【遺言で養子縁組をすることはできるか(現在はできない・代替策など)】
1 遺言で養子縁組をすることはできるか(現在はできない・代替策など)
日々、親切にしてくれているけれど血縁関係がない人がいる場合、遺言に養子縁組を書いておく、という発想があります。以前はこれができた時代もありますが、現在ではできません。ただ、恩に報いる別の方法はあります。本記事ではこのような場合の対応について説明します。
2 遺言の法的効力→相続トラブル防止に有用
遺言(遺言書)を作成しておけば、相続分の指定や遺産分割方法の指定など、遺言者の意思に基づいて財産を分配することが可能です。
詳しくはこちら|遺言の基礎知識|相続専門弁護士ガイド
遺言には複数の種類があります。
詳しくはこちら|遺言の方式と種類(自筆証書・公正証書・秘密証書遺言)
また、作成する時には、後から無効にならないように注意が必要です。
詳しくはこちら|遺言作成時の注意(タイミング・変更理由の記載・過去の遺言破棄)
3 養子縁組
(1)養子縁組の手続→役所への届出(縁組届)
次に、養子縁組という手続ですが、これは法律上親子と同じ扱いにする手続です。養親と養子の合意に基づき、市区町村役場への届け出によって法的に成立します。
(2)養子縁組の効果→実子と同じ相続権
養子縁組をすると、養親と養子の間に法律上の親子関係が生まれます。 その結果、相続権を与えることになります。つまり、養親が亡くなった時に、養子は相続人になり、実子と同様に相続に参加できます。養子は実子と同じ法定相続分を持ちます。
詳しくはこちら|養子縁組の基本(形式的要件・効果・典型的活用例)
4 遺言でできること→養子縁組は含まれない
遺言に記載して、法的効力が発生するものは限定されています。
典型的なものは遺産の分配を遺言によって明確に指定することです。これにより、遺産がどのように分配されるかを事前に決定し、相続人間の争いを防ぐことができます。
遺贈は、相続人以外の人に遺産を譲る方法です。遺言書に記載することで、特定の人や団体に財産を遺贈することができます。
遺言執行者を指定することで、遺言の内容が確実に実行されます。遺言執行者は、遺産の分配や相続手続を行う責任を持ちます。
また、子の認知を遺言に記載しておくこともできます。この場合、亡くなった時に法律上の親子関係が生じます。
では、養子縁組を遺言に記載しておけば同じように親子関係を発生させることができそうですが、現行法ではこれは認められていません(過去にはこれができた時代もあります)。
詳しくはこちら|遺言の記載事項の種類・分類(基本)
5 生前に養子縁組をする方法→原則として撤回不可
亡くなった時に養子縁組を成立させるのはできないので、養子縁組をするとしたら生前に行うしかありません。この場合、戸籍に載りますので、他の相続人とのトラブルになることがあります。また、養子縁組をした後に関係性が悪化しても、養親と養子の両方が合意しないと(離縁届を一緒に提出しないと)、原則として養子縁組を解消できません。
例外的に、裁判所の判断で離縁(養子縁組の解消)が認められることもあります。
詳しくはこちら|裁判による離縁が認められる事情(縁組を継続し難い重大な事由)
6 養子縁組の代替案
(1)生前贈与→撤回不可
恩に報いる方法として単純なものは、贈与することです。ただ、この場合は、現時点で財産を渡すことになります。贈与した後で関係が悪化しても、戻してもらうことは原則として認められません。例外的に忘恩行為として贈与の撤回が認められることはあります。
詳しくはこちら|遺言のメリットとウィークポイント(無効リスク・遺留分との関係)
(2)遺贈→遺留分侵害に注意
遺贈は、遺言を通じて特定の人に財産を遺す方法です。遺言書により、法定相続人以外の人にも財産を譲ることが可能です。ただし、相続人の扱いになるわけではありません。他の相続人の遺留分を侵害することになり、結果的に、遺贈どおりの財産を渡せないことになることもあります。
詳しくはこちら|遺留分権利者・遺留分割合と遺留分額の計算(改正前後)
(3)死因贈与→遺留分侵害に注意
死因贈与は、契約に基づき死亡時に財産を譲渡する方法です。生前に契約を結ぶことで、贈与者の意思を確実に反映させることができます。 契約した後で、撤回することも可能です。
詳しくはこちら|死因贈与の特徴(遺言との違い・仮登記できる・自由に撤回できる)
ただし、他の相続人の遺留分を侵害した場合には、結果的に契約どおりに財産を渡せないのは遺贈と同じです。
7 遺言・養子縁組と相続税の関係
遺言により、相続人以外の者に遺贈した場合、相続税ではなく贈与税の対象となり、通常は、税金が大きくなりがちです。
養子縁組を行った場合、子が増えることになるので、基礎控除額が増えます。相続税法では、法定相続人の数に応じて基礎控除額が決まるため、養子をいることで控除額が増加し、税負担が軽減されることになります。ただし、一定の制限はあります。
このように、相続の際には、財産が誰に渡るのかということとは別に、税務のことまで配慮しないと、後から想定外の結果となることもあるのです。
本記事では、遺言で養子縁組をすることはできないことや、その代替策について説明しました。
実際には、個別的事情により法的判断や主張として活かす方法、最適な対応方法は違ってきます。
実際に遺言作成や養子縁組に関する問題に直面されている方は、みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。
2021年10月発売 / 収録時間:各巻60分
相続や離婚でもめる原因となる隠し財産の調査手法を紹介。調査する財産と入手経路を一覧表にまとめ、網羅解説。「ここに財産があるはず」という閃き、調査嘱託採用までのハードルの乗り越え方は、経験豊富な講師だから話せるノウハウです。