【住宅品確法による瑕疵担保責任の強化(基本構造部分は最低10年)】

1 住宅品確法による瑕疵担保責任の強化

平成12年から住宅品確法が施行され、新築住宅の建設・売買について住宅取得者(施主・買主)の保護が強化されています。
詳しくはこちら|住宅品確法の全体像(『新築住宅』の定義・3つの制度)
住宅品確法の制度の代表的なものの1つは瑕疵担保責任の強化です。
民法上の瑕疵担保責任の内容をより強くしているのです。
本記事では、住宅品確法が規定する瑕疵担保責任の内容を説明します。

2 品確法の瑕疵担保責任の対象取引

住宅品確法の瑕疵担保責任の規定が適用される取引は、新築住宅に関する建築請負契約と売買契約だけです。

品確法の瑕疵担保責任の対象取引

あ 対象取引の種類

『新築住宅』の建築請負契約・売買契約
完成後1年以内の住宅のことである
詳しくはこちら|住宅品確法の全体像(『新築住宅』の定義・3つの制度)

い 対象となる契約時期

締結日が平成12年4月1日以降
品確法の施行日のことである

3 品確法の瑕疵担保責任の担保期間

住宅品確法が適用される取引では、重要な構造部分に関して、瑕疵担保責任が適用される期間が最低でも10年となります。
特約で短縮することはできません。逆に延長するのは20年を上限として可能です。

品確法の瑕疵担保責任の担保期間

あ 担保責任の期間

構造上の基本的な部分(後述)について、瑕疵担保責任期間を10年とする

い 担保責任のカウントスタート時点(起算点)

『引渡し』または『建築工事終了(住宅完成)』

う 片面的強行法規

担保期間が『ア』よりも短い特約は無効となる
※品確法94条、95条、97条

え 合意による延長

瑕疵担保期間を合意によって20年まで伸長できる

お 一般的な瑕疵担保期間(参考)
契約の種類 瑕疵担保責任期間 根拠条文
請負契約 引渡しから5年または10年 民法638条
売買契約 瑕疵を知ってから1年 民法570条

詳しくはこちら|瑕疵担保責任の期間制限の規定と特約の制限(まとめ)

4 品確法の対象となる瑕疵

住宅品確法によって、瑕疵担保期間が最低10年となるのは、すべての瑕疵ではありません。
構造耐力上主要な部分雨水の浸入を防止する部分のふたつだけです。このふたつのそれぞれの内容は施行令で定められています。

品確法の対象となる瑕疵

あ 品確法の対象となる瑕疵

ア 構造耐力上主要な部分イ 雨水の浸入を防止する部分 ※品確法94条1項

い 『構造耐力上主要な部分』の内容

『ア・イ』のいずれにも該当するもの
ア 基礎、基礎ぐい、壁、柱、小屋組、土台、斜材(筋かい、方づえ、火打材その他これらに類するものをいう)、床版、屋根版または横架材(梁、けたその他これらに類するものをいう)イ 建築物の自重もしくは積載荷重、積雪、風圧、土圧若しくは水圧または地震その他の震動もしくは衝撃を支えるもの

う 『雨水の浸入を防止する部分』の内容

ア 住宅の屋根と外壁 具体的には屋根・外壁の仕上げ・下地などを指す
イ 住宅の屋根・外壁の開口部に設ける戸・枠その他の建具 具体的にはサッシなどを指す
ウ 雨水を排除するため住宅に設ける排水管のうち、住宅の屋根もしくは外壁の内部または屋内にある部分 ※品確法施行令5条

5 地盤調査と地盤改良工事の事実上の義務化

地盤の強度・耐力については、品確法の対象とする瑕疵には含まれていません(前述)。
しかし、地盤の強度・体力は、基礎基礎ぐい建築物の自重を支えるものの一環となります。
結局、事実上、地盤調査の上で必要に応じて改良工事を行うことが義務化されたといえます。
詳しくはこちら|土地売買の後に地盤沈下・軟弱地盤・液状化が発覚・発生した場合の法的責任・判断基準

