【遺留分放棄の取消|家裁の手続・判断基準=前提事情の変化・裁判例】

1 遺留分放棄の取消|家庭裁判所に申し立てることができる
2 遺留分放棄の撤回×解釈上の手続|家裁の職権発動or『取消』
3 遺留分放棄の取消|認められる基準=『前提事情の変化』
4 遺留分放棄の取消|認めた裁判例
5 遺留分放棄の取消|認めなかった裁判例

1 遺留分放棄の取消|家庭裁判所に申し立てることができる

遺留分放棄の手続を終えた後,撤回したいと思うに至ることもあります。
撤回・解消に関する基本的事項をまとめます。

<遺留分放棄の解消×民法の規定>

あ 関係者の合意では『撤回』できない

『遺留分放棄』は裁判所の許可を得ている
→当事者・関係者の合意だけでは撤回できない

い 『取消』の手続はない

民法上『取消』の手続は規定されていない
※民法1043条

2 遺留分放棄の撤回×解釈上の手続|家裁の職権発動or『取消』

遺留分放棄の撤回については解釈上認められています。
2通りあります。

<遺留分放棄の撤回×解釈上の手続>

あ 裁判所の職権発動

※非訟事件手続法19条1項(旧家事審判法7条)

い 事情変更を理由とする『取消』

※東京家裁昭和44年10月23日

いずれも,個別的な規定がないので,一般的な条項を適用した方法になっています。
この2つは理論的な,法的根拠の違いです。
実際には,家庭裁判所で受け付けられることは同じです。
法的根拠がどちらかというのは実質的な影響はありません。

3 遺留分放棄の取消|認められる基準=『前提事情の変化』

以前,遺留分放棄を行った,ということは,実質的な経緯,理由があるはずです。
『合理性』は遺留分放棄の要件の1つとして裁判所が審査しているはずなのです(別記事;リンクは末尾に表示)。
そこで,次のような事情があれば遺留分放棄の取消が認められています。

<遺留分放棄の取消|認められる基準>

遺留分放棄をする前提となっている重要な事情に変化(解消)が生じた
→遺留分放棄の撤回・解消を認める

4 遺留分放棄の取消|認めた裁判例

実際の裁判例のうち『遺留分放棄の取消を認めた』ものの概要をまとめます。

<遺留分放棄の取消|認めた裁判例>

あ 養子の『離縁』とセット

養子縁組が前提であった
→その後離縁した
※東京家裁昭和44年10月23日

い 家業を継ぐことが前提

子の1人が家業である農業を継ぐことが前提であった
→その後,継がないで嫁いだ
※松江家裁昭和47年7月24日

う 円満な関係が前提

兄弟円満だったので
→『好意で譲歩する』趣旨で遺留分放棄を行った
→その後,兄弟間で対立が勃発した
※東京家裁昭和54年3月28日

5 遺留分放棄の取消|認めなかった裁判例

『遺留分放棄の取消を認めなかった』裁判例をまとめます。

<遺留分放棄の取消|認めなかった裁判例>

あ 強制執行回避目的

推定相続人の1人が多額の保証債務を負っていた
→強制執行を避ける目的で遺留分放棄を行ったあ
→その後保証債務が消滅(完済)した
※東京高裁昭和58年9月5日

い 事情の変化なし

遺留分放棄を行った後,大きな『事情の変化』はなかった
※東京家裁平成2年2月13日

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