【有期労働契約|上限3年/5年|無期転換・雇い止め規制・無期との差別禁止】

1 有期労働契約の上限は原則として『3年』とされる
2 『専門的職種』は有期労働契約の上限が『5年』と長めになる
3 有期労働契約は例外的に『5年以上』も認められることがある
4 有期労働契約は『期間満了』で終了する|長期化すると雇い止め規制あり
5 有期労働契約の『期間満了』で終了する場合は『30日前に雇い止めの予告』が必要
6 有期労働契約における期間途中の自主退職には『やむを得ない事由』が必要
7 有期労働契約の『無期転換』|平成24年労働契約法改正
8 『有期/無期労働』の不合理な差別の禁止
9 有期/無期の経済的リスク考察|VAIO事業撤退遅れ=プロフィットイーター

1 有期労働契約の上限は原則として『3年』とされる

雇用契約には,期間の定めがない,『無期』と,一定期間が定めてある『有期』があります。
『有期』については,自由に期間を設定して良いわけではありません。
有期労働契約は,原則的に3年以下とされています(労働基準法14条)。
上限を決める趣旨は従業員の身分を安定にするためです。
法の趣旨は上限設定を低めにする終身雇用を促進ということなのです。

<有期労働契約の上限規定の趣旨>

一定期間以上継続した雇用については,終身雇用を強制する
期間制限という選択肢を許容しない

2 『専門的職種』は有期労働契約の上限が『5年』と長めになる

(1)有期雇用期間の上限は例外としての『5年』がある

一定の専門的職種については,上限が『5年』となります(労働基準法14条)。
長めだけど期限付きという雇用形態のニーズがあるためです。

<長めの有期労働契約のニーズの例>

プロジェクト単位で協業体制を取る

また,専門的職種以外にも,『上限5年』の対象職種はあります。

<有期労働契約の上限3年or5年;まとめ>

従業員の属性 上限期間 根拠(労働基準法)
専門的な知識,技術,経験を有する者(※1) 5年 14条1項1号
満60歳以上の者 5年 14条1項2号
↑以外 3年 14条1項本文

(2)『専門的知識を有する者』の内容

厚生労働省により一定の職種が指定されています。
次に主な対象者をまとめます。

<専門的知識等を有する者の例>

あ 博士の学位保持者
い 次の資格保有者

・公認会計士
・医師
・歯科医師
・獣医師
・弁護士
・一級建築士
・税理士
・薬剤師
・社会保険労務士
・不動産鑑定士
・技術士
・弁理士

う 『システムアナリスト』or『アクチュアリー』試験合格者
え 特許発明の発明者・登録意匠創作者・種苗法登録品種育成者
お 1年あたりの賃金が1075万円以上,かつ,次の『職種』かつ『過去の経験期間』に該当する者

《職種》
ア 農林水産業・鉱工業・機械・電気・土木・建築に関する専門的な計画・設計・分析・試験・評価の業務に就こうとする者イ システムエンジニアの業務(情報処理システムの分析若しくは設計)に就こうとする者ウ 衣服・室内装飾・工業製品・広告等のデザイン業務に就こうとする者 《経験期間》

学歴 同種業務従事経験年数
大学卒の場合 5年以上
短期大学or高専卒の場合 6年以上
高校卒の場合 7年以上
か 1年あたりの賃金が1075万円以上,かつ,次の『職種』かつ『過去の経験期間』に該当する者

《職種》
事業運営において情報処理システムを活用するための問題点の把握or活用するための方法に関する考案・助言の業務に就こうとする者
《経験期間》
システムエンジニアの業務従事経験5年以上

き 国・地方公共団体・公益法人が知識・技術・経験が優れたものであると認定した者

外部サイト|厚生労働省|労働基準法第十四条第一項第一号の規定に基づき厚生労働大臣が定める基準
なお,この基準の中の『年収1075万円』という部分は,平成27年のホワイトカラー・エグゼンプション(残業代ゼロ法案)で流用されることが検討され,話題になっています。

