1 相続一般×対抗関係|基本
2 相続×売買|売主の地位の承継|事例
3 登記義務の共同相続→不可分債務
4 相続×対抗関係→否定|転得者|事例
5 相続×対抗関係→否定|転得者|裁判所の判断

1 相続一般×対抗関係|基本

相続に関する財産移転の法的性格の問題があります。
『対抗関係』になるかどうかという解釈論です。
詳しくはこちら|相続×対抗関係|全体|真実と登記の食い違い・要因=相続人による処分
本記事では,相続に関する対抗関係の基本的事項を説明します。
まずは相続の一般的な性格からの解釈をまとめます。

<相続一般×対抗関係|基本>

あ 相続×対抗関係

相続による財産の移転について
→『包括承継』に分類される
=特定承継・取引には該当しない
→原則的に『対抗関係』にはならない

い 相続×登記ルール

登記を得た者が優先されるルールは適用されない

『相続』による財産の移転に関しては『対抗関係』は生じません。
『登記で優劣を決める』ルールも適用されないのです。

2 相続×売買|売主の地位の承継|事例

相続は『包括承継』という性格があります(前記)。
そうすると『登記を移転する義務』も承継します。
登記を得ても『優先』どころか『渡す義務』があるのです。
このような相続の特殊な性格が現れる具体例を説明します。

<相続×売買|売主の地位の承継|事例>

あ 不動産売却

AがBに不動産を売却した
Bへの移転登記はまだ行われていない

い 相続

Aが亡くなった
Aの相続人はCである
Cは相続による移転登記を行った
Cは所有権登記を得た

う 対抗関係→否定

A→Cという移転は『包括承継』である
→CとBは対抗関係ではない
むしろCは『登記義務』を承継する
→Cは『Bへの移転登記』に協力する義務がある

3 登記義務の共同相続→不可分債務

登記義務が『複数の相続人』に承継されることもあります。
この場合,登記義務の法的な扱いが問題になります。
判例の判断をまとめます。

<登記義務の共同相続→不可分債務>

あ 登記義務発生

AがBに不動産を売却した
Bへの移転登記はまだ行われていない

い 相続

Aが亡くなった
Aの相続人はB・Cである
相続人B・Cは登記義務を承継する

う 不可分債務

B・Cの登記義務は不可分債務となる
Aからの移転登記請求訴訟について
→必要的共同訴訟ではない
AはB・Cのいずれかor両方に対して請求できる
※最高裁昭和60年11月29日
※最高裁昭和36年12月15日

4 相続×対抗関係→否定|転得者|事例

相続では『結果的に無効となる登記』が生じやすいです。
詳しくはこちら|相続×対抗関係|全体|真実と登記の食い違い・要因=相続人による処分
そして無効な登記名義人から別の人に譲渡されることもありがちです。
この第三者である譲り受けた人のことを『転得者』と呼びます。
転得者が登記を得た場合の法的解釈を説明します。
前提の事情自体がちょっと複雑です。
まずは事案をまとめます。

<相続×対抗関係→否定|転得者|事例>

あ 相続

Aが不動産を所有していた
Aが亡くなった
相続人B・Cが承継した

い 不正相続登記

Cが不正に不動産の所有権移転登記を行った
登記内容=『Cが単独で相続した』

う 売却

CがDに不動産を売却した
CからDに所有権移転登記がなされた

え 提訴

BはDに対して移転登記抹消請求の提訴をした
Dは対抗要件の主張をした
※民法177条
※最高裁昭和38年2月22日
※最高裁昭和39年1月30日

5 相続×対抗関係→否定|転得者|裁判所の判断

上記事案について,裁判所の判断をまとめます。

<相続×対抗関係→否定|転得者|裁判所の判断>

あ 対抗関係→否定

Bは相続によって所有権を得た
→B・Dは対抗関係にはない
→BはDに対して『登記なしで』共有持分権を主張できる

い 認める請求内容

Dの登記のうち『本来のCが取得した持分』は不正ではない
→不正ではない部分の抹消は請求できない
→Bが請求できるのは『B持分に相当する一部抹消』登記である
登記手続上は更正登記となる

う 請求の包含関係|概要

『全部抹消請求』には『一部抹消・更生請求』が含まれる
詳しくはこちら|無効・不正な登記×抹消請求|全体・まとめ|共有状態との関係
※最高裁昭和38年2月22日
※最高裁昭和39年1月30日