1 修繕義務不履行の具体的事例と責任の判断
2 マンションの排水管の詰まり→賃料の30%の支払拒絶
3 お好み焼屋店舗兼住宅の雨漏り→賃料25%減額
4 排水不良による害虫発生→転居費用などの損害賠償
5 スナック店舗のエアコンなどの障害→修繕の履行あり
6 賃借人が主張した障害の内容とこれに対する判断

1 修繕義務不履行の具体的事例と責任の判断

賃貸借契約において賃貸人は目的物の修繕義務を負います。
詳しくはこちら|賃貸人の修繕義務の基本(特約の有効性・賃借人の責任による障害発生)
賃貸人が修繕義務を履行しない場合,賃借人は賃料支払の拒絶が可能となるとか,賃料の減額や免除が認められることになります。
詳しくはこちら|賃貸人の修繕義務不履行の効果(賃料支払拒絶・賃料減額請求など)
本記事では,実際の建物の賃貸借において,修繕義務不履行の責任が問題となって裁判所が判断した実例を紹介します。

2 マンションの排水管の詰まり→賃料の30%の支払拒絶

マンションの賃貸借において,排水管の詰まりが生じたのに賃貸人が修繕しなかったケースです。この詰まりの原因が賃借人にあったので,修繕をしなかったという賃貸人の気持ちも分かります。
しかし結論としては,賃料の対価である建物の整備の一貫であるという考えから,修繕義務の不履行として賃料の30%の支払拒絶が認められました。

<マンションの排水管の詰まり→賃料の30%の支払拒絶>

あ 賃貸借契約の主な内容

東京都内のマンション
賃料35万円
(転貸借)

い 不具合の状況

排水管が詰まった
賃借人orその同居人が食用油を台所流し台の排水口から流し,これが排水管内に付着したことが原因であった
賃借人は賃料の支払を拒絶した

う 裁判所の判断

ア 判断基準
建物の賃貸人は,賃貸建物の使用収益に必要な修繕を行う義務を負う
賃借人の責任で修繕を必要とする状態に至った場合においても,合理的な期間内に修繕を行うべきである
合理的な期間内に修繕が行われなかった場合,賃借人は信義則上,以後の賃料の支払を建物の使用収益に支障を生じている限度において拒絶し,あるいは減額の請求をすることができる
イ 事案についての判断
障害が生じた時点以降の賃料の30%相当額の支払拒絶権を認めた
当事者が合意解除していたので解除の有効性は判断されていない
※東京地裁平成7年3月16日

3 お好み焼屋店舗兼住宅の雨漏り→賃料25%減額

飲食店の店舗と住宅としての用途の建物の賃貸借のケースです。住居部分の屋根に雨漏りが生じました。住居部分の3分の2が使えなくなるような大規模なものでした。それなのに,賃貸人は修繕を行いませんでした。
裁判所は,賃料の25%の減額を認めました。

<お好み焼屋店舗兼住宅の雨漏り→賃料25%減額>

あ 賃貸借契約の目的(用途)

2階部分=居宅
1階部分=お好み焼屋店舗

い 障害の内容と程度

2階(居室)の部屋Aのベランダとの境界付近・押入れ部分全体の各天井,部屋Bの窓付近の天井と壁,部屋Aと部屋Bの境界付近の天井並びに部屋Cの壁上部から雨漏りした
雨漏りは,雨天の場合バケツで受け切れず,畳を上げて,洗面器などの容器を並べ,賃借人が椅子の上に立って,シーツやタオルで天井の雨漏り部分を押さえざるをえない程であった
押入れに入れたふとんが使用不能になったこともあった
建物2階部分は,少なくとも3分の2以上が使用不能となった
店舗部分を含む建物1階部分は,雨漏りにより使用不能となることはなかった

う 修繕義務の不履行と減額請求

賃借人は賃貸人に対し,雨漏りの修繕を求めたが賃貸人はこれに応じず,2階部分の雨漏りと使用収益の障害の状態は継続した
賃借人は賃貸人に対して賃料減額請求の意思表示をした

