTの意思に反すること、なお、Tの相続人である被控訴人らは右貸借義務をも承継したものであること、また、本件はTの遺産分割事件であるから、本来の相続人間において、その分割について協議、調停又は審判がされなければならず、それによってのみ実情に適した解決方法が考えられるのに、被控訴人Iは右遺産に対する一部相続人の相続持分を第三者に流出させることによって、本来の相続人間における右遺産分割についての協議や調停等を不能にしたものであることなどからすれば、被控訴人らの本件共有物分割請求は権利の濫用又は信義則に反するものとして許されない。

い 裁判所の判断

Tの死後、控訴人らと被控訴人らとの間で会社の経営権等をめぐり種々の紛争が発生するようになり、相互に円満な話し合いをすることが困難な状況になっていること、なお、本件共有物分割請求について、被控訴人らは控訴人らを相手に、まずS簡易裁判所に共有物分割の調停を申し立てたが、それが不調に終わったため、本訴に至っていることなどからすれば、控訴人ら主張の諸事情を考慮しても、本件共有物分割請求が権利の濫用に当たるとか信義則に反するものとはいえない
※東京高判平成6年11月30日

6 転売目的による全面的価格賠償の否定(参考)

権利の濫用の理由として主張されることが多いものの1つが、転売目的です。つまり共有持分を事業者が購入し、その後に共有物分割請求をして、事業者が全体を取得する全面的価格賠償を実現し、最後に当該不動産(全体)を第三者に売却する、という処理です。このような転売目的が権利の濫用の理由の一部となることがあります。それとは別に、(権利の濫用にはならないけれど)全面的価格賠償の相当性を否定する理由となることがあります(東京地判平成27年3月5日)。
詳しくはこちら|全面的価格賠償の相当性が認められる典型的な事情

7 離婚後の元夫婦間の共有物分割(概要)

夫婦間の共有物分割が権利の濫用となるかどうか、が問題となることはよくあります。これとは別に、離婚の後に、元夫婦の間で共有物分割が請求されることもあります。この場合も、権利の濫用が主張されることがありますが、裁判所は認めない(分割を実行する)傾向があります。たとえば居住する共有者が退去する結果となる判決を出す実例もあります。離婚後の元夫婦間の共有物分割については、別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|離婚後の元夫婦間の共有物分割(経緯・実例)

8 境界確定未了を理由とした共有物分割の却下判決

以上で説明したのは、権利の濫用などの実体上の根拠により共有物分割請求を否定するというものでした。これとは少し違って、訴えの利益がないという理由で共有物分割請求の訴訟を却下とした裁判例があります。
これは、土地の境界が不明確であるという事情を、(分割類型の1つである)現物分割をするための障害であると捉え、共有物分割請求自体の訴えの利益がないという判断です。一般化しにくいですが紹介しておきます。

境界確定未了を理由とした共有物分割の却下判決

・・・原告は本件土地の現物分割を求めているところ、弁論の全趣旨によれば、本件土地は、これに隣接する国有地との間の境界が明確でなく、その確定に長期の日時を要することが認められるので、現時点での現物分割は不可能であることが明らかであるから、本件訴えはその利益がないというべきである。
よつて、本件訴えを却下することとし・・・主文のとおり判決する。
※東京地裁昭和62年5月29日

9 境界未確定があっても借地を現物分割とした裁判例

対象となる土地の境界(筆界)の確定が未了であっても、共有物分割ができないとは限りません。現物分割(と換価分割)を認めた裁判例があります。全面的価格賠償の場合には、より、境界未確定が支障とならない方向性となるでしょう。

境界未確定があっても借地を現物分割とした裁判例

あ 被控訴人の主張

本件借地の境界は、道路境界などが未査定のため明確でなく、現物分割に適しない。

い 裁判所の判断

被控訴人らは、道路境界などが未査定のため借地の範囲が明確でないというが、借地の範囲について地主との間に争いがあるわけではなく、所有権の境界に若干明確でないところがあるとしても、本件の場合、そのために現物分割が困難となるというほどの事情は認められないから、この主張は採用できない。
(現物分割と換価分割の併用とした)
※東京高判平成6年2月22日
(参考)当該裁判例は別の記事で説明している。
詳しくはこちら|借地権の共有物分割(現物分割・換価分割に伴う問題)

本記事では、共有物分割訴訟において、権利の濫用や信義則違反を判断した裁判例を整理しつつ紹介しました。
実際には、個別的事情によって、法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に共有不動産(共有物)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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