3 有期労働契約は例外的に『5年以上』も認められることがある

5年を超える有期労働契約は原則的に認められていません。
しかし,一切できない,ということではありません。
一定の事業の完了に必要な期間を定めるものについては,上限は適用されません(労働基準法14条)。

<厚生労働省労働基準局の解釈>

その事業が有期的事業であることが客観的に明らかである場合であって、その事業の終期までの期間を定めて契約する場合

一般に,プロジェクト単位・業務単発での雇用契約ということになります。

<有期労働契約の期間上限が適用されない場合の例>

6年間で完了する土木工事において,エンジニア(技師)を6年間の契約で雇う場合

<他の例>

・ダム,トンネル,橋梁工事
・コンピューターの特定システム開発
・展示会などのイベント事業

ただし,個別的な事業の内容によっては,必要期間が不明確(明らかではない),と判断されます。
その場合,一定の事業の完了に必要な期間を定めるには該当しない→労働契約は違法,と扱われるリスクも出てきます。

4 有期労働契約は『期間満了』で終了する|長期化すると雇い止め規制あり

(1)原則論=『期間満了』で終了する

有期労働契約は,文字どおり期間限定の契約です。
契約による「期間」が満了したら終了します。
期間満了による終了は,解雇とは違います。
厳しい解雇の制限は適用されません。
なお,当事者双方が合意すれば,その後,再契約(更新)することも自由です。

(2)有期労働契約が長期化→更新が強制される|雇い止めストッパー

有期労働契約は『期間』が最大で3〜5年に制限されています。
そこで,再契約(更新)が繰り返され,トータル期間が長期化する傾向があります。
長期化してくると,『更新しないこと』=『雇い止め』ができなくなる場合もあります。
以前から判例で示されていた理論ですが,平成24年の労働法改正により条文化されました。
まずはどのような有期労働契約が『雇い止めNG』=『強制更新』となるのか,をまとめます。

<雇い止めストッパー|対象となる有期労働契約>

あ 無期契約の労働者解雇と同視タイプ

ア 有期労働契約が過去に反復して更新されたことがあるイ 更新しないことが『無期労働契約の労働者を解雇すること』と社会通念上同視できる ※最高裁昭和49年7月22日;東芝柳町工場事件(の要件の条文化)

い 更新期待の高まりタイプ

当該労働者において『有期労働契約が更新される』と期待することについて「合理的な理由」がある
※最高裁昭和61年12月4日;日立メディコ事件(の要件の条文化)
※労働契約法19条

雇い止めが,事情によって『無効=強制更新』となってしまう『基準』は,上記のように曖昧なのです。

(3)更新制限・上限規定の有効性

雇用主としては,このような『想定外』の発生を防止することが合理性・最適化の実現となります。
よく使われる方法が『更新制限規定』の明確化です。

<就業規則・労働契約における更新制限規定>

あ 更新回数上限規定
い 契約通算期間上限規定

このように,雇用主・従業員で納得していれば『更新への合理的期待』という不意打ち認定を抑制できます。
中には『上限規定』の有効性を否定する主張がなされることもあります。
しかし,原則的に『上限規定』自体は有効です。

<有期雇用の『上限規定』を有効とする判例・通達>

あ 『上限規定』を有効とする判例
判例 通称 『上限期間』
京都地裁平成22年5月18日 京都新聞COM事件(※1) 3年
東京高裁平成23年6月22日 日野自動車事件 2年11か月
東京地裁平成24年4月16日 いすゞ自動車雇い止め事件 2年11か月
い 『上限規定』を有効とする通達

平成15年10月22日厚労告357号
『雇い止めの理由の例』として『契約締結当初から更新回数の上限を設定』を挙げる

<補足;京都新聞COM事件(上記※1)>

『上限期間3年』を有効とした
しかし3年を超えて更新される『合理的期待』あり,と判断された
→雇い止めは無効(個別的には『上限規定が無効』と同じような状態)

