【建物の建築工事の瑕疵による建替費用相当額の損害賠償請求】

1 建物の建築工事の瑕疵による建替費用相当額の損害賠償請求
2 建替費用相当額の損害賠償請求を認める基準
3 建替費用相当額の損害賠償と解除の否定との関係
4 判例の基準の問題点

1 建物の建築工事の瑕疵による建替費用相当額の損害賠償請求

建物の建築工事に瑕疵があった場合,注文者は瑕疵担保責任として損害賠償請求をすることができます。
詳しくはこちら|売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像
建物の欠陥(瑕疵)の規模が大きい場合に,建替費用相当額の損害賠償を認めてよいか,という問題があります。
本記事では,建替費用相当額の損害賠償請求について説明します。

2 建替費用相当額の損害賠償請求を認める基準

建物の建設工事(請負契約)では,瑕疵担保責任のうち解除は民法上否定されています。これは請負人に過剰な負担を強いるためです。
この点,建替費用相当額の損害賠償を認めると,結局,請負人が解除と同程度の過剰な負担を負うことになってしまいます。
これについて最高裁は,建て替えざるを得ない場合には建替費用相当額の損害賠償を認めるという判断を示しました。請負人の負担は大きいですが,一方,被害者である注文者を犠牲にするわけにはいかないという考えがベースになっています(後記)。

<建替費用相当額の損害賠償請求を認める基準(※1)

あ 認める基準

建築請負の仕事の目的物である建物に重大な瑕疵があるためにこれを建て替えざるを得ない場合には,注文者は,請負人に対し,建物の建て替えに要する費用相当額を損害としてその賠償を請求できる
※最高裁平成14年9月24日

い 認められる具体例

建物全体の強度や安全性に著しく欠け,地震や台風などの振動や衝撃を契機として倒壊しかねない危険性を有するような重大な瑕疵があり
技術的,経済的にみても建て替えるほかはない場合
→建替費用相当額の損害賠償請求を認める
※最高裁平成14年9月24日

3 建替費用相当額の損害賠償と解除の否定との関係

建替費用相当額の損害賠償請求を認めると,請負人の負担は,実質的に解除を認めたのと同じようなものになります。この点,平成14年の判例は,前記のように解除を否定する民法の規定に反することにはならないと言い切っています。
むしろ致命的な瑕疵がある場合には解除を否定する規定の例外として,解除を認める見解もあります。

<建替費用相当額の損害賠償と解除の否定との関係>

あ 解除を否定する規定(前提)

請負の目的物が建物その他の土地の工作物である場合
→瑕疵担保責任としての解除は否定されている
※民法635条ただし書

い 建替費用相当額の損害賠償との関係

建替費用相当額の損害賠償請求を認める(前記※1)という結論は
民法635条(あ)に反することにはならない
※最高裁平成14年9月24日

う 解除を肯定する見解

建て替えるしかないほどの重大な瑕疵のある建物については
請負契約の解除も認める余地がある
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p19参照

4 判例の基準の問題点

前記の判例の基準をよく読んでみると,建替費用相当額の損害賠償を認めるためには,倒壊しかねない危険性建て替えるほかはないという2つの事情の両方が必要であるとも読めます。そうだとすると,この2つのうち一方だけが成り立つ場合には,建替費用相当額の損害賠償は認められないことになってしまいます。このような問題点の指摘があるのです。
しかし,判例の読み方として2つの事情の両方が必要であるとまでは言っていないという読み方も可能でしょう。そうであればこのような問題は生じません。

<判例の基準の問題点>

あ 問題が生じる状況(前提)

倒壊しかねない危険性がないけれど建て替えるほかはないという状況もあり得る

い 問題点の指摘

通常有する安全性を欠き,その程度が建て替えるほかはないものであるとしても,倒壊しかねない危険性はないという理由で建替費用相当額の損害賠償請求が認められないことが生じる
これは残された問題である
※松本克美ほか編『専門訴訟講座2 建築訴訟 第2版』民事法研究会2013年p15

う 補足説明

倒壊しかねない危険性は,建替費用相当額の損害賠償請求を認めるために必須の1要件という意味ではないとも読める
単に『根本的な欠陥を除去するためには,技術的にも経済的にも建て替えるほかない』場合であれば建替費用相当額の損害賠償請求を認める,とも読める

本記事では,建物の建築工事の瑕疵により建替費用相当額の損害賠償請求が認められる基準について説明しました。
実際には個別的な事情や主張・立証のやり方次第で結論は違ってきます。
実際に建物建築の瑕疵の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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