【後見人と本人の家族での対立(辞任、解任請求、任意後見契約で法定後見排除)】

1 後見人と本人の家族で、意向が食い違うことがある

(1)後見人の制度

判断能力が不十分な方に、「サポーター」を付ける制度があります。
補助人、保佐人、後見人が本人の財産管理をする制度です。
詳しくはこちら|民法における意思能力と制限行為能力(本人保護の仕組み)の基本

「本人」のことを、補助、保佐、後見「される人」という意味で、被補助人、被保佐人、被後見人と言います。
以下簡単に「本人」と言います。

補助人、保佐人、後見人は、一定の権限が決まっています。
特に後見人ですが、その「権限」についての「裁量」は大きいです。
別項目;認知症;財産デッド・ロックリスク;基本

(2)後見人と本人の家族での対立

本人や、その家族などの希望、想定どおりに動いてくれない、という実例は多いです。

このような場合には、家族などが、後見人に意見や法的な見解を説明し、協議するのが一般的です。
「法的な見解」については、弁護士が調査や協議の依頼を受けて行うこともあります。

2 後見人が自主的に「辞任」することもできる

本人の家族と後見人等の意向が食い違った場合の対応について説明します。
典型的な「意向の食い違い」は「後見人」の場合です。
裁量の幅が大きいからです。
以下、説明としては「後見人」の例を用います。
ただ、基本的には保佐人、補助人にもあてはまります。

(1)実際に困る状況

実際に、本人の家族、と、後見人とで、意向が食い違うった場合、後見人としても困ります。
後見人は裁量の幅が大きいです。
裏返すと、後見人自身の判断の幅が大きい→責任も大きい、ということです。
家族の見解どおりに行為した場合、後から「権限違反」として責任を追及されるリスクを負います。

(2)辞任の方向性

そこで、現実的な対応として「後見人として辞任する」ということがあり得ます。
ただし、無条件に辞任できるわけではありません。
「正当な事由」が必要で、かつ、裁判所がその理由を認めて許可して初めて辞任できるのです(民法844条)。
後見人が辞任する場合、後任、つまり「新たな後見人」の選任請求手続までを「前任後見人」が行う必要があります(民法845条)。
これらの規定は、補助人、保佐人についても適用されます(民法876条の2第2項、876条の7第2項)。

(3)辞任の「正当な事由」該当性

後見人が辞任の意向を持っている場合、家庭裁判所は「理由」を検討します。
実際には、「本人との家族の対立が熾烈」であれば、認める傾向にあります(「論点体系判例民法9」p443)。
逆に「些細な見解の相違」程度では家庭裁判所は辞任を許可しないでしょう。

3 本人の家族から後見人の「解任請求」ができる

(1)後見人の解任請求の規定

本人の家族と後見人が現実に対立している場合に、家族から「後見人の解任請求」をすることもできます。
後見人の解任請求の申立人、解任事由については、民法上明文規定があります。
まずはこれを整理しておきます。

後見人の解任請求の申立人と解任事由

あ 後見人解任請求の申立人

・後見監督人
・被後見人
・被後見人の親族
・検察官
・申立人なし=裁判所の職権
※民法846条

い 後見人の解任事由

・不正な行為
・著しい不行跡
・その他後見等の任務に適しない事由

(2)後見人の解任請求に対する家庭裁判所の判断

以上の規定を元に説明します。
本人の家族のうち「被後見人の親族」に該当する方であれば、解任請求を家庭裁判所に申し立てることができます。
なお、裁判所の裁量、ということも認められています。
「親族」に該当しない方でも家庭裁判所に「要請」すれば、裁判所が判断する、ということもあります。
一般的にこのような方法を「職権発動を促す」と言います。
具体的には「上申書を提出する」という形式を取ることが多いです。

解任請求の申立までは単純ですが、「解任事由」に該当するかどうかの家庭裁判所の判断が重要です。
「本人の家族との見解が相違する」「対立している」ということだと、形式論として解任事由には該当しないでしょう。
解任は認められないことが多いです。
ただし「本人」との関係が悪化している場合には認められる可能性はある程度高いです(岡本和雄『新版家事事件の実務 成年後見』p71、中川淳『改訂親族法逐条解説)p520頁)。

