【仕事による自死(過労自殺)の労災・損害賠償請求の全体像】

1 仕事による自死(過労自殺)の労災・損害賠償請求の全体像
2 労災と損害賠償請求の関係
3 労災の請求手続全体の流れ
4 労災の手続の流れの説明
5 会社への損害賠償請求の手続の流れ
6 仕事による自殺であると認められる要件
7 自殺に追い込む精神障害の内容(種類)
8 労働時間とストレス強度の関係(目安)

1 仕事による自死(過労自殺)の労災・損害賠償請求の全体像

過労やパワハラなど,仕事上のストレスから自殺に至ったケースでは,ご遺族の方は言葉では言い表せないほど悲しみ,また,どうして自殺しなくてはならなくなったのかが分からず困惑します。
そのような状況で,弁護士が職場ではどのような状況であったかを調査し,また,パソコンや携帯電話を調査することで真相が分かってくることがあります。
実際には,仕事に原因があったことは分かり,労災の支給を受けることや,会社に損害賠償金・慰謝料を支払ってもらうことにつながることがよくあります。
みずほ中央法律事務所は,真実を解明するとともに,必要となる法的な手続の遂行についてお手伝いをすることで,ご遺族の方のお気持の負担をできるだけ軽減し,回復していただきたいと思っています。
本記事では,以下,労災や会社への損害賠償請求の手続や過労による自殺であると認められる判断基準の大枠を説明します。

2 労災と損害賠償請求の関係

仕事のストレスが原因となって自殺に追い込まれた場合には,ご遺族は,経済面での2つの法的手続を利用することができます。
労働による災害について政府が補償する労災と,勤務先(会社や地方自治体)の環境整備の不備による賠償責任である損賠償請求です。
この2つは別個独立の制度ですので,ご遺族は両方を請求することも,どちらかだけ(順番に)請求することもできます。
実際には,先に労災の手続を行い,この手続で得られた資料(証拠)を用いて損害賠償請求を行う,というような流れにすると効率的で有利な結果につながります。

3 労災の請求手続全体の流れ

労災の請求手続の全体の流れは,大きく,行政が行う手続裁判所が行う手続に分けられます。行政が行う手続で,仕事による自殺であると認められない場合に裁判所が行う手続も利用するのが通常の流れです。

<労災の基本的な請求手続の流れ(行政手続)>

あ 労災請求

労災請求

労働基準監督署長
↓1年程度(目安)
決定

い 審査請求

(認めない決定であった場合)
↓3か月以内
審査請求

労働局(労働者災害補償保険審査官)
↓半年〜1年(目安)
決定

う 再審査請求

(認めない決定であった場合)
↓2か月以内
再審査請求

労働保険審査会
↓半年〜1年(目安)
決定

<労災の行政訴訟の流れ(裁判手続)>

あ 訴訟提起

(審査請求をした3か月後(再審査請求の審査中含む))
行政訴訟の提起
(行政処分取消請求など)

地方裁判所
↓2〜3年(目安)
判決・和解

い 控訴・上告

地方裁判所の判決に不服がある場合は控訴(高等裁判所),上告(最高裁判所)ができる

4 労災の手続の流れの説明

前記のように,労災は最初に労働基準監督署(長)に対して請求します。審査では,自殺に追い込まれた経緯を証拠から判断することになりますが,事情が複雑であることが多いです。そこで,審査期間は,目安である8か月を超えてしまう傾向があります。
労働基準監督署が仕事による自殺であると認めない場合,ご遺族は労働局に対して審査請求(不服申立)をすることができます。一般的な審査請求の審査期間は3か月とされていますが,仕事のストレスによる自殺のケースでは事情が複雑であることから3か月で審査が完了することはまずありません。
審査請求から3か月後には,(労災の手続と並行して)裁判所に行政訴訟を提起することができるようになります。
審査請求の判断結果が,仕事による自殺であると認めないものであった場合,労働保険審査会に対して再審査請求(不服申立)をすることができます。
再審査請求の判断結果が,仕事による自殺であると認めないものであった場合,裁判所に行政訴訟を提起することができます。裁判所は,仕事による自殺といえるかどうかを改めて審理,判断します。
裁判所は,仕事による自殺であると判断すれば,行政による判断(決定)を取消す判決を言い渡します。

