【相続財産の承継形態(遺産共有・分割承継)の基本と実務】

1 相続財産の承継形態(遺産共有・分割承継)の基本と実務

相続が発生すると、被相続人が所有していた財産は相続人に承継されます。この承継方法には主に遺産共有と分割承継という二つの形態があり、財産の種類によってどちらの形態をとるかが決まります。
本記事では、この2つの承継形態の基本的な仕組みと、遺産共有となった場合の実務的な問題点について説明します。

2 遺産共有と分割承継の基本概念

(1)相続財産は原則的に遺産共有となる

遺言がない場合、相続により相続財産は原則として相続人の共有となります(民法898条)。この状態を遺産共有と呼びます。遺産共有は暫定的な状態であり、遺産分割によって具体的な承継方法が決まるまでの間、相続人全員が共同で財産を所有している状態です。
遺産分割が成立した場合、その効果は相続開始時に遡って発生します(民法909条)。つまり、遺産分割によって決定された承継方法は、相続開始時から適用されていたものとして扱われることになります。

(2)遺産共有の法的性質

遺産共有の性質は基本的に一般の共有(物権共有)と同じように扱われます(最判昭和30年5月31日)。ただし、決定的に異なるのは、遺産共有を解消する方法が限定されている点です。
一般の共有関係は共有物分割請求によって解消できますが、遺産共有の場合は遺産分割の手続きによってのみ解消することができます。この違いは、相続という特殊な事情によるものであり、相続人間の公平性を確保するために設けられたルールです。
詳しくはこちら|遺産共有の法的性質(遺産共有と物権共有の比較)
遺産共有状態にある財産の管理や処分には、一般の共有と同様の制約が適用されます。保存行為は各相続人が単独で行えますが、管理行為には相続人の持分の過半数の同意が、処分行為には相続人全員の同意が必要となります(民法251条、252条)。
詳しくはこちら|共有物の変更・管理・保存行為の意思決定に必要な同意の範囲と大まかな分類

(3)分割承継(当然分割)となる財産

相続財産の中には、例外的に遺産共有とならず、相続開始と同時に法定相続分に応じて当然に分割される財産があります。これを分割承継といいます。
分割承継となる典型的な財産は可分債権(金銭債権)です。例えば、被相続人が第三者に対して有していた貸金債権は、相続人が3人いる場合、各相続人が3分の1ずつ債権を承継することになります。各相続人は、他の相続人と協議することなく、自己の相続分に応じた債権を行使できます。
相続債務も原則として分割承継されます。被相続人の債務は、相続人が法定相続分に応じて分割して承継することになり、債権者は各相続人に対して、その相続分に応じた債務の履行を請求できます。
なお、預貯金債権については、平成28年の最高裁判決により扱いが変更され、分割承継ではなく遺産共有となることが明確にされました。この判例変更により、預貯金は遺産分割の対象となり、相続人全員の協議によって承継方法を決める必要があります。
詳しくはこちら|相続財産の預貯金は平成28年判例で遺産共有=遺産分割必要となった

3 遺産分割の対象財産(概要)

遺産共有となった財産は、遺産分割の対象ということになります。不動産、株式、国債、社債、投資信託、現金などは遺産共有となり、必ず遺産分割の対象となります。一方、預貯金以外の可分債権は原則として分割承継されますが、相続人全員の合意があれば遺産分割の対象に含めることも可能です。
詳しくはこちら|遺産分割手続(調停・審判)の対象となる財産(理論と実務)

4 収益不動産の遺産共有における実務的問題

(1)収入・支出の処理方法

収益物件は、”遺産分割が完了するまでの間(遺産共有の状態)、その管理は非常に煩雑になります。例えば、賃貸アパートを子供A、B、Cの3人が相続した場合を考えてみましょう。
テナントからの家賃収入については、各相続人がそれぞれ3分の1ずつの請求権を有することになります。実務的には、代表者であるAがテナントから家賃を一括して受領し、その後BとCに3分の1ずつ分配するという方法がとられることが多いです。
維持費や管理費などの経費についても同様に処理されます。例えば、Aが修繕費を立て替えて支払った場合、BとCに対してそれぞれ3分の1ずつの負担を求めることになります。このような収入と支出の精算作業を定期的に行う必要があり、相続人間の関係が良好でない場合には、この処理をめぐってトラブルが生じることもあります。

(2)管理・処分の制約

収益不動産の遺産共有状態では、日常的な管理から重要な決定まで、様々な場面で相続人間の合意形成が必要となります。
例えば、家賃の値上げを検討する場合、これは共有物の管理行為に該当するため、相続人の持分の過半数の同意が必要です(民法252条)。3人の相続人がいる場合、少なくとも2人の同意がなければ家賃の変更はできません。
外壁の大規模修繕のような工事を行う場合も同様です。相続人の一人が必要性を感じて工事を発注しても、他の相続人が不要と判断すれば、費用の負担を拒否される可能性があります。このような意見の相違は、物件の適切な維持管理を困難にする原因となります。
さらに、不動産の売却を検討する場合には、相続人全員の同意が必要となります(民法251条)。一人でも反対する相続人がいれば、売却は実現できません。また、個々の相続人が自己の持分だけを売却することは法的には可能ですが、共有持分のみの購入を希望する買主を見つけることは現実的に困難です。
このように、収益不動産の遺産共有状態は、適切な管理や処分を行う上で多くの制約を伴います。相続人間で管理方針について意見が対立した場合、物件の価値を維持することが困難になるばかりか、相続人間の関係悪化にもつながりかねません。そのため、可能な限り早期に遺産分割を行い、管理責任を明確にすることが重要となります。

本記事では、相続財産の承継形態の基本と実務について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺産分割など、相続に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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