解任請求を申し立てる、ということ自体から、後見人の判断として「辞任したい」と思うことはあるでしょう。
「辞任」の場合はハードルは(解任よりも)低いです。
認められることが多いです(前述)。

(3)解任が認められると後任の後見人が選任される

一般的に、後見人の解任が認められると、最初から複数名が就任していない限り「後見人不在」になります。
そうすると、裁判所が新たな後見人を選任することになります(民法876条の2第2項)。

(4)補助人、保佐人にも「解任請求」は適用される

補助人、保佐人についても、「後見人の解任請求」の規定は適用されています(876条の2第2項・876条の7第2項)
以上のことは同様にあてはまります。

4 新たに任意後見契約を締結し、現在の後見人等を「排除」できる

法定後見よりも任意後見が優先される、という規定があります。
別項目;認知症;財産デッド・ロックリスク;任意後見vs任意後見
この規定に着目した方法があります。
後見人等を排除したい、という状態になった時点で、「任意後見契約」の締結をする、という発想です。

(1)意思能力が低い状態での「任意後見契約」が無効となる可能性

まず、後見、保佐、補助などの開始審判がなされた状態ということは、本人の判断能力低下が認められているはずです。
詳しくはこちら|民法における意思能力と制限行為能力(本人保護の仕組み)の基本

ここに簡単にまとめておきます。

事理弁識能力低下の程度

(ア)法定後見→欠く常況(イ)保佐→著しく不十分(ウ)補助→不十分

これを前提にすると、「被後見人は常に事理弁識能力なし」→任意後見契約を締結しても無効、となります。
逆に、法定後見、以外であれば、契約締結時の本人の状態次第では「事理弁識能力あり」→契約は有効、となります。
もちろん、後から有効性について否定とされるリスクはありましょう。
しかし、任意後見契約は公証人が関与してなされます(任意後見契約法3条)。
当然、意思能力もチェックします。
これがハードルになる一方、作成後は有効性が否定されることはほとんどないです。

(2)任意後見の審判申立

任意後見人候補者と、本人とで、任意後見契約を締結した後について説明します。
まずは任意後見契約の登記を行います。

その上で、家庭裁判所に、任意後見の審判を申し立てます。
性格には「任意後見監督人選任の申立」と呼びます。
「任意後見監督人の選任」によって「任意後見人受任者」(候補者)が「任意後見人」となります(任意後見契約法2条3号、4号)。
要するに、任意後見人が契約に規定した権限を行える状態になるのです。
この審判「任意後見の審判(申立)」「任意後見開始」と略して言います。

本人、本人の家族、任意後見人候補者(受任者)が任意後見の審判の申し立てをすると良いです。
本人の「事理弁識能力が不十分」という状態であれば、任意後見開始の審判はなされることとされています(任意後見契約法4条1項)。

(3)既に選任されている法定後見との重複についての対応

ここで最大の問題は「法定後見」と「任意後見」の重複です。
これについては法律上規定があります(任意後見契約法4条2項)。

法定後見が既になされた後に、任意後見の審判を行う場合の規定

※任意後見契約法4条1項2号、4条2項
あ 「法定後見を継続することが本人の利益のため特に必要である場合」(だけ)

→法定後見が継続される+任意後見は開始しない

い 「あ」に該当しない場合

→任意後見が開始される+法定後見開始の審判は取り消される

結局原則は、任意後見人が就任し、法定後見人は解消される、ということです。
なお、以上の規定は『補助』『保佐』についても同様です(任意後見契約法4条1項2号、4条2項)。

5 法定後見人と本人の家族が対立した場合の解決法のまとめ

法定後見人と本人の家族が対立した場合の解決法をいくつか説明しました。
最後にまとめて整理しておきます。

法定後見人と本人の家族との対立時の対応

あ 見解について協議する
い 後見人に辞任を要請する

「あ」「い」は通常の方法です。

う 後見人の解任請求を申し立てる

これは明確な「不正」があった場合くらいしか機能しないでしょう。

え 任意後見契約締結による後見人の排除

後見人が異常な態度であるが、解任が認められる程度未満、という時に有用でしょう。

本記事では、成年後見人と本人の家族との対立について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
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あ,性格の一致,とかいらないんで,とりあえずコンピ1億2000万円ください。

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