【競売における瑕疵・損傷・滅失→売却不許可・売却許可取消】
1 競売の場合は瑕疵担保責任は適用されない
2 競売での入札は原則的に撤回できない
3 代金納付『前』の時点で『損傷』発覚→売却不許可or許可取消
4 代金納付『前』の時点で不動産が『滅失』→競売手続の取消
5 代金納付『前』の時点で瑕疵が発覚→売却不許可or売却許可取消となる
6 『代金納付後』でも裁判所作成資料に重大なミスが発覚→売却許可取消となる
7 心理的瑕疵・建物建築制限でも売却不許可or許可取消となる
1 競売の場合は瑕疵担保責任は適用されない
(1)一般的な売買については瑕疵担保責任が適用される
通常の売買であれば,目的物の種類,品質又は数量に関する不適合については,売主の責任が認められます。
具体的には,契約の解除や損害賠償,目的物の修補,代替物の引渡し,追完の請求です(民法562条~566条)。
これを瑕疵担保責任と言います。
詳しくはこちら|売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像
(2)競売については瑕疵担保責任が適用されない
競売の場合,一般の売買と異なり,内見も大幅に制限されており,事前調査が非常に制限されています。
つまり,物件明細書や現況調査報告書,評価書(いわゆる3点セット)という書面で,物件内容を把握・判断することになります。
そのため,ある程度把握できない事情が存在することが前提となっています。
この不確定要素が,代金に反映されます。
つまり,競売では,通常の売買よりも安く購入できるのが一般的なのです。
いずれにしても,競売では,一定のリスクも覚悟しなければならないのです。
そこで競売による買受けの場合は瑕疵担保責任を追及することはできません(民法568条4項)。
要するに,ノークレームということが法律上ルール化されているのです。
(3)競売はリスクが多い→代金が30%程度下がる(競売減価)
通常の売買と比べて競売の場合,買い手にリスクが多いです。
瑕疵担保責任が適用されないですし,また,物件の調査も裁判所を通したものくらいです。
そこで,売却代金(入札価格)は,通常の売買よりも下がるのが一般的です。
不動産鑑定評価では,競売減価として30%程度評価を下げる理論があります。
2 競売での入札は原則的に撤回できない
競売は,公的で厳格な手続きです。
主催する裁判所もそうですが,尖鋭な利害を持つ関係者が多く関与するのが通例です。
そこで手続の安定性は特に重視されています。
特に合理的な理由がなく,入札を撤回することはできません。
特殊な事情がある場合については,結果的に撤回するような制度があります。
次に説明します。
3 代金納付『前』の時点で『損傷』発覚→売却不許可or許可取消
(1)競売対象不動産の『損傷』×キャンセル|タイミングによる
<不動産の『損傷』の典型例>
競売不動産を落札した
その後,震災が生じ,建物が大きく損傷した
このような場合,買受人としては『キャンセル』できないと困ります。
『キャンセル』できるかどうかは,タイミングで違ってきます。
手続の流れの性質と密接に関係しています。
(2)代金納付=所有権移転時にリスクが移転する
競売では入札時に保証金を納める必要があります。
そして,最高価買受人となり,売却許可が出た後に代金納付の日(期限)が指定されます。
いわば,保証金は頭金で,残金を払うことを代金納付と呼びます。
この代金納付の時点で所有権が買受人に移転します(民事執行法79条)。
そして,所有権が移転するとリスクも移転します。
つまり,所有権移転後に建物が焼失等により滅失しても,全面的に所有者が被害を負担する,ということです。
要は,手続の取消は原則としてできないということです。
(3)代金納付『前』は,入札者が保護される規定が適用される
代金納付『前』は,所有権が移転していないので,リスクが,まだ,買受人に移転していません。
具体的な事情によって,民事執行法上の救済的な規定が適用されます。
具体的な内容を,次に説明します。
(4)代金納付『前』の手続の流れ
<競売物件売却の流れ>
開札→(あ)→売却許可決定(確定)→(い)→代金納付=所有権移転
(5)代金納付『前』の損傷→軽微でない場合に売却不許可or売却許可取消となる
<キャンセルの具体的手続>
あ 売却許可決定確定前(上記『(あ)』)
売却不許可の申出→売却不許可
い 売却許可決定確定後~代金納付前(上記『(い)』)
売却許可決定の取消の申立→売却許可決定の取消
※民事執行法75条
損壊の程度が軽微ではない場合,売却不許可または売却許可の取消になります。
天災等の不可抗力が原因で競売の対象不動産が損傷した場合は,結果的にキャンセルした状態となるのです。
保証金は全額が返還されます。
4 代金納付『前』の時点で不動産が『滅失』→競売手続の取消
<不動産の『滅失』|具体例>
