【死因贈与の特徴(遺言との違い・仮登記できる・自由に撤回できる)】

1 将来の相続や遺贈のための『登記・仮登記』はできない
2 『死因贈与』であれば契約なので『仮登記』ができる
3 死因贈与は自由に撤回できる
4 死因贈与撤回の『仮登記抹消』→『元受贈者』の協力が必要
5 死因贈与が負担付の場合は例外的に撤回できないこともある
6 死因贈与の『負担』は不明確なので契約書に明記するとベター

1 将来の相続や遺贈のための『登記・仮登記』はできない

(1)相続開始までは承継の内容が確定していない

相続・遺贈は,あくまでも相続開始(=死亡)時に効力を発生します(民法882条)。
遺言を作成した場合でも,遺言は撤回が自由です。
別項目;遺言は容易に撤回できる
また他の相続人が先に亡くなることや,廃除・相続欠格などで除外されることもあります。
いずれにしても相続発生までは誰が承継するのかが確定していないのです。

(2)不動産の仮登記は不確定でも可能だが,将来の相続は該当しない

不動産の『仮登記』ができる場合は次のように定められています。

<仮登記ができる場合>

ア 物権変動が生じたイ 『始期付・停止条件付』で物権が変動する状態にあるウ 物権変動の『請求権』が生じた状態 ※不動産登記法105条

将来の相続による不動産の移転はいずれにも該当しません。
仮登記を行うことはできません。

2 『死因贈与』であれば契約なので『仮登記』ができる

(1)死因贈与遺言と似ている

贈与契約を『贈与者が死亡した時に効力を生じる』としておくと,遺言と近い状態になります。
これを死因贈与と言います(民法554条)。
あくまでも契約です。
贈与者受贈者合意することが必要です。
民法上様式は指定されていませんが,一般的には契約書の調印をしておきます。

(2)死因贈与仮登記ができる

死因贈与契約であれば始期付の所有権移転です。
始期というのはスタート時期,という意味です。
要するに『死亡時に所有権が移転する』という内容です。
所有権移転の仮登記をすることが可能です。

なお,似ている方法として,信託契約を活用して生前に登記名義を移す,というものもあります。
詳しくはこちら|認知症;財産デッド・ロックリスク;信託の活用

3 死因贈与は自由に撤回できる(概要)

(1)一般的な契約は無条件に撤回できない

一般的に契約は,その一方が無条件に撤回,ということはできません。
当事者を拘束する,という当然の原則です。

(2)一般的な贈与口頭+未履行ならば自由に撤回できる

ただし,贈与には例外があります。
書面にしていない場合,かつ,履行していない,という場合限定で,自由な撤回ができます(民法550条)。
例えば契約書調印,または,仮登記だけでもしている,という場合は撤回できません。

(3)死因贈与は自由に撤回できる

『死因贈与』は通常の『贈与』とは別の扱いがあります。

<死因贈与の撤回(概要)>

あ 死因贈与の法的性質

死因贈与は『遺贈』のルールが適用される
※民法554条

い 死因贈与の撤回

『遺贈』は撤回可能である
→『死因贈与』も自由に撤回可能である
※民法1022,1023条
※最高裁昭和47年5月25日
詳しくはこちら|死因贈与を撤回(取消)することを認める判断基準(判例の流れ)

この前提となっている遺贈・遺言の撤回については別記事で説明しています。
別項目;遺言の撤回,変更の方法は遺言を作り直すなどいくつの方法がある
結局,新たに遺言を書くことにより既に締結された死因贈与の撤回ができます。

<死因贈与を撤回する遺言の文面の例>

Bへの死因贈与は撤回する。
その土地をAに遺贈する(相続させる)。

ただし,一定の場合は撤回が制限されるという例外的な扱いとなることもあります(後述)

4 死因贈与撤回の『仮登記抹消』→『元受贈者』の協力が必要

死因贈与は遺言によって撤回することが可能です(前述)。
その場合,遺言者が死亡した時点で,遺言が効力を生じる死因贈与が解消されるということになります。
そして,相続や遺贈によって,対象不動産が別の方に承継されます。
死因贈与の仮登記は無用なものとなります。
この仮登記を抹消するためには次のいずれかの手続が必要です。

<死因贈与の仮登記抹消の方法>

ア 『所有者』と『仮登記名義人(=元受贈者候補)』の共同申請イ 『仮登記名義人』が承諾書に調印+『所有者』が単独申請ウ 『仮登記抹消』の確定判決+『所有者』が単独申請

原則として仮登記名義人が拒否すると『ア』,『イ』による仮登記抹消ができません。
その場合は,訴訟を提起し,判決を獲得した上で,所有者が単独登記をする(『ウ』)しかありません。

なお,相続開始前には仮登記抹消を請求することはできません。
相続開始前は,『死因贈与の撤回が確定的ではない』のです。
遺言に記載された相続人受遺者相続開始で初めて権利者になるのです。

5 死因贈与が負担付の場合は例外的に撤回できないこともある

(1)死因贈与に付ける負担の例

死因贈与契約に負担を付ける場合があります。

<負担付死因贈与の負担の例>

ア 親の面倒をみるイ 親と同居するウ 家業の承継をする 一定の業務に従事,役職の引受をする

(2)負担が履行されると撤回できなくなる

このような負担付の死因贈与契約を締結した場合には例外があり得ます。

<死因贈与撤回自由の例外(概要)>

あ 前提事情

死因贈与に『負担』が付いていた
受贈者が『負担』の内容を履行した

い 例外的な扱い

『負担付贈与』の規定が適用される
→『死因贈与』は撤回できなくなる
※民法553条
※最高裁昭和57年4月30日
詳しくはこちら|死因贈与を撤回(取消)することを認める判断基準(判例の流れ)

この内容は,民法上の『双務契約』のルールの1つです。
売買などの当事者双方が義務を負う,一般的な契約のことです。
当然,当事者一方の意向による自由な撤回,はできません。
現実に,贈与されたからこそ負担を履行したのに,一方的に撤回されるのは不合理です。

(3)実質的な『負担』の判断により『撤回』できなくなることもある|判例

個別的な事情から実質的な『負担』が評価・判断されることがあります。
その結果,『死因贈与の撤回』が認められなくなります。

<実質的な『負担』を理由に『死因贈与撤回』を認めなかった判例>

あ 不動産の所有権確認訴訟(別訴)の第1審

判決=Dの『所有権』を認めない

い 別訴の控訴審における和解

Eが譲歩し『Dの所有権』を認めた(※1)
その条件として『Dの生存中の当該不動産をEが使用することの承諾』を設定した

う 死因贈与の撤回の有効性(本判例)

『第1審判決で実質的にEが獲得した所有権をDに渡した』(上記※1)ことが『負担』と言える
→『死因贈与の撤回』は認めない
※最高裁昭和58年1月24日

6 死因贈与の『負担』は不明確なので契約書に明記するとベター

(1)負担の内容が不明確なことが多い

実際には,この負担部分が契約書に明記されていないことも多いです。
暗黙の了解当然の前提というような状況です。
専門的には『黙示の合意』と言います。
このように負担内容が曖昧なことが多いのです。

(2)履行も不明確なことが多い

これに対応して履行も曖昧さがあります。
つまり『完全な履行』はどのようなものか,ということが画一的に認定できないということです。
この点全部またはこれに類する程度の履行であれば,撤回できない,となります。

(3)負担履行の明記により紛争予防

ですから,死因贈与の契約書の中に負担の内容をできる範囲で明確化しておくと良いです。
負担内容が不明確→相続人間の見解の相違→紛争,を避けることにつながります。

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