(4)更新上限規定×雇い止めの有効性|判断要素

更新上限規定がある場合に,それでも『雇い止めが無効』となることもあります。
雇い止めの有効性を判断する事情をまとめます。

<更新上限規定があっても『雇い止めが無効』となる事情>

あ 規定上の『例外事項』が多い
い 運用(適用)上の例外が多い
う ルール説明・従業員の理解が不十分であった

『ルールを記載した書面』の交付がない,など
※京都地裁平成22年5月18日京都新聞COM事件(既出)

(5)規定の『上限』を超えて延長した場合

特定の従業員が優秀であるなどの理由で『例外的に延長』したいこともあります。
延長した場合,『運用上の例外』として『雇い止めが無効』となる事情の1つとなります。
ただし,あくまでも総合的に判断されます。
ここでは,結果的には『雇い止めは有効』とされた判例を紹介します。

<札幌高裁平成26年2月20日;北海道大学契約職員雇い止め事件>

あ 労働期間

規定の上限3年+1年延長(→雇い止め)

い 裁判所の判断

雇い止めは有効

(6)労働期間中に『上限規定』を新設した場合

有期労働契約の継続途中で『上限規定』が新たに作られる場合もあります。
当然,当初はそのようなルールはなかったのですから,従業員も納得していたはずはありません。
そうすると『ルール説明・従業員の理解が不十分』と言えます。
『雇い止めは無効』となる方向の事情の1つです。
ただ,当然,多くの事情によって判断されますので,結論と直結しません。
結果的に『雇い止めは有効』とされた判例を紹介します。

<東京高裁平成24年9月20日;本田技研工業事件>

あ 事案

トータル期間=約11年
途中でのブランクもあった
『不更新条項付有期雇用契約』という契約書の調印がなされていた
説明+承諾(納得・理解)が徹底していた

い 裁判所の判断

雇い止めは有効

<参考情報>

労務事情15年2月1日 産労総合研究所p64〜

(7)『強制更新』の手続|労働者による申込

次に,労働契約が上記に該当することを前提に,『強制更新』とするためには『労働者による申込』が必要です。

<雇い止めストッパー|労働者の意思表示>

あ 労働者の意思表示のタイミング
更新の申込 契約期間満了日まで
(更新)契約締結の申込 契約期間満了後遅滞なく
い 意思表示は曖昧でもOK

いずれの『申込の意思表示』も口頭でも,不明確でも趣旨が表明されていれば有効
例;『退職は嫌です』『続けて働きたいです』

(8)『強制更新の申込』がなされた場合の効果

労働者がこのような『意思表示(申込)』を行った場合の効果について整理します。

<雇い止めストッパー|申込による効果>

あ 要件

次のいずれも満たす場合に『契約更新』となる(後述)
ア 労働者が有効な『申込の意思表示』を行った(前述)イ 雇用主が『申込を拒絶すること』が,客観的に合理的な理由を欠く+社会通念上相当ではない

い 効果

雇用主は『従前の有期労働契約と同一内容(条件)で申込を承諾した』とみなす
→従前と同一内容の有期雇用契約が成立する(更新される)
※労働契約法19条

条文上は『承諾したものとみなす』とされています。
要するに『強制的に更新される』ということです。
敢えて大雑把にまとめるとこうなります。

<雇い止めストッパーを一言でまとめると>

有期雇用と言えども長期化したら,合理的な理由がないと雇い止めができなくなる

ここまで抽象化すると,一般的な解雇権濫用の法理と同じようなことになります。
詳しくはこちら|解雇権濫用の法理|合理的理由がないと解雇は無効となる

5 有期労働契約の『期間満了』で終了する場合は『30日前に雇い止めの予告』が必要

「解雇の規制」がないのが,有期労働契約の大きな特徴です。
事業主の人事管理上,重要な考慮要素の1つです。

「期間満了による契約終了」は確実に実現できるのですが,注意が必要です。
一定の条件に該当する場合,通達において「雇い止めの予告」が義務付けられています。

<雇い止めの予告>

期間満了の30日前までに更新(再契約)しないことを予告する必要がある
※労働基準法14条2項
※厚生労働省告示第357号平成15年10月22日;有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準;通達1