6 民法上の除斥期間の適用は修正なし

住宅品確法によって、一定の瑕疵担保責任の期間は最低10年と長く設定されるようになりました(前記)。
しかし、除斥期間という期間制限については住宅品確法で修正されていません。
つまり、民法上の規定がそのまま適用されます。
要するに、住宅の取得者が瑕疵に気づいてから1年間以内という短期間の制限です。
とはいっても、その期間内に、裁判を起こす必要はなく、通知書送付などの意思表示だけをすればクリアできる、という小さなハードルです。

民法上の除斥期間の適用は修正なし

あ 品確法と瑕疵担保責任の除斥期間

民法上の除斥期間(『い』)について
→品確法で修正されてはいない
※品確法94条3項、95条3項

い 民法上の瑕疵担保責任の除斥期間

瑕疵担保責任の追及(請求)は、次の期間内に行う必要がある
責任追及(請求)は、裁判外の行使で足りる

契約の種類 除斥期間 根拠条文
売買 瑕疵の事実を知った時から1年 民法566条3項
請負 滅失・毀損の時から1年 民法638条2項

7 瑕疵担保責任強化の問題点と履行確保法の保護

住宅品確法は瑕疵担保責任を強化していますが、対象となる瑕疵が重要な構造部分に限定されているところが問題です。
というのは、実際に発覚する瑕疵の大部分は、重要な構造部分以外についてのものなのです。
また、瑕疵担保責任が強化されたことにより、損害賠償の請求権が発生しても、請求の相手(建設業者や売主)に資力がなければ、結局被害者は救済されません。
これに関しては、別の法律で保護する制度が作られています。

瑕疵担保責任強化の問題点と履行確保法の保護

あ 品確法の瑕疵担保責任ルールの問題点

対象となる瑕疵の種類は非常に限定されている
→該当する瑕疵が生じるケースは少ない

い 瑕疵担保責任の資力確保措置

理論的な責任については品確法で強化されている
これとは別に売主や請負人の資力不足のリスクがある
履行確保措置が別の法律でフォローされている
詳しくはこちら|住宅瑕疵担保責任履行確保法による被害者救済制度(資力確保措置)
※『週刊ダイヤモンド2012年6月16日』p104〜参照

8 品確法による瑕疵担保責任の内容(請求できる内容)

住宅品確法で規定する瑕疵が発覚した場合には、住宅取得者は施工業者や売主に責任追及ができます。
具体的に請求できる内容は、修補損害賠償です。売買契約については解除できることもできます。

品確法による瑕疵担保責任の内容(請求できる内容)

請求(責任)の内容 売買 請負
瑕疵修補請求
修補に代わる賠償請求
修補とともにする賠償請求
解除 ×

※品確法94条、95条

9 一般的な瑕疵担保責任の内容(参考)

品確法が規定する瑕疵担保責任の内容(前記)は、民法上の瑕疵担保責任とは少し違いがあります。
民法上の瑕疵担保責任では、売買における売主に対して修補を請求することはできないのです。
品確法の瑕疵担保責任ではこれが認められています。

一般的な瑕疵担保責任の内容(参考)

請求(責任)の内容 売買 請負
瑕疵修補請求 ×
修補に代わる賠償請求
修補とともにする賠償請求 ×
解除 ×

詳しくはこちら|売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像

10 品確法の瑕疵担保責任の立証責任の分配

品確法の瑕疵担保責任を実際に追及(請求)する場面では、立証責任の分配が少し変わっています。注意が必要です。

品確法の瑕疵担保責任の立証責任の分配

あ 住宅取得者が負う立証責任

ア 立証事項 品確法の対象とする瑕疵に該当すること”について
住宅取得者が立証責任を負う
イ 具体例 設計図面に筋かいが記載されている
実際には欠落している

い 住宅供給者が負う立証責任

ア 立証事項 瑕疵が構造耐力・雨水の侵入に影響がないことについて
→住宅供給者が立証責任を負う
イ 具体例 設計図面に記載されている筋かいのある建物と同等の構造耐力を備えている
※伊藤滋夫編『逐条解説住宅品質確保促進法』有斐閣1999年p237
※最高裁平成15年10月10日参照

本記事では、住宅品確法の規定する瑕疵担保責任を説明しました。
実際には、瑕疵の有無の判断(評価)は複雑です。また、不法行為責任など、瑕疵担保責任以外の法的な責任も関係してきます。
実際に建物の瑕疵の問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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