【いろいろな財産の遺産分割の要否(遺産共有or分割承継の区別)】

本記事では相続による財産の承継の基本・原則部分を説明します。
『遺言』がないことを大前提としています。
『遺言』がある場合の財産承継については別に詳しく説明しています。
詳しくはこちら|遺言の種類と記載事項、遺留分との抵触、生前贈与との違い

1 相続財産は原則的に『遺産共有』となる→遺産分割が必要

(1)相続財産は原則的に遺産共有となる

遺言がない場合は、一般的に、相続により、相続財産遺産は、相続人の共有となります(民法898条)。
そして、具体的な遺産分割方法は相続人間の協議や調停、審判で決めることになります(民法907条)。
遺産分割前の共有状態は、『遺産分割協議によって違う状態に変わるかもしれない』という意味で暫定的です。
遺産分割協議が成立した場合、その結果は相続時まで遡るのです(民法909条)。
この共有状態を遺産共有と呼んでいます。

(2)遺産共有の性質は一般の共有と同じ扱いとなるが解消の方法が異なる

遺産共有は基本的には一般の共有と同じに扱うべきだと解釈されています。

遺産共有の性質

基本的に『一般の共有』と同じ
『暫定的』という性質だけは異なる
※民法251条〜
※最高裁昭和30年5月31日

結局、遺産分割協議や家裁の審判で確定的な承継方法を決めない以上は、共有(遺産共有)という状態になるのです。
なお、この共有を解消する場合に使えるのは遺産分割の手続だけであり、共有物分割の手続は使えないことになっています。
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)

以下、遺産の種類別に、相続による承継について説明します。

2 『債権』『債務』は相続により『分割承継』となる

一方、遺産のうち可分債権については、例外的に分割承継となります。
つまり、各相続人が法定相続分の割合だけ按分して債権を承継するということです。
例えば、300万円の貸金債権のうち3分の1の100万円分を単独で承継した状態です。
100万円の返還請求ができるということになります。
この点、預貯金については、平成28年の判例変更で扱いが変わりました。分割承継は否定され、遺産分割の対象となることになったのです。
詳しくはこちら|相続財産の預貯金は平成28年判例で遺産共有=遺産分割必要となった
詳しくはこちら|平成28年判例が預貯金を遺産分割の対象にした判例変更の理由
債務も原則的に相続分に応じて分割承継されます。
詳しくはこちら|相続債務の当然分割と遺言による相続分指定の効力

3 『不動産』は相続により『遺産共有』となる

(1)不動産は『遺産共有』となる

遺言がない場合は、一般的に、相続により、相続財産(遺産)は、相続人間の共有となります(民法898条)。
遺産共有です(前述)。
不動産は遺産共有となる典型の1つです。
そして、遺産分割の協議や調停、審判で具体的、最終的な承継方法を決めることになります。

(2)収益不動産の共有→収入・支出が煩雑になる

例えば、法定相続により収益物件が子供A、B、Cの共有になったとします。
テナントからの家賃収入は、子供それぞれが3分の1ずつを請求できる状態になります。
実際にはAが代表としてテナントに家賃を請求し、もらった後にB、Cに3分の1ずつ分配することが多いです。
維持費などの経費はAが支払った(いわば立て替えた)後にAがB、Cに対して3分の1ずつを請求することになります。
このように煩雑なプロセスが必要になります。

(3)収益不動産の共有→トラブルが生じがち

さらに、収益不動産が相続で、遺産共有となると法的な扱いでトラブルが生じがちです。
実際には管理方法で共有者(A、B、C)の意見が相違することも多いです。
例えば外壁工事を行い、Aが工事費を支払った場合、B、Cが『工事は不必要だった』と考える場合です。
B、Cは、費用(の3分の1)の支払を拒否するのです。
また、家賃を値上げしようとしても、3人で意見が一致しない場合は値上げができません。
家賃の値上げは『共有物の管理』に該当するので持分の過半数の同意がないとできないのです(民法252条)。
不動産を売却することを考えても、3人全員でなければ売却できません(民法251条)。
なお、3分の1の持分を売却することは1人でもできますが、普通買い手は付かないでしょう。
関連コンテンツ|共有物の変更・管理・保存の判別と必要な共有者の数

4 『株式』は相続により『遺産共有』となる

株式は相続により『遺産共有』となります。
『株式の準共有』という状態になります。
権利行使のハードルがとても高く、不便な状態となってしまいます。
これについて別記事で詳しく説明しています。
詳しくはこちら|株式×相続|遺産共有=準共有|権利行使者の指定・株主権訴訟×原告適格

5 『国債』『社債』は相続により『遺産共有』となる

国債の相続|遺産共有

あ 判例の解釈

国債は共同相続により『遺産共有』となる
『分割承継』ではない

い 理由

1単位未満での権利行使が予定されていない
→単純な『金銭の請求権』のように完全な『分割』ができない
※個人向け国債の発行等に関する省令3条
※最高裁平成26年2月25日

社債の相続|遺産共有

社債は国債と同様の性格である
→共同相続により『遺産共有』となる
※片岡武ほか『家庭裁判所における遺産分割・遺留分の実務』日本加除出版2013年p121〜124

6 『投資信託(受益権)』は相続により『遺産共有』となる

投資信託受益権の相続|遺産共有

あ 判例の解釈|原則

投資信託受益権は共同相続により『遺産共有』となる
→『分割承継』ではない

い 理由

帳簿閲覧・謄写請求権などの監督機能がある
→単純な『金銭の請求権』と同様ではない

う 例外となる可能性

約款で一部解約が可能である場合
→可分債権=分割承継と解釈する可能性もある
※投資信託及び投資法人に関する法律15条2項
※最高裁平成26年2月25日
※福岡高裁平成22年2月17日
※大阪地裁平成18年7月21日

