【建物譲渡特約付借地における地主と建物賃借人の対抗関係と紛争予防策】

1 建物譲渡時の建物賃借人の法的扱い
2 対抗要件による優劣と法定借家権
3 建物譲渡時の建物賃借人の存在の回避(全体)
4 建物賃貸を定期借家に限定する方法
5 建物賃貸を取壊予定建物賃貸借に限定する方法

1 建物譲渡時の建物賃借人の法的扱い

建物譲渡特約付借地では,最終的に建物が地主に譲渡されます。
この時点で建物に賃借人がいると,地主と建物賃借人との対立関係が生じます。
法律的には対抗関係となります。

<建物譲渡時の建物賃借人の法的扱い>

あ 事案

建物譲渡特約付借地の契約がある
期間満了時において
借地上の建物に賃借人が入居している状態である
建物の賃貸借契約の期間が長く設定されている
建物が地主に譲渡され,地主の所有となった

い 対抗関係

次の対抗関係が生じる
(賃借人・建物譲受人は民法177条の第三者に該当する)
詳しくはこちら|民法177条の第三者に該当する者の具体的類型
→対抗要件を備えた先後で優劣が決まる
(参考)対抗要件の制度を説明している記事
詳しくはこちら|対抗要件の制度(対抗関係における登記による優劣)の基本

対抗関係 対抗要件
建物の賃借権 建物賃借人の入居or建物賃借権登記(後記※3
建物の譲渡 建物の所有権移転(仮)登記

※民法177条,605条,借地借家法31条1項
※3 建物の賃借権の対抗要件は賃借権登記または建物の引渡である
詳しくはこちら|不動産(物権)以外の対抗要件(不動産賃借権・動産・債権譲渡・株式譲渡)

2 対抗要件による優劣と法定借家権

前記の,地主と建物賃借人の対抗関係は登記などの対抗要件の状況によって優劣が決まります。
これ自体は一般的な対抗関係の扱いですが,法定借家権の発生によって状況は大きく変わります。

<対抗要件による優劣と法定借家権>

あ 建物賃貸借が優先のケース

建物賃借人の入居(or建物賃借権登記)が先である場合
→建物の賃借権が優先となる
→建物賃借権を建物の譲受人(地主)が承継する
→地主は建物の明渡を請求できない

い 建物譲渡が優先のケース

ア 対抗要件による優劣 建物の所有権移転(仮)登記が先である場合
→建物の譲渡が優先となる
→従前の建物賃借権がない状態で譲受人(地主)が承継する
→地主は建物の明渡を請求できる
イ 法定借家権の発生 法定借家権が発生することがある
例;建物賃借人の請求
詳しくはこちら|建物譲渡特約付借地における法定借家権発生と賃料の決定(協議・裁判)
→この場合,地主は建物の明渡を請求できない
※稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p188

3 建物譲渡時の建物賃借人の存在の回避(全体)

地主に建物が譲渡された時に建物が賃借人がいると,前記のように建物や敷地の活用が制限されます。
そこで,建物の譲渡の時点で建物に賃借人が存在することを回避することが望ましいです。
回避する方法としては大きく2種類が考えられます。

<建物譲渡時の建物賃借人の存在を回避(全体)>

あ 目的

建物譲渡時において建物賃借人が存在しないようにする

い 予防策

建物を第三者に使用させることについて
地主と借地人で『ア・イ』のいずれかを合意しておく
ア 定期借家に限定する(後記※1イ 取壊し予定の建物の賃貸借に限定する(後記※2

う 法的扱いのリスク

『い』の合意について
実質的に法定借家権の排除と評価される可能性がある
→強行法規性により無効となることにつながる
※稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p190

4 建物賃貸を定期借家に限定する方法

借地人が建物を賃貸する手段を定期借家に限定する方法でもリスクを完全に抑制できません。

<建物賃貸を定期借家に限定する方法(※1)

あ 合意内容(条項例)

建物を第三者に賃貸する場合は,建物譲渡特約の効力が発生する前に期間の満了する定期借家契約によらなければならない。
借地人がこれに違反して普通借家契約で建物を賃貸した場合には,借地契約違反となる。

い 違反への対応

借地人が『あ』の合意に違反した場合
例;建物を第三者に普通借家で貸した
→借地契約の解除事由になりうる
ただし,信頼関係破壊と認められる必要がある
詳しくはこちら|信頼関係破壊理論と背信行為論の基本(同質性・主な3つの効果)
※澤野順彦『実務解説借地借家法』青林書院p119

5 建物賃貸を取壊予定建物賃貸借に限定する方法

借地人が建物を賃貸する手段を取壊し予定の建物の賃貸借に限定する方法があります。
この具体的な契約書の条項を紹介します。
ただし,実際にこのとおりの効力が発生するとは限りません。
リスクを回避する効果としては完全とはいえません。

<建物賃貸を取壊予定建物賃貸借に限定する方法(※2)

あ 合意内容(条項例)

借地権者が本件建物を第三者に賃貸しようとするときは,事前に借地権設定者に対し,その旨書面で通知した上,以下の各号の規定を遵守しなければならない。
(ア)建物賃借人との建物賃貸借契約は,借地借家法39条に定める取壊し予定の建物の賃貸借契約によること(イ)建物賃貸借契約期間は,本件借地権の存続期間満了の6か月前に終了させること(ウ)建物賃借人に対して,借地借家法35条(借地上の建物の賃借人の保護)の効力を生じさせないために,本件借地権の存続期間満了の1年6か月前に本件建物が取り壊される旨の通知をすること

い 法的扱いのリスク

一定期間経過後に建物を取壊すべきことについて
客観的に明らかとは言えない可能性がある
取壊し予定の建物賃貸借としては認められない可能性もある
※借地借家法39条
※安達敏男ほか『Q&A借地借家の法律と実務』日本加除出版p36
※稻本洋之助ほか『コンメンタール借地借家法 第3版』日本評論社p305

共有不動産の紛争解決の実務第2版

使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記・税務まで

共有不動産の紛争解決の実務 第2版 弁護士・司法書士 三平聡史 著 使用方法・共有物分割の協議・訴訟から登記、税務まで 第2班では、背景にある判例、学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補! 共有物分割、共有物持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続きを上手に使い分けるためこ指針を示した定番書!

実務で使用する書式、知っておくべき判例を多数収録した待望の改訂版!

  • 第2版では、背景にある判例・学説の考え方を追加して事例検討をより深化させるとともに、改正債権法・相続法が紛争解決に与える影響など最新の実務動向を丁寧に追録して大幅改訂増補!
  • 共有物分割、共有持分買取権行使、共有持分放棄、共有持分譲渡などの手続を上手に使い分けるための指針を示した定番書!
  • 他の共有者等に対する通知書・合意書、共有物分割の類型ごとの訴状、紛争当事者の関係図を多数収録しており、実務に至便!
  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【建物譲渡特約付借地の法定借家の期間と定期借家とする合意や事前設定】
【家事調停における合意に相当する審判(対象案件・要件・事実の調査)】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00