【認知症による財産デッドロックのリスクの予防(法定後見・任意後見)】
1 認知症による財産デッド・ロック
2 任意後見契約では『後見人』を『指定』できる
3 法定後見の申立で本人の想定が実現しなくなる
4 法定後見よりも任意後見が優先される
5 任意後見よりも法定後見が優先される例外もある
6 任意後見優先の例外の適用は少ない
1 認知症による財産デッド・ロック
一般的に,認知症になると,意思能力が不足し,財産の管理の大部分ができなくなります。
通常は,補助,保佐,(法定)後見の利用を考えます。
これらの開始決定がなされると,本人の行為能力が制限されます。
売買を始めとする契約などの法律行為が本人が単独で行えない,というのが典型的な制限です。
補助,保佐,後見という種類によって制限の内容,強度は異なります。
いずれにしても,資産運用は大幅に制限を受けることになります。
この予防法もいくつかあります。
別項目;認知症;財産デッド・ロックリスク;基本
予防方法の1つが任意後見の活用です。
任意後見について,法定後見より優れているところに着目しつつ説明します。
2 任意後見契約では『後見人』を『指定』できる
まず,任意後見契約においては「任意後見人」(候補者)を指定します。
というより,本人と任意後見人候補者の間で任意後見契約を締結するわけです。
当然,任意後見人は契約締結時点で,指定され,特定しているのです。
3 法定後見の申立で本人の想定が実現しなくなる
(1)法定後見等の開始審判申立に本人の関与は原則不要
任意後見契約は,本人が将来の財産管理の方法として想定,希望したものが規定されているはずです。
ここで,任意後見契約が締結されている場合にでも,「法定後見」の利用(申立)は禁止されていません。
つまり,任意後見,法定後見のいずれの申立も可能,ということです。
ところで,任意後見,法定後見ともに,申立人は本人だけではなく,配偶者,4親等以内の親族も含まれています。
詳しくはこちら|成年後見人の制度の基本(活用の目的や具体例と家裁の選任手続)
仮に,本人以外が法定後見の申立をした場合,本人の意向による任意後見が実現しません。
(2)補助開始審判申立のみ,本人の同意が必要
この点補助開始審判申立は,本人以外が申し立てる場合でも,本人の同意が必要です(民法15条2項)。
本人の意向に反して補助人が選任されるということはありません。
しかし,保佐人,法定後見人の場合は,本人の同意,は不要とされています(民法7条,11条)。
4 法定後見よりも任意後見が優先される
本人以外の申し立てにより,法定後見開始の審判がなされてしまうと,この本人の意図,希望が反故にされます。
そこで,法定後見よりも任意後見が優先されることとされています(任意後見契約に関する法律10条)。
任意後見の登記がなされている場合は,法定後見等の申立がなされても,原則的に開始の審判をしないということです。
<法定後見と任意後見の優先度>
任意後見(=優先) >>> 法定後見(保佐,補助含む=劣後)
5 任意後見よりも法定後見が優先される例外もある
既に説明しましたとおり,法定後見よりも任意後見契約が優先です。
任意後見契約がなされている場合は,法定後見人,保佐人,補助人は選任されないことになります。
しかし,例外があります。
条文上,『特に必要があると認めるときに限り』法定後見等を優先できることとされています(法定後見契約に関する法律10条1項)。
具体例として↓のような事情が考えられます。
<任意後見制度優先の原則の例外となる事情>
あ 任意後見契約締結が,本人の意向を十分に反映していない
→関係者に署名調印を強いられた,など
い 任意後見契約における後見人(候補者)が,事後的に,本人と対立状態に陥っている
う 任意後見契約上の代理権の範囲が不十分である
え 任意後見人の報酬額が高額過ぎる
6 任意後見優先の例外の適用は少ない
実務上の判断の傾向について,次にまとめます。
<任意後見制度優先の原則の『例外』の認定の傾向>
あ 『例外』認定の傾向
『例外』を認めるハードルは高い
い 『例外を認めない』判例
『原則どおり=任意後見優先』の判例が多い
※大阪高裁平成14年6月5日
※札幌高裁平成12年12月25日
もちろん,個別的な事情の主張・立証により判断の結論は大きく変わることがあります。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
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