1 受託者の不法行為の責任と求償
2 不法行為による信託財産責任負担債務
3 『信託事務を処理するについてした』の意味
4 信託における不法行為責任の求償
5 不法行為責任と責任限定信託との関係(概要)

1 受託者の不法行為の責任と求償

信託の受託者が不法行為を行った場合,被害者は,損害賠償を請求できます。
不法行為が生じた状況が信託事務の処理に伴う場合は,信託財産によって賠償を負担することになります。
本記事では,受託者の不法行為による責任の負担と,その後の,受託者と信託財産の間の求償の問題について説明します。

2 不法行為による信託財産責任負担債務

信託法の条文上,受託者の不法行為による責任(賠償請求権)は,信託財産で負担することになっています。
これは,民法の使用者責任(後記)と同じような趣旨の規定です。

<不法行為による信託財産責任負担債務>

あ 規定内容

受託者が信託事務を処理するについてした不法行為によって生じた権利(※1)
信託財産責任負担債務となる
※信託法21条1項8号

い 受託者の固有財産で負担する発想

不法行為による債務は,すべて受託者の固有財産によって負担すべき債務である(信託財産責任負担債務ではない)
という発想もある(が,法的には採用されていない)

う 信託財産で負担する趣旨

債務不履行責任に類似する不法行為責任もある
例=取引的不法行為による損害賠償債務
信託事務を処理するについてした行為による損害は,信託事務処理から生じる利益を取得する受益者が負担するのが公平である
→不法行為責任も信託財産責任負担債務とする(あ)
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p116,117

3 『信託事務を処理するについてした』の意味

受託者による不法行為の責任を信託財産が負担する前提は,『信託事務を処理するについてした』ものであることです(前記)。
この判定(解釈)は,民法の使用者責任に準じます。
なお,使用者責任では,指揮監督職務関連性の両方で判断します。
しかし,信託の場合受益者による監督というものはありません。
そこで,職務関連性だけで判断することになります。

<『信託事務を処理するについてした』の意味>

あ 使用者責任との同一性

『信託事務を処理するについてした』(前記※1)の解釈について
使用者責任(民法715条)の解釈が参考にされるべきである

い 使用者責任との違い

ただし,受益者に『監督義務』はない
→もっぱら『職務関連性』を基準にして判断されるべきである
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p117

4 信託における不法行為責任の求償

信託の受託者が不法行為を行った場合の責任は信託財産が負担することになります(前記)。
ただし,これは被害者が請求する場面についていえることです。
逆に,信託財産と受益者の間では,どのように負担を分担するのか,という問題があります。実質的に責任(の割合)を判断することになります。

<信託における不法行為責任の求償>

あ 実態としての解釈

不法行為による損害賠償債務が信託財産責任負担債務となった場合
→最終的負担が信託財産に帰するとは限らない
使用者責任における求償と逆求償と同様に考えるべきである

い 信託財産から受託者への求償の可能性

信託財産から支出された後に
受託者(固有財産)に求償できることがある

う 受託者から信託財産への求償の可能性

受託者の固有財産から支出された後に
信託財産から償還を受けられることもある
※道垣内弘人著『信託法(現代民法別巻)』有斐閣2017年p118

5 不法行為責任と責任限定信託との関係(概要)

以上の説明は,一般的な信託を前提としています。
ところで,信託の設定の中には,受託者の責任の負担を軽減(回避)する方法(責任限定信託)もあります。
責任限定信託であっても例外的に,不法行為による損害賠償だけは責任が限定されないことになっています。
これについての問題は別の記事で説明しています。
詳しくはこちら|受託者の固有財産による責任の負担とその回避(限定責任信託)