1 オーナーは借家の修繕義務がある
2 構造部分の修繕義務を賃借人が負う特約は無効
3 オーナーが修繕義務を行わない場合,賃借人が強制執行できる
4 修繕義務不履行により損害賠償責任が生じる
5 修繕義務不履行で転居せざるを得ないことになったら転居費用の損害賠償が認められる

1 オーナーは借家の修繕義務がある

<事例設定>

賃貸マンションの最上階の1室に住んでいる
天井の一部が傷み,雨漏りがすごい状態である
オーナーが修理すべきではないのか
それとも私が修理すべきなのか

賃貸借契約の本質的な義務は,目的物を使用・収益させる義務賃料の支払義務です(民法601条)。
当然,賃貸人が負う義務は使用・収益させる義務です。
居住に適した状態を維持するということも含まれます。
その中核となる具体的な義務は,修繕義務です(民法606条)。

2 構造部分の修繕義務を賃借人が負う特約は無効

<事例設定>

賃貸借契約書の特約で,屋根・天井の修理は借主負担,とされている

(1)外部との遮断の不備は,建物の本質的機能

屋根・天井からの雨漏りが生じるということは,外部との遮断という建物の本質的機能が欠けているものです。
建物の根幹的な構造部分です。
修繕して維持することは,建物賃貸借契約の本質的な内容です。
つまり,オーナーの負うべき義務の重要なものです。

(2)合理性を欠く条項は無効

そのような本質的な義務を賃借人に転嫁することは合理性を欠くと思われます。
従って,当該特約は無効と思われます。
そうすると,修繕義務の規定(民法606条)により,修理費用はオーナー負担,という結論になります。

3 オーナーが修繕義務を行わない場合,賃借人が強制執行できる

仮に,オーナーが借家の修繕義務を怠っていた場合,賃借人が訴訟で義務を認める判決を獲得し,強制執行することが考えられます。
具体的には,オーナーに代わって修繕工事を行い,賃貸人に費用を求める,という方法が代表的です。
これを代替執行と呼んでいます(民法414条2項)。

4 修繕義務不履行により損害賠償責任が生じる

一般的に,債務が履行されないことによって損害が生じた場合,損害賠償請求が認められます。
債務不履行による損害賠償,と呼ばれるものです(民法415条~)。
具体的な修繕の場面を考えると,故障老朽化が発覚してから,修理工事を手配し,一定のタイムラグは生じます。
実際に債務不履行(損害賠償)と認められるのは,一般的に必要とされる期間を超えて放置された場合です。
また,その修繕工事が遅れたことにより,具体的に損害が生じて初めて,損害賠償請求は認められます。
結局,賃貸人としては,修繕・修理が必要な状態が発覚したら,すぐに対応を取らないと,余分な損害賠償の負担を被る可能性もある,ということです。

5 修繕義務不履行で転居せざるを得ないことになったら転居費用の損害賠償が認められる

修繕義務を怠った場合,必ず損害賠償請求が認められるというわけではありません。
損害賠償が認められるのは,居住者の日常生活に支障が生じるような,度を越した状態に至った場合です。
具体的な裁判例として,居室周辺の排水設備の管理が悪く,ハエや蚊が発生した,というようなケースがあります(東京簡裁平成23年9月9日)。
密閉性や防虫の対策を取ることが使用収益をさせる義務の一環(修繕義務)と判断されました。
実際に,ハエや蚊が大量に発生し,居住者(賃借人)は,具体的に快適に居住すること自体が不可能となり,転居せざるを得なくなったのです。
この裁判例では,次のような金額が損害として認められています。

<裁判例における損害の範囲>

・敷金,礼金(の返還)
・入居期間中の賃料の減額
・転居費用(実費)

このようなケース以外でも居住自体が実質的に不可能というようなケースでは,広い範囲が損害として認められるでしょう。
状況によっては,精神的なショック慰謝料として認められることもあります。

条文

[民法]
(履行の強制)
第四百十四条  債務者が任意に債務の履行をしないときは、債権者は、その強制履行を裁判所に請求することができる。ただし、債務の性質がこれを許さないときは、この限りでない。
2  債務の性質が強制履行を許さない場合において、その債務が作為を目的とするときは、債権者は、債務者の費用で第三者にこれをさせることを裁判所に請求することができる。ただし、法律行為を目的とする債務については、裁判をもって債務者の意思表示に代えることができる。
3(以下略)

(債務不履行による損害賠償)
第四百十五条  債務者がその債務の本旨に従った履行をしないときは、債権者は、これによって生じた損害の賠償を請求することができる。債務者の責めに帰すべき事由によって履行をすることができなくなったときも、同様とする。

(賃貸借)
第六百一条  賃貸借は、当事者の一方がある物の使用及び収益を相手方にさせることを約し、相手方がこれに対してその賃料を支払うことを約することによって、その効力を生ずる。

(賃貸物の修繕等)
第六百六条  賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。
2  賃貸人が賃貸物の保存に必要な行為をしようとするときは、賃借人は、これを拒むことができない。