【不動産競売における差押の効力(民事執行法46条)の全体像】

1 不動産競売における差押の効力(民事執行法46条)の全体像
2 民事執行法46条の条文規定
3 差押の効力の発生時期
4 差押の効力の客観的範囲
5 差押の効力の内容(種類全体)
6 差押による消滅時効の更新(中断)
7 競売手続開始・差押による根抵当権の元本確定
8 差押による対抗関係(概要)

1 不動産競売における差押の効力(民事執行法46条)の全体像

強制執行や担保権の実行として不動産の競売が行われるケースはよくあります。競売の手続の最初の段階で,裁判所は差押を行います。
本記事では,差押の効力の全体像を説明します。

2 民事執行法46条の条文規定

差押の効力は,民事執行法46条が定めています。最初に条文自体を押さえておきます。

<民事執行法46条の条文規定>

(差押えの効力)
第四十六条 差押えの効力は,強制競売の開始決定が債務者に送達された時に生ずる。ただし,差押えの登記がその開始決定の送達前にされたときは,登記がされた時に生ずる。
2 差押えは,債務者が通常の用法に従つて不動産を使用し,又は収益することを妨げない。

3 差押の効力の発生時期

差押の効力が発生する時期は,開始決定の送達と差押登記の早い方です。実際には,送達よりも先に差押登記がなされているので,差押登記がなされた時期ということになります。

<差押の効力の発生時期>

あ 効力発生時期

差押の効力は,開始決定が債務者に送達された時または差押登記がなされた時の早い方の時点で生じる
※民事執行法46条1項

い 実務の運用

債務者に対する開始決定の送達を先行させると,差押登記がされる前に,債務者が譲渡,抵当権や賃借権の設定などの妨害的な処分行為をするおそれがある
実務では従来から,差押登記がされたことを確認してから,債務者に開始決定を送達する取扱いがされている
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事執行法』日本評論社2014年p133
※浦野雄幸編『基本法コンメンタール 民事執行法 第6版』日本評論社2009年p151,152

4 差押の効力の客観的範囲

差押による処分制限の効力が及ぶ物理的な範囲としては,対象の不動産そのものは当然として,さらに,付随的な不動産,動産,権利も含みます。付加一体物従物などのことです。

<差押の効力の客観的範囲>

あ 基本

差押の効力が及ぶ対象の範囲は,明文の規定を欠くが,原則として,その不動産上の抵当権の効力が及ぶ範囲と同一である

い 抵当権の効力が及ぶ範囲(概要)

抵当権の効力は,目的不動産と,その付加一体物,従物,従たる権利に及ぶ
詳しくはこちら|抵当権の及ぶ付加一体物(民法370条と87条2項の関係)

う 典型例

借地上の建物に対する差押の効力は,当該建物のほか,その借地権にも及び,買受人は,建物の所有権とともに借地権を取得する
もっとも,買受人は,賃借権の譲渡については借地権設定者の承諾または裁判所の許可を得ることが必要である
※東京地裁昭和33年7月19日
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事執行法』日本評論社2014年p134
※浦野雄幸編『基本法コンメンタール 民事執行法 第6版』日本評論社2009年p153,154
(参考)借地権設定者の承諾の必要性,承諾に代わる裁判所の許可の手続は別の記事で説明している
詳しくはこちら|借地上の建物の譲渡は借地権譲渡に該当する
詳しくはこちら|借地上の建物の競売・公売における買受人譲渡許可の裁判の趣旨と特徴

5 差押の効力の内容(種類全体)

差押の効力の内容のうち主なものは債務者による処分を制限する効力です。債務者による使用は基本的には制限されません。それ以外に時効中断や根抵当権の元本確定などの効果(効力)もあります。

<差押の効力の内容(種類全体)>

あ 処分制限効(概要)

交換価値を維持するために
債務者による処分を制限する

い 使用制限効(なし・概要)

交換価値が維持される用法である限り
債務者による使用は制限されない
詳しくはこちら|不動産競売における差押の処分制限効と使用制限効(民事執行法46条)

う 付随的な効力

時効更新(中断)(後記※1)・根抵当権の元本確定など(後記※2

6 差押による消滅時効の更新(中断)

以上が,差押の本質的な効力です。それ以外にも,差押により生じる法的効果もあります。まず,消滅時効の更新の効果があります。

<差押による消滅時効の更新(中断)(※1)

あ 時効更新の効力の発生

差押の効力が生じると,執行債権または実行担保権の被担保債権につき,競売申立ての時点に遡って時効更新(中断)の効力が生じる
※民法148条1項1号,2号
※大決昭和13年6月27日

い 時効更新の効力の解消

競売申立が取り下げられた場合および執行取消文書の提出により執行手続が取り消された場合には,中断の効力は失われる
※民法148条1項

7 競売手続開始・差押による根抵当権の元本確定

差押や競売手続開始決定により,根抵当権の被担保債権の元本が確定するという効果も生じます。

<競売手続開始・差押による根抵当権の元本確定(※2)

あ 根抵当権者による申立

根抵当権者が根抵当不動産につき競売もしくは収益執行または物上代位による差押を申し立て,手続の開始または差押があったときは,根抵当権が担保すべき元本は,申立ての時点で確定する
※民法398条の20第1項1号

い 第三者による申立

根抵当権者以外の第三者が根抵当不動産に対して競売を申し立て,手続の開始があったときは,根抵当権者がこの事実を知ったときから2週間を経過した後に,元本が確定する
※民法398条の20第1項3号
※山本和彦ほか編『新基本法コンメンタール 民事執行法』日本評論社2014年p135

8 差押による対抗関係(概要)

債権者が差押の登記を得ることにより,債務者以外の者,例えば債務者(または物上保証人)から担保不動産を譲り受けた者に対しても対抗力を持つ,という効果も生じます。

<差押登記による対抗力(概要)>

あ 民法177条の第三者該当性

一般的な債権者は民法177条の第三者に該当しない
差押債権者は民法177条の第三者に該当する
※民法177条

い 具体例

差押債権者は,債務者から担保不動産を譲り受けた者の登記の欠缺を主張することができる
詳しくはこちら|債権者が民法177条の第三者に該当するか否か

本記事では,差押の効力について説明しました。
実際には,個別的事情により,法的判断や最適な対応方法は違ってきます。
実際に不動産の競売,差押や債権回収の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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