【売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像】

1 売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像
2 瑕疵担保責任の基本的要件
3 瑕疵担保責任における過失の要否(無過失責任)
4 売買の瑕疵担保責任の具体的内容
5 請負の瑕疵担保責任の具体的内容
6 売買と請負における損害賠償の範囲の違い
7 瑕疵担保責任の内容(まとめ)
8 請負における建替費用相当額の損害賠償(概要)
9 瑕疵担保責任を免除・制限する特約・規定(概要)
10 請負の瑕疵担保責任の発生時期
11 瑕疵担保責任の期間制限(概要)

1 売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像

売買契約や請負契約では,目的物や仕事の内容に瑕疵(欠陥)があると一定の法的責任が生じます。これを瑕疵担保責任といいます。
本記事では,売買や請負契約の瑕疵担保責任の要件と責任の内容といった基本的な内容を説明します。

2 瑕疵担保責任の基本的要件

瑕疵担保責任が発生する要件のうち基本的な内容をまとめます。

<瑕疵担保責任の基本的要件>

あ 売買

隠れた瑕疵』が存在する場合
→瑕疵担保責任が発生する
※民法570条,566条1項

い 請負

『瑕疵』が存在する場合
→瑕疵担保責任が発生する
※民法634条
瑕疵が隠れていることは必要ではない

う 『瑕疵』の意味(概要)

目的物に欠陥があり,通常の用途or契約で定めた用途に適合しないこと
※大判昭和8年1月14日;要旨
詳しくはこちら|『瑕疵』の意味・品質や性状の基準・種類(物理・法律・心理的)

3 瑕疵担保責任における過失の要否(無過失責任)

ところで,債務不履行や不法行為といった一般的な責任は,(少なくとも)過失があって初めて発生します。この点,瑕疵担保責任過失がない者についても責任が発生します。このような性質を持つ責任なので,無過失責任といいます。

<瑕疵担保責任における過失の要否(無過失責任)>

(売買・請負の)瑕疵担保責任は
無過失責任である
→売主・請負人に過失がなくても責任は発生する
※幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)債権(7)』有斐閣1989年p138
※後藤勇著『請負に関する実務上の諸問題』判例タイムズ社1994年p115

4 売買の瑕疵担保責任の具体的内容

売買契約について適用される瑕疵担保責任の内容,つまり請求できる内容は,損害賠償請求と解除の2つがあります。修補を請求することは含まれていません。

<売買の瑕疵担保責任の具体的内容>

あ 修補請求

修補請求は含まれない

い 損害賠償請求

本来の使用ができなかったことによる損害の賠償
例=修理に要する費用相当額
※民法570条,566条1項
信頼利益に限られる(後記※2

う 解除

瑕疵のために契約の目的を達成できない場合
→契約自体を解除できる
※民法570条,566条1項

5 請負の瑕疵担保責任の具体的内容

請負契約について適用される瑕疵担保責任の内容は,修補請求・損害賠償請求・解除の3つです。売買の瑕疵担保責任と違うのは修補請求が含まれるところです。
請負契約にはいろいろな種類がありますが,建物の建築については,解除はできません。

<請負の瑕疵担保責任の具体的内容>

あ 修補請求

請負人が修繕する
※民法634条1項

い 損害賠償請求

本来の使用ができなかったことによる損害の賠償
例=修理に要する費用相当額
※民法634条2項
信頼利益と履行利益の両方を含む(後記※2

う 解除(※1)

建物建築の請負契約は解除できない
※民法635条

なお,請負契約の内容が建物の建築工事である場合の瑕疵担保責任の内容については,別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|建物の建築工事の瑕疵担保責任の内容(請求できる内容)

6 売買と請負における損害賠償の範囲の違い

瑕疵担保責任の内容として,売買でも請負でも損害賠償請求が含まれます(前記)。ただ,損害賠償請求の内容,つまり損害としてカウントされるものの範囲に違いがあります。
売買の瑕疵による損害賠償には履行利益が含まれません。請負の瑕疵による損害賠償には履行利益が含まれます。

<売買と請負における損害賠償の範囲の違い(※2)

契約の種類 信頼利益 履行利益
売買
請負

※幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)債権(7)』有斐閣1989年p138
※後藤勇著『請負に関する実務上の諸問題』判例タイムズ社1994年p115

7 瑕疵担保責任の内容(まとめ)

以上で説明した,売買と請負契約の瑕疵担保責任の内容(請求できる内容)の組み合わせをまとめます。

<瑕疵担保責任の内容(まとめ)>

請求(責任)の内容 売買 請負
瑕疵修補請求 ×
修補に代わる賠償請求
修補とともにする賠償請求 ×
解除 ×(前記※1

詳しくはこちら|住宅品確法による瑕疵担保責任の強化(基本構造部分は最低10年)

8 請負における建替費用相当額の損害賠償(概要)

請負契約については,瑕疵の内容が重大だとしても解除は禁止されています(前記※1)。一方,損害賠償請求は当然可能です。
建物の請負で建て替えが必要なくらい大規模な瑕疵があった場合は,建替費用相当額の損害賠償請求が可能です。この場合,実質的には解除を認めたのと同じような状態であるといえます。
詳しくはこちら|建物の建築工事の瑕疵による建替費用相当額の損害賠償請求

9 担保責任を免除・制限する特約・規定(概要)

実際には,担保責任の免除や制限をする特約が存在するケースが多いです。
ただし,担保責任を免除や制限できないこともあります。
また,裁判所の競売では担保責任が適用されません。

<担保責任を免除・制限する特約・規定(概要)>

あ 特約による免除・制限(原則)

担保責任は特約(合意)により免除・制限できる

い 特約の制限

一定の状況では特約による担保責任の免除・制限ができない
詳しくはこちら|瑕疵担保責任の期間制限の規定と特約の制限(まとめ)

う 競売の適用除外(概要)

競売については種類・品質に関する不適合による担保責任が適用されない
※民法568条4項(改正前民法570条ただし書)
しかし,例外的に救済される措置もある
詳しくはこちら|競売における担保責任(権利・種類・品質の不適合)
詳しくはこちら|競売における瑕疵・損傷・滅失→売却不許可・売却許可取消

10 請負の担保責任の発生時期

請負契約の内容である仕事にはいろいろなものがあります。そこで,担保責任がいつ発生する(した)かが問題となることがあります。これについては,仕事完了後の引渡があるかないかによって違います。簡単にいうと,仕事の完成と引渡の遅い方ということになります。

<請負の担保責任の発生時期>

目的物の引渡の有無 瑕疵担保責任の発生時期
引渡を必要としない 完成した時
目的物の引渡を必要とする 引き渡した時

※幾代通ほか編『新版 注釈民法(16)債権(7)』有斐閣1989年p138

11 瑕疵担保責任の期間制限(概要)

瑕疵担保責任には,いろいろな期間制限があります。複雑なので誤解しやすいところです。
瑕疵担保責任の期間制限については別の記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|瑕疵担保責任の期間制限の規定と特約の制限(まとめ)

本記事では,瑕疵担保責任の基本的な内容を説明しました。
瑕疵担保責任にはこれら以外に多くの細かい規定があります。
実際に瑕疵の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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