7 投信の償還による預り金(遺産共有)

投資信託の償還による預り金について、判例は遺産共有と認めました。
投資信託の契約者の死後に償還されたものなので、本質的に遺産共有の性質といえるのです。

投信の償還による預り金(遺産共有)

あ 事案

Aが委託者指図型投資信託の受益権を有していた
Aが亡くなり共同相続となった
元本償還金・収益分配金が発生した
受益権販売会社のA名義の預り金口座に入金された

い 裁判所の判断

預り金返還債権は遺産共有となる
※最高裁平成26年12月12日

8 MMF・MRF(信託受益権換価請求権など)は『分割承継』となる

『信託受益権』そのものではなく、これを商品化したMMFやMRFがあります。
感覚的・実質的には『預金』と同じようなものです。

MMF・MRFの相続|分割承継

あ 法的な請求権

『信託受益権換価請求権・換価代金支払請求権』

い 判例の解釈

『分割承継』となる
※大阪地裁平成18年7月21日

実質・実態から『預金』と同じ扱いとなったのです。
『投資信託』(前述)とは別の扱いとなっているので要注意です。

9 『現金』は相続により『遺産共有』となる→『遺産分割』完了まで誰も使えない

(1)現金債権ではないので分割債権と言いようがない

現金×法定相続

法定相続の際『現金』は『不可分』である
→共同相続人の『準共有』となる
※最高裁平成4年4月10日

そもそも債権ではないので可分債権と言いようがないのです。
預金と違って物理的写実的というイメージなのです。

(2)遺産の現金は、遺産分割完了まで誰も使えない

例えば、『3000万円の現金が相続で3人それぞれ1000万円ずつに分けられる』ということにはならないのです。
結局、現金は可分(民法427条)ではないので、原則(=民法264条本文)どおりに、準共有という状態になります。
遺産分割の協議や審判を経ないと、相続人の誰もが使えない状態ということです。

10 『遺産分割』の対象かどうか|まとめ|東京家庭裁判所の説明内容

共同相続の解釈→遺産分割の要否|原則論

あ 原則的な結論

ア 遺産共有 遺産分割の対象となる
イ 当然分割=分割承継 確定的に相続人に帰属する→遺産分割の対象にならない

い 例外的な扱い

当然分割=分割承継の場合でも、『相続人全員の同意』がある場合
→遺産分割(調停・審判)を利用できる
理論的には整合しないが、現実的なニーズに対応した解釈論
詳しくはこちら|遺産の賃貸不動産の賃料債権の扱い(遺産分割/当然分割・遡及効の制限)

<財産の種類ごとの遺産分割の要否(まとめ)>

対象財産 共同相続形態 遺産分割協議 調停 審判 現金・預貯金・土地建物・借地権・株式・国債・社債 遺産共有 貸金・不当利得・不法行為債権(使途不明金)・賃料 当然分割 △(後記※1 △(後記※1 △(後記※1 相続開始後の利息・賃料・代償財産 当然分割 △(後記※1 △(後記※1 △(後記※1 相続債務 当然分割 ◯(後記※2 ◯(後記※2 ☓(後記※3 生命保険金・死亡退職金・遺族年金・香典・葬儀費用・遺産管理費用 遺産分割の対象外 ◯(後記※4 ◯(後記※4 ☓(後記※3
※東京家庭裁判所のリーフレット『遺産分割調停・審判で扱うことができる遺産』参照

<補足・注意事項>

あ 『当然分割』の債権(※1)

『相続人全員の同意』により遺産分割が可能とされる(前述)。

い 『当然分割』の債務(※2)

『相続人全員の同意』により遺産分割が可能とされる(『あ』と同様)。
ただし、相続人間の合意は、『債権者に対して』は主張できない(対抗できない)。

う 家事審判の対象外(※3)

債務・葬儀費用・遺産管理費用は、『家事審判』の対象とされていない
性質としても、『公的・強制的判断』は馴染まない
結局、『相続人全員の同意』があっても『審判』は許容されない

え 葬儀費用・遺産管理費用の『協議』『調停』(※4)

理論的には『遺産』ではない→遺産分割の対象外
ただし相続人全員の同意がある場合、現実的なニーズに応じて『協議』『調停』は可能とされる
===

葬儀費用や、その負担者の解釈は見解が分かれています。
詳しくはこちら|葬儀費用は誰が負担するのか(喪主・相続人・相続財産・慣習説)

参考情報

高橋信幸『第5回遺産分割調停・審判事件の実務』/『法曹時報66巻8号』p95
『月報司法書士2014年10月』日本司法書士会連合会p50〜
弁護士法人 みずほ中央法律事務所 弁護士・司法書士 三平聡史

2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分

相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。

  • このエントリーをはてなブックマークに追加
  • LINE
【個人情報漏洩・流出の民事的責任(賠償金額)の実例と基準や相場】
【内縁の夫婦の一方が亡くなると共有の住居は使用貸借関係となることがある】

関連記事

無料相談予約 受付中

0120-96-1040

受付時間 平日9:00 - 20:00