【競売における担保責任(権利・種類・品質の不適合)】

1 競売における担保責任(権利・種類・品質の不適合)

一般的な売買契約で、後から当初想定していなかったことが判明した場合、担保責任(契約不適合責任)が認められることがあります。
詳しくはこちら|売買・請負の瑕疵担保責任の要件と責任の内容の全体像
この点、競売で買受人となって不動産(などの財産)を取得した場合にも担保責任が認められることがありますが、売買とは大きな違いがあります。
本記事では、競売における担保責任について説明します。

2 競売における担保責任の条文

競売における担保責任は、平成29年の改正で条文が少し変わっています。最初に条文そのものを整理しておきます。
改正前の民法570条ただし書が、改正後は568条4項に移動しています。

競売における担保責任の条文

あ 民法568条

(競売における担保責任等)
第五百六十八条 民事執行法その他の法律の規定に基づく競売(以下この条において単に「競売」という。)における買受人は、第五百四十一条及び第五百四十二条の規定並びに第五百六十三条第五百六十五条において準用する場合を含む。)の規定により、債務者に対し、契約の解除をし、又は代金の減額を請求することができる。
2 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
3 前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
4 前三項の規定は、競売の目的物の種類又は品質に関する不適合については、適用しない
※民法568条(平成29年改正後)

い 準用している条文の内容

民法541条 (契約の)催告による解除 民法542条 (契約の)催告によらない解除 民法563条 (売買の)代金減額請求 民法565条 (売買の)権利の不適合による担保責任→563条を準用

う 平成29年改正前の民法570条(参考)

(売主の瑕疵担保責任)
売買の目的物に隠れた瑕疵があったときは、第五百六十六条の規定を準用する。ただし、強制競売の場合は、この限りでない
※民法570条(平成29年改正前)

3 競売における担保責任の適用の有無(制限)のまとめ

前記のように、競売のケースにおける担保責任は条文の構造が少し複雑です。また、解釈で条文の文言どおりに扱われないところもあります(後述)。
最初に、結論部分だけを整理したものを挙げておきます。

<競売における担保責任の適用の有無(制限)のまとめ>

あ 不適合の内容

不適合の内容 担保責任の有無 条文 数量・権利 民法568条1項、563条、565条 種類・品質(物) 民法568条4項

い 責任の内容

責任の内容 有無 条文 解除・代金減額請求 民法568条1項 損害賠償請求 原則✕、例外◯ 民法568条3項 追完請求

この内容は以下説明します。

4 不適合の内容→数量・権利の不適合のみ

(1)種類・品質の不適合(物の瑕疵)を除外する理由

前述のように、競売では種類・品質に関する不適合(物の瑕疵)があっても、条文上は担保責任が否定されています。これは、競売の結果を確実にする(そう簡単にくつがえさない)という趣旨です。

種類・品質の不適合(物の瑕疵)を除外する理由

あ 新版注釈民法

(注・平成29年改正前民法570条ただし書について)
競売は債務者の意思に基づかずして行われ、しかも債権者また物の性状に関して知る機会の少ないのを通常とする(他人の物なのであるから)に反して、買受人はむしろ自己の危険において買い取るべきものであるから、買受人の信頼の保護を犠牲にしてでも債権者・債務者を保護し、もって競売結果の確実性を期しよう、とする趣旨である。
※柚木馨・高木多喜男稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(14)』有斐閣1993年p371

い 中田裕康・契約法

αの規律(注・担保責任の規律)は、競売の目的物の種類又は品質に関する契約不適合については、適用されない(568条4項)。
つまり、買受人は、競売で取得した物に種類・品質の不適合があっても、甘受するほかない。
この場合に担保責任が否定される理由は、競売については、
債務者(所有者)の自由意思に基づいて行われるものではないこと、
債権者は目的物の品質について知る機会が少なく帰責性が乏しいこと、
③競売手続において目的物にある程度の損傷等があることは避けられず、それを織り込んで買受けが行われているのが実情であり、買受人は自己の危険で買い取るべきであること、
競売の結果の安定性を図る必要があること、という事情があるからである(柚木=高木・新版注民(14)371頁、山本309頁、中間試案説明421頁、部会資料75A、第3、8説明1)。
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p321、322

