【研究不正における共著者の責任割合→相互の損害賠償請求】

1 研究不正による学術論文の共著者間では『責任割合』が問題になる
2 前提事実と研究不正により生じた結果(損害)の整理
3 元々,実質的なプラス,マイナスはバランスしている
4 各共著者の『損害』と『責任』の割合は同一である
5 共著者相互の損害賠償請求は認められない
6 不正発覚防止工作があった場合は共著者間の損害賠償請求が認められる
7 研究不正の論文共著者間の損害賠償請求のまとめ
8 STAP問題に関する他のコンテンツ

※弁護士ドットコム,ヤフーニュースに簡略版が掲載されました。
後記『8』)">共同執筆の「学術論文」で不正発覚! 他の著者は「不正行為者」に賠償請求できるか?

1 研究不正による学術論文の共著者間では『責任割合』が問題になる

学術論文について,研究不正があった場合,著者は,研究者としての評価懲戒処分などの面で不利益を受けます。
ここで,論文の著者が複数であった場合は,共著者も,評価や懲戒処分としての不利益を受けます。
共著者間の損害賠償請求が認められます。">詳しくはこちら|論文の不正→『共著者』が懲戒解雇とされることもある|判例
この問題について,一般化,抽象化して,定量分析を試みます。

2 前提事実と研究不正により生じた結果(損害)の整理

まず,前提としての事情を特定しておきます。

<思考実験条件特定>

・共著者中の1名(実行者)が研究不正を行った
・他の共著者は,自ら不正行為を実行していない
・他の共著者は不正を見逃した

このような研究不正によって,共著者も含めてダメージを受けます。
その損害内容をまとめておきます。

<生じた損害

あ 主観カテゴリ

・名誉が低下した
・科学者,研究者としての評価が低下した

い 客観カテゴリ

・現時点
 懲戒解雇その他の不利益な処分を受ける
・今後,ネガティブな評価を受ける
 →研究者としての就職,受注などへの抑制効果

3 元々,実質的なプラス,マイナスはバランスしている

ところで,社会的現象,自然現象,ともにがあります。
社会的,経済的にはリスクとリターン(利益,プラス)というものです。
法的な責任と関係します。

<共著者になることの,実質的プラス,マイナス(リスクとリターン)>

あ プラス=リターン

他の共著者の成果,の配分を受ける→評判プラス
実質的には,他の著者作成部分の研究内容(論文内容)を把握している,ことの対価。

い マイナス=リスク

他の共著者に不正があった場合,のマイナスを受ける→評判マイナス
実質的には,他の著者作成部分の研究内容の不正を見抜けなかったことの対価。
他の研究者の不正に気付き,是正を実行する機会,があった+この機会を行使しなかった。(※1)
※↑これが法的責任の根拠となります。

結局,トレードオフと言いますか,プラスとマイナスが対応しているわけです。
実際に発現するかどうかは別ですが,確率的に,つまり期待値で考えるとバランスするべきなのです。
別の言い方をすると,プラスの裏にはリスク=責任が内在するということです。

4 各共著者の『損害』と『責任』の割合は同一である

名誉,評価の低下などの『損害』は,共著者それぞれが負担しています。
そして,各共著者が負う『責任』も全員が割合的に帰属しています。
『損害』と『責任』は比例している=割合は同一と考えるのが合理的です。

<『損害』,『責任』の比例関係(簡易版)>

あ 責任

共著者の中で権限が大きい人ほど,阻止することができた→『非難可能性(責任)』が大きい

い 損害

権限が大きい人=『上の役職』ほど,『信用,名誉が傷付く程度』も大きい

<『損害』,『責任』の比例関係(式利用版)>

A=『不正への関与の程度』,『阻止すべき要請の程度』,『元々の個人の信頼性』
このようにAを定義します。
そうすると,次の式が成り立ちます。
A∝『信頼低下』=『損害』
A∝『非難可能性』=『責任』

『損害』∝『責任』
※『∝』は,比例する,という意味です。
※機種依存文字ではないですが,表示されない場合『正比例』と考えてください。

5 共著者相互の損害賠償請求は認められない

各共著者の『損害』と『責任』が同一割合であることを前提とすると,次の結論になります。

<『損害』,『責任』の割合が同一の場合の帰結>

各共著者は,自分の責任に応じた損害を受けている

他の共著者に損害賠償請求はできない

6 不正発覚防止工作があった場合は共著者間の損害賠償請求が認められる

例外的に『共著者は責任なし』と判断できる場合もありえます。
上記の責任の実質的根拠=『不正回避措置の機会』(上記『※1』)がポイントです。

<例外的に共著者間の損害賠償請求が認められる場合>

共著者がリスク回避措置を実行したのに,実行者が想定外の方法で回避した
つまり,他の共著者を騙したような場合です。
《不正発覚防止工作の例》
・実験ノート自体を虚偽の観測結果(データ)により作出した
・不正が発覚しないように偽装

このように,本来保護されるけど,悪質だけど例外的に保護対象外となる,という例は民法上もあります。
『詐術(さじゅつ)を用いる』という言い回しをします(民法21条)。

7 研究不正の論文共著者間の損害賠償請求のまとめ

<研究不正の論文の共著者間の損害賠償請求(求償)のまとめ>

あ 原則

相互の請求は認められない

い 例外

不正発覚防止工作により,他の共著者を欺いた場合

相互の請求が認められる

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条文

[民法]
(制限行為能力者の詐術)
第二十一条  制限行為能力者が行為能力者であることを信じさせるため詐術を用いたときは、その行為を取り消すことができない。

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