<雇い止めの予告義務の対象>

※「予め更新しない旨を明示している」場合を除いて,次のいずれか

あ 有期労働契約を3回以上更新している
い 最初の採用から1年以上継続勤務している

また,これに該当する場合で,更新しない理由の証明書の交付義務もあります。

<『更新しない理由の証明書』交付義務>

労働者から要求された場合のみ『更新しない理由の証明書』交付が義務付けられる
※労働基準法14条2項
※厚生労働省告示第357号平成15年10月22日有期労働契約の締結,更新及び雇止めに関する基準;通達2

6 有期労働契約における期間途中の自主退職には『やむを得ない事由』が必要

(1)有期労働契約における期間は従業員も拘束される

期間設定ありという類型は,有期労働契約有期雇用などと呼ばれます。
一般には,そのような契約の社員(従業員)のことを契約社員と呼ぶことも多いです。
有期労働契約の場合は,その決まった期間中は自由に退職することは許されません。
決めた約束は守られるという,民事における大原則です。
民法上も明確に規定されています(民法628条)。

(2)期間中の退職には『やむを得ない事由』が必要だが,就業規則等が優先

条文上,やむを得ない事由があれば解除(=退職)できる,とされています。
ただし,実際には,就業規則に退職予告期間が規定されている会社もあります。
その場合は,就業規則が優先ですので,規定どおりの予告期間を置けば,退職ができる,ということになります。

(3)有期労働契約における自主退職のやむを得ない事由

<『やむを得ない事由』の典型例>

従業員本人の病気・怪我

約束した契約期間を守らない,ということになりますので,例外的な事情が必要とされます。
従業員本人の病気や怪我により,働きたくても働けないという状況にあれば,やむを得ないとして退職が許されることになるでしょう。
勿論,病気・怪我の程度によっては,一時的な休職や休暇の取得でしのげる,ということもあり得ましょう。
その場合は,退職が許されることにはなりません。
なお,実際には,退職できる,できないという問題を真正面から争うような場面はレアです。
と言いますのは,仮に理論的に退職が許されない,という場合でも,雇用主側が認めることがほとんどなのです。
退職を希望するということは,仕事・業務への意欲が欠けた状態だと思われます。
雇用主側としても敢えて退職を断固として認めないとの主張を維持する実質的メリットが少ないのでしょう。

(4)『5年以上』の場合は退職のルールが緩和される

<5年以上の有期労働契約における期間中の退職>

5年経過後3か月の予告期間による退職できる

有期労働契約が5年以上,という例外的な場合にも,原則どおり期間中は退職できないすると,拘束期間として長過ぎるということになります。
そこで,期間が5年以上の場合は,5年経過後であれば,退職できるとされています。
ただし,予告期間として3か月が必要ということになっています(民法626条)。
この場合も,就業規則や労働契約で別の設定があれば,こちらが優先とされます。

7 有期労働契約の『無期転換』|平成24年労働契約法改正

(1)無期転換の申込フラグ

労働契約法の改正により『有期労働契約』が『無期に転換されるルール』が導入されました。
最も重要な『無期転換が可能となる条件』は,条文上非常に分かりにくいです。
条件の判断を3ステップで完結するように,まとめました。
条件のすべてが含まれた公式になっています。