(2)種類・品質の不適合の除外の例外→認める見解あり

条文上、競売では種類・品質の不適合について担保責任が否定されていますが、解釈としては、一定の例外を認める見解もあります。
たとえば債務者や債権者が不適合を知っていたけど黙っていた場合は、買受人はだまされたことになります。このような場合には担保責任を認める見解もあるのです。

種類・品質の不適合の除外の例外→認める見解あり

あ 新版注釈民法→民法568条3項類推

しかし、債務者が瑕疵を知って申し出なかったり、債権者がこれを知って競売を請求した場合にも、買受人は何らその信頼を保護される手段がないということは、権利の瑕疵の場合(568Ⅲ)に比して、余りに権衡を失するのではあるまいか。
上述のように、スイス債務法(234Ⅰ)は競売請求者の特別な保証の場合と詐欺の場合とには、明文の規定をもって瑕疵担保責任を課している。ドイツ民法(461)にはこの旨の明文の規定を欠いているが、スイスにおけると同様に解すべしとするのが現在の圧倒的な通説である(Enneccerus-Lehmann、Larenz)。
わが旧民法(財産取得編102)もまた売主悪意の場合には損害賠償請求権だけは買受人に残しているのである。
わが民法は、明文の規定をもってこれらの点に何らの顧慮を与えていないのであるけれども、以上述べた実質上の理由と比較法上の動向とにかんがみて、568条3項の規定を瑕疵担保責任の場合にも類推適用すべきものと考える。
※柚木馨・高木多喜男稿/柚木馨ほか編『新版 注釈民法(14)』有斐閣1993年p371、372

い 中野貞一郎ほか・民事執行法→民法568条3項類推

ただし、瑕疵の露呈なき売却実施が執行債務者または執行債権者の信義則に反する挙動に基づくときは、買受人は、その者に対し損害賠償を請求できる(民568条3項の類推。注釈民法(14)254頁以下〔柚木馨=高木多喜男〕)。
※中野貞一郎ほか著『民事執行法 改訂版』青林書院2021年p547

5 責任の内容→解除・代金減額請求のみ(原則)

(1)解除・代金減額請求の後の代金返還請求

ではたとえば競売において権利の不適合が発覚して、担保責任が発生したケースを想定します。担保責任の内容は解除と代金減額請求の2つだけ、というのが基本です。
具体的な状況としては、解除した場合は原状回復義務が発生します。不動産は元の所有者(債務者)に引き渡すとともに、債務者に対して代金返還請求をします。代金減額請求(実質的には一部解除)をした場合には、不動産を戻す必要はなく、単に債務者に代金のうち減額分の返還を請求することになります。
実際には裁判所に納付した代金は債務者の手にわたったわけではなく、債権者が配当として受け取っているので、債務者は返還する資力がないことが多いです。そこで、競売の担保責任の特殊ルールとして、この場合は債権者に対して返還請求できることになっています。

解除・代金減額請求の後の代金返還請求

あ 基本

それにより、債務者に対し、代金の返還(解除による原状回復)又は代金の一部の返還(減額請求による減額分)を求めることができる。
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p320

い 債権者への請求

ア 基本(条文) 前項の場合において、債務者が無資力であるときは、買受人は、代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の全部又は一部の返還を請求することができる。
※民法568条2項
イ 請求金額→受領配当額限度・連帯 その相手方は、第1次的には執行債務者であり、執行債務者無資力のときは補充的に配当受領債権者であって、配当受領債権者の責任は受領配当額を限度とする。
数人の配当受領債権者の責任は、各自の受領配当額を限度として連帯的に生ずる。
配当金を返還した債権者の抵当権・先取特権は復活する(竹下・研究340頁)。
※中野貞一郎ほか著『民事執行法 改訂版』青林書院2021年p545

