1 遺留分減殺請求で『共有』となるとトラブルの元になる
2 遺留分減殺請求に対して『金銭賠償』→共有状態を避けられる;価額弁償の抗弁
3 『価額弁償の抗弁』は『通知』だけで成立するが内容証明がベター
4 『価額弁償の抗弁』は『通知を受けた者』の意向と関係なく成立する
5 『遺言者による』価額弁償の指定は無効
6 価額弁償は実際の金銭の支払(提供)が必要だが緩和されている

1 遺留分減殺請求で『共有』となるとトラブルの元になる

遺留分減殺請求がなされると,不動産などの共有持分が請求者に移転することになります。
別項目;遺留分;減殺請求;期間制限,方法,効果

遺留分減殺請求の結果,共有になってしまうと,大変面倒です。
共有物の占有者,管理方法,収益分配など,多くのことを決定する必要があります。
またこの状態が継続することになります。
不動産が主なものですが,共有の状態はトラブルの要因となるのです。
別項目;共有の状態は解消することが望ましい

円満な関係の者同士であれば良いですが,敵対的な関係だと,どうしても見解の相違が生じがちです。
そこで,遺留分減殺請求の時点で,このような面倒を避ける制度があります。

2 遺留分減殺請求に対して『金銭賠償』→共有状態を避けられる;価額弁償の抗弁

遺留分減殺請求に対する対応として金銭を支払うという方法があります。
これにより,不動産などの財産が共有となるという不合理な状態を避けられます。
これを価額弁償(の抗弁)と言います(民法1041条)。

3 『価額弁償の抗弁』は『通知』だけで成立するが内容証明がベター

条文上,価額弁償の抗弁の権利行使の方法,方式は規定されていません。
そこで,理論上は口頭でも可能です。
実務上は,記録,証拠とするために,内容証明郵便+配達記録を使って通知書を送付します。

4 『価額弁償の抗弁』は『通知を受けた者』の意向と関係なく成立する

(1)価額弁償の抗弁は『通知を受けた者の意向』は関係しない

価額弁償の抗弁を主張するのは『遺留分減殺請求を受けた者』です。
請求者=『価額弁償の抗弁の通知を受けた者』,が価額弁償の抗弁を拒否することはできません。
あくまでも意思表示のみで有効となります。

(2)遺留分減殺請求者から価額弁償の請求はできない

逆に,遺留分減殺請求者から,価額弁償,を請求することもできません。
例えば『遺留分を不動産ではなく金銭で払ってくれ』という請求はできないのです。
もちろん,希望として伝えることは実際にあります。

<遺留分減殺請求者による価額弁償に関する意向の法的効力>

あ 判例

遺留分権利者(減殺請求者)から価額弁償の主張はできない
※名古屋高裁平成6年1月27日
※東京高裁昭和60年9月26日

い 具体例

ア 請求者が『価額弁償は拒否する。不動産の共有持分を欲しい』と要請すること
イ 請求者が『不動産は要らないから金銭で渡した欲しい』と要請すること

5 『遺言者による』価額弁償の指定は無効

遺言上,『遺留分減殺請求があった場合は,金銭で弁償すること』と記載することも実際にあります。
しかし,遺言における価額(金銭)弁償(の指定)は法的効果はありません。

遺留分減殺請求に対する価額弁償を主張できる者は,あくまでも,遺留分請求を受けた者だけです。

もちろん,実際にこの遺言を目にした相続人(近親者)が,故人の意向を尊重する,という気持ち的・精神的な効果はあります。
一般的に法的には無効ということを分かりつつ,遺言に記載することはよくあります。
現実的に好ましいことも多いです。
別項目;遺言の記載事項は法律上決まっている

6 価額弁償は実際の金銭の支払(提供)が必要だが緩和されている

価額弁償の抗弁は,条文上『価額を弁償して』と規定されています。
そこで『現実に金銭を支払わないと(価額弁償の抗弁が)無効』という方向性です。
この点,判例によって解釈が統一されています(最高裁平成9年2月25日;判例1)。
結論としては,価額弁償金の提供がない場合も『価額弁償の抗弁』は有効というものです。
より正確に言えば判決において価額弁償の金額を示すということが認められています。
ということは,判決言渡時点では,まだ実際の弁済がなされていないことを前提としているのです。

条文

[民法]
(遺留分権利者に対する価額による弁償)
第千四十一条  受贈者及び受遺者は,減殺を受けるべき限度において,贈与又は遺贈の目的の価額を遺留分権利者に弁償して返還の義務を免れることができる。
2  前項の規定は,前条第一項ただし書の場合について準用する。

判例・参考情報

(判例1)
[最高裁判所第3小法廷平成6年(オ)第1746号遺言無効確認等請求事件平成9年2月25日]
受遺者が,当該訴訟手続において,事実審口頭弁論終結前に,裁判所が定めた価額により民法一〇四一条の規定による価額の弁償をなすべき旨の意思表示をした場合には,裁判所は,右訴訟の事実審口頭弁論終結時を算定の基準時として弁償すべき額を定めた上,受遺者が右の額を支払わなかったことを条件として,遺留分権利者の目的物返還請求を認容すべきものと解するのが相当である。