<『無期転換』の『申込』が可能となる条件>

あ 期間計算の前提

ア スタート時点 平成25年4月1日以降の最初の『契約締結』or『更新』時期
※『クーリング』という例外がある(※1)
イ ゴール時点 現時点の『契約終了日』

い 無期転換申込が『可能』となる時点

スタート〜ゴール時点(通算契約期間)が5年を『超えている』
※労働契約法18条1項

<『5年の期間』(通算契約期間)の例外|クーリング(上記※1)>

あ クーリングの条件

『有期労働契約期間A』と『その次の有期労働契約B』の間に『契約がない期間』が6か月以上ある

い クーリングの効果(期間計算)

『スタート』は『契約期間B』の開始時とする
※労働契約法18条2項

(2)無期転換の実行後(申込後)

上記要件が満たされると『無期転換可能』な状態になります。
では『無期転換の申込』をすると,どのように『転換』が生じるのか,について次にまとめます。

<『無期転換申込』をした場合のフロー(効果)>

あ 無期転換の『申込』 

労働者が『無期転換の申込』をする

い 承諾みなし=無期労働契約『成立』

雇用主が申込を『承諾』したものと『みなす』
この時点で『無期』労働契約が『成立』する

う 契約満了日の翌日=無期労働契約『発効』

労働契約は『現時点の契約満了日の翌日』に『無期』に切り替わる
※労働契約法18条1項

このように,正確には『無期労働契約』の『成立』(い)と,『発効』(う)のタイミングは異なるのです。
その結果として重要なことは次のとおりです。

<無期転換×『解雇規制』タイミング>

『申込=承諾みなし』の時点で既に『無期労働契約を前提とした解雇規制』が適用される

詳しくはこちら|解雇権濫用の法理|合理的理由がないと解雇は無効となる

(3)無期転換時の『期間』以外の労働契約内容変更|別段の定め

無期転換により『有期』から『無期』になるのは当然です。
一方『他の条件』はどうなるのか,について説明します。

<無期転換の後の『期間』以外の労働契約の内容>

『別段の定め』なし 従前と同一
『別段の定め』あり(※2) 規定のとおりとなる

※労働契約法18条1項

『無期転換の場合の条件(労働契約内容)変更』について,何らかの『取り決め』がない場合には『従前と同一』になるのです。
職場の運営として,『正社員(正規雇用)』,『非正規雇用』で別の条件を設定していることが多いです。
この点,『正規/非正規雇用』『正社員』というのは会社による独自の設定であり,法律上の用語ではありません。
詳しくはこちら|『正規/非正規』『正社員』は法律上の用語ではない
一般的には『無期=正社員』という感覚は広く普及しています。
しかし,『有期→無期』の転換が生じても,『正社員』に自動的に『変換』されるわけではないのです。

(4)無期転換時の条件を設定する方法

会社独自で,既存の制度と整合するように『無期転換の場合の条件』を設定しておくとベターです。
具体的に『無期転換の場合の条件』を設定する方法はいくつかあります。

<無期転換後の労働条件の設定(上記※2)>

あ 設定の方式|典型例

労働協約・就業規則・労働契約

い 無期転換時の条件×不利益変更

経済的観点からは『退職の可能性が激減→労働者のメリットが大きい』となる(後述)
そのため『他の条件』がマイナス方向でも,ただちに『不利益変更の禁止』に抵触するわけではない

う 無期/有期の不合理な差別の禁止

『無期/有期』の違いを理由とする不合理な差別が禁止される(後述)

詳しくはこちら|不利益変更禁止|原則と例外|裁判例

<豆知識|『無期転換』のネーミング|無転換ではない>

『無期転換』という用語は,法律上は使われていない
しかし,厚労省など公的機関では用いている
理科系研究者からは『有機→無機の変換=分解』という誤解リスクが指摘されている