(2)損害賠償請求否定の理由と例外

一般的な売買の担保責任には損害賠償請求も含まれますが、競売の担保責任としては含まれません。民法568条が損害賠償請求の条文を準用していないのです。
ただし例外的に、債務者や債権者が不適合(不具合や欠陥)を知っていて黙っていた、という場合にはだましたのと同じことなので、例外的に損害賠償請求を認める見解が優勢です。

損害賠償請求否定の理由と例外

あ 損害賠償請求否定の理由

損害賠償請求は、原則として認められない(債務者の意思による売却でないから)。
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p320

い 例外(条文)

前二項の場合において、債務者が物若しくは権利の不存在を知りながら申し出なかったとき、又は債権者がこれを知りながら競売を請求したときは、買受人は、これらの者に対し、損害賠償の請求をすることができる。
※民法568条3項

(3)追完請求否定の理由

一般的な売買の担保責任には追完請求(修補請求)も含まれます。しかし競売の担保責任としては含まれません。民法568条が追完請求の条文を準用していないのです。
その理由(趣旨)は、所有者(債務者)の意思による所有権移転ではないところにあります。

追完請求否定の理由

・・・競売においては、目的物の所有者の意思にかかわらず強制的に行われるものであることから、債務者に追完義務を負わせるのは相当でなく、追完請求権は認められていない(568条1項参照)。
※中田裕康著『契約法 新版』有斐閣2021年p320

6 危険負担の移転時期(担保責任の対象範囲)→引渡時

担保責任が発生するのは、損傷や滅失がいつまでに発生した場合なのでしょうか。危険(負担)が移転する時期ともいいます。
この点、平成29年改正前の民法534条は契約一般について「債権者(買主)が危険を負担する」と、大雑把な書き方になっていたので、引渡時という解釈が有力でした。その上で、競売では民事執行法79条が代金納付時所有権が移転すると定めてあることから、競売だけはこの時点が危険負担の移転時期である、という解釈が優勢でした。
平成29年改正後の民法567条では、売買について、危険負担の移転時期が引渡時であると明記されました。そこで、現在では競売も含めて危険負担時期は引渡時であるという見解が優勢となっています。

危険負担の移転時期(担保責任の対象範囲)→引渡時

代金納付後の不動産の滅失・損傷についての危険(給付危険および対価危険)が買受人に移転するのは、引渡しの時(買受人の受領拒絶・受領不能の際は引渡しの提供の時)を待つ(民567条・568条。従前は、法79条が民法534条の規律を修正して代金納付時に危険が移転すると解されたところである)。
※中野貞一郎ほか著『民事執行法 改訂版』青林書院2021年p534

7 平成8年最判・借地権が存在しなかったことによる解除→肯定

実際に、権利の不適合を理由とした、担保責任としての解除が認められた事例を紹介します。
物件明細書の含めて建物に借地権がついていると記載してあったので入札し、最高価となった者が代金を納付してめでたく不動産(所有権)を取得できました。
ところが、売却許可決定の直前に、借地契約が解除されていたことが、後から発覚しました。
「権利の不適合」であるから、担保責任(解除)が使えるのは当然のように思えますが、当時はそうではなかったので、最高裁が判断するまで決着がつかなかったのです。当時の条文ではあると思っていた「地役権」がなかったというケースは記載されていましたが、「借地権(賃借権)がなかったケースについては条文には記載がなかったのです。最終的に最高裁は借地権がなかったケースも担保責任が使える、と判断しました。結論だけみると当たり前のように思えますが、反対する見解もあったのです。

平成8年最判・借地権が存在しなかったことによる解除→肯定

あ 結論→解除肯定

建物に対する強制競売の手続において、建物のために借地権が存在することを前提として建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、売却が実施されたことが明らかであるにもかかわらず、実際には建物の買受人が代金を納付した時点において借地権が存在しなかった場合、買受人は、そのために建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、民法五六八条一項、二項及び五六六条一項、二項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができるものと解するのが相当である。