競売されていた建物(戸建住宅)に入札し,最高価を取れた
その後,震災で火事になり,建物が全焼した
キャンセルできないのか
所有権移転前に滅失した場合は,裁判所が職権で(自主的に)競売手続の取消を行います(民事執行法53条)。
これにより,すべてがキャンセル(白紙撤回)となります。
滅失の場合は,損傷と比べて,買受人を救済する要請が強いです。
そこで,売却許可の前後を問わず,競売手続の取消が適用されます。
つまり,上記『(あ)』,『(い)』の時点のいずれも同じ扱いということです。
競売手続の取消となった場合,保証金は全額が返還されます。
5 代金納付『前』の時点で瑕疵が発覚→売却不許可or売却許可取消となる
<事例設定>
競売されていた戸建住宅に入札し,最高価を取れた
建物に(当初から)欠陥があることが後から判明した
キャンセルできないのか
欠陥(損傷)が発覚した時期・損傷内容(程度)によって,キャンセルできることもあります。
手続の流れの中のどの時期に発覚したかによって異なります。
<競売物件売却の流れ>
開札→(あ)→売却許可決定→(い)→売却許可決定確定→(う)→代金納付
<キャンセルの具体的手続>
あ 売却許可決定前(前記『(あ)』)
損傷の内容が売却基準価額を変更すべきだったと言える程度であれば,売却不許可となる
※民事執行法71条6号
い 売却許可決定〜確定前(前記『(い)』)
執行抗告の申立→売却不許可に変更される
う 売却許可決定確定後~代金納付前(前記『(う)』)
具体的な損壊の程度等によっては,売却許可の取消の申立が認められる
※民事執行法75条類推適用
6 『代金納付後』でも裁判所作成資料に重大なミスが発覚→売却許可取消となる
<代金納付後の重大ミス発覚|具体例>
競売不動産を落札した
代金納付後に損壊などが発覚した
(1)代金納付後はリスク移転→原則的に救済されないが例外もある
原則としては,売却許可決定の取消の申立は,代金納付の時までとされています(民事執行法75条)。
しかし,代金納付後に初めて損壊が発覚し,事前に判明するチャンスがなかったような場合は,救済的措置が取られます。
このような特殊な状況においては,代金納付後でも,売却許可決定の取消がなされることがあります(民事執行法75条類推適用)。
(2)競売では瑕疵担保責任が排除されているので,一定のリスクは救済されない
競売の場合,物件明細書や現況調査報告書,評価書(いわゆる3点セット)という書面が,物件内容の把握,判断の主要な情報です。
これら以外の情報については,ノークレームということ根本的な原理です。
逆に言えば,裁判所サイドの事情により,物件明細書や現況調査報告書に大きなミスがあったような場合は,さすがにノークレームは不合理です。
結局,物件明細書などに大きなミスがあり,これを信用した買受人を保護する必要性が高い,という場合に,売却不許可や売却許可決定の取消が認められるということになります。
(3)代金納付後に売却許可取消が認められる基準
<代金納付後に売却許可取消が認められる基準>
※いずれも
・瑕疵の予測が困難であった
・損壊などの瑕疵の内容,程度が大きい
7 心理的瑕疵・建物建築制限でも売却不許可or許可取消となる
(1)『損傷』以外で買受人が困るアクシデント
不動産の『損傷』ではなくても,買受人が『キャンセル』しないと困るケースがあります。
<『損傷』以外で買受人が困る典型例>
・対象建物内で自殺事件が起きた(ことが発覚した)
・借地権付建物について,地主からの明渡請求訴訟が認容・確定した
・建築基準法の規制により『建物が建築できない』
前述のとおり『キャンセルはできない』のが原則です。
しかし,適切な手続を行えば,救済的な措置を得られることがあります。
(2)『売却不許可・許可取消』の類推適用|『損傷』と同視
民事執行法上,入札後のキャンセルは『損傷』だけとされています(前述)。
しかし,一定の範囲で『類推適用』が認められています。
<『損傷』と同視→売却不許可or許可取消の類推適用>
あ 要件
『交換価値が著しく減少している』場合
→売却不許可or許可取消(事由)となる
い 『価値減少』の範囲
競売物件に生じた事由に限る
う 『価値減少』の例示
ア 建築制限
公法上の規制により競売土地上に建物の建築が認められない場合
イ 殺人事件
競売建物内で殺人があった場合
※民事執行法75条1項
※仙台高裁平成8年3月5日
競売において『人の死』が発覚した時の法的扱いは別記事で詳しくまとめています。
詳しくはこちら|競売×『人の死』発覚→売却不許可or売却許可取消|判断基準・事例
本記事では,競売による売却に関して,対象物の瑕疵・損傷が発覚した,あるいは滅失した場合の救済手段について説明しました。
実際には,個別的事情によって対応方法は違ってきます。
実際に競売に関する問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。