8 『有期/無期労働』の不合理な差別の禁止

(1)有期/無期の不合理な差別禁止ルールの基本

平成24年の労働契約法改正により,有期労働契約と無期労働契約の不合理な差別を禁止する条項が作られました。
まずはルールの基本事項をまとめます。

<有期/無期の差別禁止ルール|基本>

あ 禁止される差別

ア 同一労働(内容)の労働者同士の比較イ 『有期・無期』の違いを理由にした労働条件の違い(差別)ウ 差別が不合理である

い 効果

ア 『不合理』とされた労働条件は『無効』となるイ 無期労働者と同様の労働条件となる ※労働契約法20条,施行通達(平成24年8月10日)第5の6(2)オ

(2)差別が禁止される労働条件

まずは,差別が禁止される『労働条件』の内容をまとめます。

<差別禁止の対象となる労働条件>

労働者の得る利益・待遇

あ 狭義の労働条件

賃金
労働時間

い 広義の労働条件(『あ』以外)

災害補償
服務規律
教育訓練
付随義務
福利厚生
※施行通達第5の6(2)イ

(3)差別の『合理性』判断

有期/無期の違いによって『労働条件が違う』こと自体は禁止されません。
『不合理(合理性)』の判断要素・基準をまとめます。

<『不合理(合理性)』の判断基準>

あ 『同一労働(内容)』の判断要素

ア 職務内容・仕事量・責任の程度イ 配置転換や転居を伴う異動の有無や範囲ウ 労使の慣行 ※施行通達第5の6(2)エ

い 『不合理(合理性)』の判断基準・要素

次のような事情を踏まえた全体的判断
完全一致は求められていない
《合理性の判断要素》
企業の人事政策
処遇体系
労使関係のあり方
※労働法 菅野和夫 弘文堂p236

『有期/無期』の違い,だけではなく,一般的に『労働者間の格差』が問題になることはあります。
『同一労働同一賃金』は法規範として認められているわけではありません。
ただ,極端な『不均衡』は違法となります。
詳しくはこちら|労働者間の『差別』|同一労働同一賃金は法規範ではない

(4)平成24年法改正に応じて雇用主はルール確認・変更がベター

労働契約法は,平成24年に改正され,『有期/無期』の差別禁止の条文ができています。
雇用主は,就業規則などの既存のルールを確認すると良いでしょう。

<法改正に応じた雇用主の確認>

あ 対象となる雇用主

有期/無期労働契約者が併存する雇用主

い 確認事項

有期/無期の労働者の労働条件について不均衡はないかどうか

う 不均衡がある場合の最適化

不合理な不均衡がある場合→『格差解消』が必須
『有利』な方を『下げる』場合→不利益変更禁止の原則との抵触に注意
この点で『格差解消目的』は法律で要求されている→合理性(適法)の1つの事情となる
※労働契約法10条

詳しくはこちら|不利益変更禁止|原則と例外|裁判例

9 有期/無期の経済的リスク考察|VAIO事業撤退遅れ=プロフィットイーター

有期/無期労働で,『差別』が生じる根本的要因を考察します。
このメカニズムが『差別の合理性』となり,法的な有効性につながるのです。

(1)『労使の立場の強さ』考察

<『労使の立場の強さ』によるメカニズム>

労働者側は『雇い止め』をされることを恐れる
→労働者の方で使用者に条件面の交渉ができない傾向

このように『有期労働者』は『不利』になる方向性になります。

(2)経済的リスク分配考察(原則)

次に,経済的なリスク/リターンのバランスで考えます。
実例を含めてまとめます。

<経済的リスク分配によるメカニズム>

あ 経済的リスクによる有期/無期の考察
事項 無期労働 有期労働
雇用の終了の容易性 困難(解雇規制) 容易(雇い止め)
事業規模縮小による収支悪化防止 制限される 制限は少ない
雇用主にとっての『経済的リスク』
賃金
い 『経済低リスク』発現事例|プロフィットイーター

ソニーのノートPC(VAIO)の売上低迷→収支悪化が強まった
解雇の困難性などによりVAIO部門廃止が妨げられた
長期間にわたり,赤字を垂れ流した
=他の部門の収益(従業員の給与)を穴埋めに当てた