5 会社への損害賠償請求の手続の流れ

(1)会社に対する損害賠償請求全体の流れ

以上で説明した労災の請求では,支給される金額に一定の限度額があります。そこで,通常,労災とは別に,会社(公務員の場合は地方自治体)に対して損害賠償請求をすることになります。
後述しますが,仕事によって自殺に追い込まれたケースでは,労災の請求も会社に対する損害賠償請求も認められます。
実際には弁護士による交渉から始めます。交渉の段階で和解に至ればよいですが,会社側が責任や金額を認めない場合,訴訟を提起することになります。

<会社に対する損害賠償請求の全体の流れ>

あ 準備段階

労災の請求を先に行うことが多い
労働基準監督署が調査をして情報を集めることになる
それ以外にも,ご遺族(弁護士)が調査をして証拠を集める

い 交渉段階

弁護士が会社に対して正式に損害賠償請求をする
(内容証明郵便による通知書)
交渉によって和解に至った場合,会社が賠償金の支払い,謝罪,再発予防策の施行などを行う

う 訴訟段階

交渉が決裂した場合,訴訟提起を行う

(2)会社に対する損害賠償請求の訴訟手続の流れ

会社との交渉が決裂した場合,裁判所に提訴します。

<会社に対する損害賠償請求の訴訟手続の流れ>

(交渉決裂)

訴訟提起

争点整理手続

(和解勧告)→和解成立

証人尋問

(和解勧告)→和解成立

判決

大まかな訴訟手続の流れはこのようになります。実際には,争点整理手続の中で,原告(ご遺族),被告(会社)が多くの主張(準備書面)や証拠を提出するところで多くの時間を要します。
仕事による自殺の損害賠償請求訴訟は,1〜2か月に1回の裁判(期日)が開かれ,判決まで,平均的に2〜3年程度を要します。
実際には途中で裁判官が和解を勧告し,原告・被告が合意して和解が成立することもあります。和解が成立して終了する場合は判決の場合よりも早く終わることになります。
毎回の裁判(期日)には,弁護士が出席するので,原則としてご遺族の方は参加する必要はありません(もちろん参加することもできます)。

6 仕事による自殺であると認められる要件(概要)

以上の労災会社への損害賠償請求も,仕事が自殺に追い込んだといえる場合には請求が認められます。専門的には業務起因性といいます。その判断の枠組みは,次のとおりです。
精神障害の発病と,発病前のストレスがポイントです。逆に仕事以外のストレスで発病したわけではないといえる必要もあります。

<仕事による自殺であると認められる要件(概要)>

あ 自殺につながる精神障害の発病

統合失調症,うつ病,適応障害などの精神障害を発病している

い 発病前6か月間に強いストレスを受けた

『あ』の精神障害の発病前の約6か月の間に仕事で強いストレスを受けた

う 仕事以外のストレスで発病したわけではない

仕事以外のストレスや個人的な事情によって『あ』の精神障害を発病したわけではない
詳しくはこちら|仕事による自死(過労自殺)の労災・損害賠償請求が認められる要件

7 自殺に追い込む精神障害の内容(種類)

精神障害の発病は,仕事が自殺に追い込んだ(過労による自殺)と判断される要件の1つです(前述)。この精神障害は,一定のものが指定されています。主なものは,統合失調症,うつ病,パニック障害などの恐怖症性不安障害などです。

8 労働時間とストレス強度の関係(目安)

仕事上のストレスが精神障害を生じさせた,といえることが,仕事が自殺に追い込んだ(過労による自殺)と判断される要件の1つです(前述)。
ストレスを与える要因は,実際にはいろいろなものがあります。パワハラやセクハラが典型ですが,判断する際には,労働時間が分かりやすい判断材料になります。

<労働時間とストレス強度の関係(目安)>

月間の超過160時間×1か月 → 仕事(過労)による自殺となる
月間の超過120時間×2か月 → 仕事による自殺となる
月間の超過100時間×6か月 → 仕事による自殺となる

本記事では,仕事が自殺に追い込んだケースにおける労災の請求や会社への損害賠償請求について全体的に説明しました。
実際には手続や理論(判断)はもっと複雑です。個別的な事情によって適切や対応方法は違ってきます。
実際に自殺(自死)の問題に直面されている方は,みずほ中央法律事務所の弁護士による法律相談をご利用くださることをお勧めします。

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