え 裁判所の判断

賃料の25%の減額を認めた
※民法611条1項類推
※名古屋地裁昭和62年1月30日

4 排水不良による害虫発生→転居費用などの損害賠償

住居の排水不良の修繕が行わなかったために,ハエや蚊が発生したケースです。その結果,居住すること自体ができないような状況になりました。
裁判所は,転居費用相当額を含めて,賠償責任(損害)を認めました。

<排水不良による害虫発生→転居費用などの損害賠償>

あ 生じた障害の内容

居室周辺の排水設備の管理が悪く,ハエや蚊が大量に発生した
賃貸人は修繕を行わなかった

い 裁判所の判断

賃貸人は修繕義務の不履行による損害賠償責任を負う
賠償すべき損害には『ア〜ウ』が含まれる
ア 敷金,礼金(の返還)
イ 入居期間中の賃料の減額
ウ 転居費用(実費)
※東京簡裁平成23年9月9日

5 スナック店舗のエアコンなどの障害→修繕の履行あり

最後に,賃貸人は不具合の修繕を行ったことが認められ,結果的に障害の程度が小さいために賃料の免除が否定されたケースを紹介します。賃料が免除されていないのに賃料の支払を拒絶していたことになったので,賃貸人による解除が有効となりました。

<スナック店舗のエアコンなどの障害→修繕の履行あり>

あ 賃料の支払拒絶と解除の意思表示

スナック店舗の賃貸借
賃借人が,後記※1の障害についての修繕義務違反を理由として賃料の支払を拒絶した
賃貸人は解除の意思表示をした

い 裁判所の判断

ア 賃料の免除
店舗におけるスナック営業に及ぼす障害の程度は小さい(後記※1)
→賃借人は賃料支払義務を当然に免れるものではない
イ 損害賠償請求権による相殺(賃料減額)
賃借人は債務不履行に基づく損害賠償請求の主張をしていなかった
→裁判所は判断していない
ウ 結論
賃借人には賃料・遅延損害金の支払義務がある
賃貸人の解除により賃貸借契約は終了した
→明渡請求を認める
※東京地裁平成5年11月8日

6 賃借人が主張した障害の内容とこれに対する判断

前記の裁判例の中で問題となった障害の内容に関して,賃借人の主張と,これに対する裁判所の判断(評価)をまとめます。
要するに,いずれも,賃貸人がひととおり検査や修繕を行っており,結果的に生じた障害は小さいという判断になっています。

<賃借人が主張した障害の内容とこれに対する判断(※1)>

あ エアコンの機能障害

ア 状況
賃借人は度々これを賃貸人に訴え,賃貸人は,その都度業者に依頼して検査をさせ,必要に応じガスを注入させたり電熱盤の交換をさせたりしていたが,特に異常が発見されないことも多かった
イ 裁判所の判断
その後,賃借人が賃料の不払を始めた時期以降におけるエアコンの機能に障害の有無は証拠上不明である
→店舗におけるスナック営業をまったく不能とする程度の障害があったとは認められない

い 換気扇の換気機能障害

ア 状況
賃借人から度々賃貸人に苦情の申入れがあり,賃貸人は,申入れに応じてより排気量の多い換気扇と取り替えたり,あるいは新たに換気扇を増設するなどの対応をした
その後,専門家の調査によって,通常の排気基準に達していると判定された
イ 裁判所の判断
店舗におけるスナック営業をまったく不能とする程度の障害があったとは認められない

う 換気扇増設後の騒音

ア 状況
江戸川区環境部公害対策課の調査や賃貸人の依頼した環境調査会社の結果はともに60〜70(dB)程度であった
イ 裁判所の判断
スナックを営業する上で避けることのできない音の大きさとの対比において,換気扇の発する音が店舗での営業がまったく不能になる程度ではない

え 流し台下のグリーストラップからの異臭

ア 状況
流し台下のグリーストラップからの異臭が生じた
イ 裁判所の判断
中容器に溜まった脂肪分やゴミを定期的に掃除したりすることによって避けることができる
→店舗の構造上の欠陥や賃貸人の修繕義務違反とはいえない
※東京地裁平成5年11月8日

本記事では,賃貸人の修繕義務不履行が問題となった実例(裁判例)を説明しました。
実際には,個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論が違ってくることもあります。
実際に修繕義務に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。