例えば,需要減少・(人件費以外の)コストアップなど,事業環境の変化が生じた場合,『利益減少』が生じます。
一般的には『事業規模縮小』『事業部門廃止』というのが対応策です。
しかし,強力な解雇規制により,『解雇』は非常に困難です。
この点,有期雇用の場合,期間満了時に『更新・再契約』をしなければ契約終了となります。
結局,無期雇用の場合,雇用主は大きな『経済的リスク』は大きく違うのです。
この『経済的リスク』は,労働者から見ると『将来にわたって収入が確保される』という『経済的メリット』です。
そこで,この制度による『利益』を得る者が『リスク(マイナス)』も負担する,というのが一般的発想です。
要するに,『経済的リスク』分を,労働者が得る『賃金』から控除する,という意味です。

(3)経済的リスク分配考察(既存プロフィットイーター)

日本の企業の多くは,以上の経済的考察とは『逆方向の』設定となっています。

<経済的リスク分配+プロフィットイーター>

既に正社員(無期労働者)が多数存在している
→既存+解放不能の経済的リスクを新入社員で負担する
→新入社員は『経済的リスク』を負わせる形態=『有期+低条件』とせざるを得ない

要するに,上記の経済的観点の考察はあくまでも一般論に過ぎない,ということです。

条文

[労働基準法]
(契約期間等)
第十四条  労働契約は、期間の定めのないものを除き、一定の事業の完了に必要な期間を定めるもののほかは、三年(次の各号のいずれかに該当する労働契約にあつては、五年)を超える期間について締結してはならない。
一  専門的な知識、技術又は経験(以下この号において「専門的知識等」という。)であつて高度のものとして厚生労働大臣が定める基準に該当する専門的知識等を有する労働者(当該高度の専門的知識等を必要とする業務に就く者に限る。)との間に締結される労働契約
二  満六十歳以上の労働者との間に締結される労働契約(前号に掲げる労働契約を除く。)
2  厚生労働大臣は、期間の定めのある労働契約の締結時及び当該労働契約の期間の満了時において労働者と使用者との間に紛争が生ずることを未然に防止するため、使用者が講ずべき労働契約の期間の満了に係る通知に関する事項その他必要な事項についての基準を定めることができる。
3(略)

[民法]
(期間の定めのある雇用の解除)
第六百二十六条 雇用の期間が五年を超え、又は雇用が当事者の一方若しくは第三者の終身の間継続すべきときは、当事者の一方は、五年を経過した後、いつでも契約の解除をすることができる。ただし、この期間は、商工業の見習を目的とする雇用については、十年とする。
2  前項の規定により契約の解除をしようとするときは、三箇月前にその予告をしなければならない。

(やむを得ない事由による雇用の解除)
第六百二十八条 当事者が雇用の期間を定めた場合であっても、やむを得ない事由があるときは、各当事者は、直ちに契約の解除をすることができる。この場合において、その事由が当事者の一方の過失によって生じたものであるときは、相手方に対して損害賠償の責任を負う。

判例・参考情報

(通達1)
[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準;平成十五年十月二十二日;厚生労働省告示第三百五十七号]
(雇止めの予告)
第二条 使用者は、有期労働契約(当該契約を三回以上更新し、又は雇入れの日から起算して一年を超えて継続勤務している者に係るものに限り、あらかじめ当該契約を更新しない旨明示されているものを除く。次条第二項において同じ。)を更新しないこととしようとする場合には、少なくとも当該契約の期間の満了する日の三十日前までに、その予告をしなければならない。

(通達2)
[有期労働契約の締結、更新及び雇止めに関する基準;平成十五年十月二十二日;厚生労働省告示第三百五十七号]
(雇止めの理由の明示)
第三条 前条の場合において、使用者は、労働者が更新しないこととする理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。
2 有期労働契約が更新されなかった場合において、使用者は、労働者が更新しなかった理由について証明書を請求したときは、遅滞なくこれを交付しなければならない。

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