い 理由→公平にかなう

けだし、建物のために借地権が存在する場合には、建物の買受人はその借地権を建物に従たる権利として当然に取得する関係に立つため、建物に対する強制競売の手続においては、執行官は、債務者の敷地に対する占有の権原の有無、権原の内容の細目等を調査してその結果を現況調査報告書に記載し、評価人は、建物価額の評価に際し、建物自体の価額のほか借地権の価額をも加えた評価額を算出してその過程を評価書に記載し、執行裁判所は、評価人の評価に基づいて最低売却価額を定め、物件明細書を作成した上、現況調査報告書及び評価書の写しを物件明細書の写しと共に執行裁判所に備え置いて一般の閲覧に供しなければならないものとされている。
したがって、現況調査報告書に建物のために借地権が存在する旨が記載され、借地権の存在を考慮して建物の評価及び最低売却価額の決定がされ、物件明細書にも借地権の存在が明記されるなど、強制競売の手続における右各関係書類の記載によって、建物のために借地権が存在することを前提として売却が実施されたことが明らかである場合には、建物の買受人が借地権を当然に取得することが予定されているものというべきである。
そうすると、実際には買受人が代金を納付した時点において借地権が存在せず、買受人が借地権を取得することができないため、建物買受けの目的を達することができず、かつ、債務者が無資力であるときは、買受人は、民法五六八条一項、二項及び五六六条一項、二項の類推適用により、強制競売による建物の売買契約を解除した上、売却代金の配当を受けた債権者に対し、その代金の返還を請求することができるものと解するのが右三者間の公平にかなうからである。
※最判平成8年1月26日

8 担保責任と競売手続内の救済手段との対応

以上のように、競売の担保責任の内容は、(基本的に)解除と代金減額請求だけであり、これらの権利を行使した後には代金の全部または一部の返還を債務者(元所有者)または債権者(配当を受けた者)に請求する、ということになります。
この点、競売手続がまだ進行中で、まだ代金納付をしていない段階であれば、代金納付を回避する方法や、納付した代金を裁判所が預かっている(配当前)段階であれば、裁判所に代金返還を請求する方法もあります。
これらの方法を使う場合には、実体法(民法)上の解除や代金減額請求の権利行使をするとともに、競売手続(民事執行法)上の競売手続取消決定の要請や、売却許可決定の取消申立執行抗告といった手続を行う必要があります。

担保責任と競売手続内の救済手段との対応

あ 解除→競売手続取消決定

ア 代金納付前→代金納付義務回避 (a)担保責任を理由に(売却許可決定による成立後またはその確定による発効後の)売買契約を全部解除した買受人は、執行裁判所の職権発動を促して法53条の適用ないし、類推による競売手続取消決定を受け、もって代金納付前には代金納付義務を免れ
イ 代金納付後・配当実施前→裁判所への返還請求 代金納付後・配当実施前にはその返還を執行裁判所に請求することができる。

い 代金減額請求

ア 売却許可決定確定前→執行抗告→売却許可決定の変更 (b)担保責任を理由に売買契約を一部解除(代金減額請求)した買受人は、売却許可決定に対する執行抗告(法71条6号・74条2項)によりその旨を主張して売却許可決定の変更を求めることができる。
イ 売却許可決定確定後・代金納付前→売却許可決定取消申立 売却許可決定確定後、代金納付前には、法75条1項の類推により、売却許可決定の取消しを申し立てることができる。
ウ 代金納付後→手続内の救済なし 代金納付後には、配当実施前であっても、もはや競売手続内で救済を受ける余地はない
※中野貞一郎ほか著『民事執行法 改訂版』青林書院2021年p547

9 関連テーマ

(1)不動産が損傷・滅失した場合の競売手続内の救済手段

競売において、不動産に不具合が発覚した場合の救済手段としては、以上で説明した民法上の担保責任とは別に、民事執行法による、競売手続内での救済手段もあります。条文上は不動産の損傷滅失だけですが、ほかの不具合にも広く適用されています。
詳しくはこちら|不動産競売で不動産が損傷・滅失した場合の救済手段(売却不許可・売却許可取消)

本記事では、不動産競売における担保責任について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に競売により取得した不動産の不具合、欠陥など(不適合)に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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