1 従業員の行為により第三者に損害が生じると,雇用主も使用者責任を負う
2 従業員の行為により雇用主に損害が生じた場合,雇用主が従業員に賠償請求できる
3 従業員への求償権は制限される傾向がある
4 実務上求償権行使の制限(認容割合)は,ゼロ〜50%程度が多い
5 『身元保証人』の意味|一般的用語と法的用語
6 身元保証は『最大5年』『決めないと3年』『自動更新NG』|更新はOK
7 個別的事情による『身元保証人の責任』の制限
8 身元保証の制限に関する対応策

1 従業員の行為により第三者に損害が生じると,雇用主も使用者責任を負う

(1)従業員は不法行為責任を負う

従業員(被用者,社員)の故意,過失により第三者に損害が生じた場合,従業員自身が損害賠償責任を負います(民法709条)。
この点,公務員だけは公務中の賠償責任が免除されています(最高裁昭和30年4月19日;判例1)。
民間企業では適用がありません。

(2)雇用主も使用者責任を負う

雇用主(使用者,会社)も,従業員の業務中の行為による損害について賠償責任を負います。
これを『使用者責任』といいます。

使用者責任の対象>

『事業の執行について第三者に加えた損害』
※民法715条1項

使用者責任は,生じた損害すべてが対象となります。
『従業員のミスが大きい(重過失)だから雇用主の責任は一部だけ』ということにはなりません。

2 従業員の行為により雇用主に損害が生じた場合,雇用主が従業員に賠償請求できる

従業員が雇用主に対して損害賠償責任を負うことがあります。

<従業員が雇用主に対して賠償責任を負う例>

・従業員の故意,過失により,雇用主も連帯して責任を負った(使用者責任;民法715条)。
 →雇用主が被害者に弁済した。
・従業員の故意,過失により,雇用主が”得られる利益,収入が得られなくなった。
・従業員の故意,過失により,雇用主の財産が無駄に現象した。

以上のような状況になった場合,雇用主から従業員への賠償請求が認められます。
法律的な構成としては,求償権,不法行為または債務不履行による損害賠償請求になります。
なお,裁判例などとして判断されている類型は求償権の制限が多いです。
以下,求償権の制限を中心に説明します。
ただし,求償権以外の損害賠償請求についても同様の扱いとなります。

3 従業員への求償権は制限される傾向がある

通常は,雇用主から従業員への賠償請求(求償権の行使)は制限される傾向があります。
具体的には,賠償請求できる金額を,一定割合にとどめる,というようなことです。

制限される理由と制限の程度の判断基準について次にまとめます。

<求償権行使の制限の理由,根拠>

・損害の公平な分担
・雇用主の監督義務が不十分であった
・信義則(民法1条2項)

この理由,趣旨については,民法(715条)には記載がありません。
判例上認められているルールです。

<求償権行使の『制限』>

あ 基本的な『制限』の方向性

『使用者の過失・落ち度』が大きい程,求償権の行使が制限される(小さくなる)

い 判断要素

事業の性格・規模
施設の状況
従業員の業務の内容・労働条件・勤務態度
加害行為の態様
加害行為の予防・損失の分散についての使用者の配慮
※最高裁昭和51年7月8日

これらの判断要素は,実質的には身元保証法5条に規定された事項と同様です(後記『7』)。

4 実務上求償権行使の制限(認容割合)は,ゼロ〜50%程度が多い

求償権行使の制限は上記『2』のとおり,多くの要素により判断されます。
また,実態としても素朴に,”どの程度従業員個人を非難できるのか』という程度は大きく違います。

制限割合の目安について,裁判例による判断例をまとめます。
事案の内容は個別的な要素が大きいので,ここでは省略します。

なお,いずれも従業員の『過失』によるものです。
『故意』によるものについては大きく異なります。

<雇用主から従業員への求償権行使の制限に関する裁判例>

認容割合 制限割合
最高裁昭和51年7月8日;判例2 25% 75%
東京地裁平成23年9月14日;判例3 ゼロ 100%
福岡地裁平成20年2月26日;判例4 約7.4%(※1) 約92.6%

※1 裁判例4の認容額と請求額
金額で示すと次のようになります。
認容額=5000万円
請求額=約6億7000万円

5 『身元保証人』の意味|一般的用語と法的用語

従業員が雇用主に対して賠償責任を負う場合,会社としては『身元保証人』に請求することもあり得ます。
以下『身元保証人』について説明します。
まず,『身元保証人』と言う場合,一般的な用語・法的用語の2とおりの意味があります。

<『身元保証人』の意味>

あ 一般的用語

人物の保証=『本人の素性・経歴・人となりについて問題ない』ことを宣言する人
※東京地裁昭和40年12月23日

い 法的用語

従業員の行為によって雇用主に生じた損害の賠償責任を負う者
※身元保証法1条

単に『身元を保証する』という文言(条項)で書面に調印した場合,上記のどちらの意味かが不明瞭です。
『人物の保証』という意味=法的な責任を生じない,という判断になる場合もあります(東京地裁昭和40年12月23日)。
通常は,『従業員の行為による損害賠償債務を負う』ということを明記した書面への調印がなされます。
この場合,『どちらの意味なのか解釈が不明瞭』ということにはなりません。

6 身元保証は『最大5年』『決めないと3年』『自動更新NG』|更新はOK

『身元保証』は,特に『制限』を決めないと,責任の範囲が非常に広くなります。
そこで,仮に書面に『制限』がなくても,法律の『制限』が適用されます。

<身元保証の制限>

あ 期間

ア 最大5年
イ 定めがない場合は3年
ウ 『自動更新』はできない
※東京地裁昭和45年2月3日

い 身元保証人への報告義務→保証人による解除

ア 報告義務
雇用主は,次の事情が生じた場合,身元保証人に報告する義務がある
・当該従業員は業務に不適任だと判断した
・転勤等で当該従業員の勤務内容が大きく変化した
イ 保証人による『身元保証契約の解除』
報告を受けた保証人は『将来に向かって解除』できる
※身元保証法3条

7 個別的事情による『身元保証人の責任』の制限

保証責任の範囲の判断(金額算定)については,個別的・具体的事情が考慮されます。
条文上は,判断要素だけが列挙されています。

<求償権行使の『制限の程度』の判断要素>

あ 判断要素

ア 事業の性格,規模
イ 施設の状況
ウ 従業員の担当していた業務内容
エ 労働条件
オ 勤務態度
カ 加害行為の態様
キ 加害行為の予防,損失の分担についての雇用主の配慮の程度
※身元保証法5条

い 反映させる方向性

『雇用主の過失・落ち度』が大きい程,身元保証人の責任が制限される(小さくなる)

8 身元保証の制限に関する対応策

雇用主の立場としては,『身元保証』が一定の制限を受けるので,これについての対応が考えられます。

<身元保証の制限に関する雇用主側の対応策>

あ 書面(契約書)調印

条項として,身元保証人が負う『賠償責任の範囲』を明記しておく
期間として『5年』と明記する
身元保証人の直筆・実印・印鑑証明書を求める(妥当な範囲で)

い 契約更新

5年ごとに『更新契約書の調印』を行う
『従業員が身元保証契約更新に強力しないこと』を就業規則上の不利益処分の事由として規定しておく
《規定の例》
ア 解雇事由の1つとする
イ 更新拒絶事由の1つとする(有期雇用の場合)
※東京地裁平成11年12月16日

う 身元保証人への報告の履行

『報告の対象事項』が生じた場合に,確実に報告する

え 資産状態の把握

可能な範囲で資産状態を把握しておく
例;身元保証人の経済力(資力・支払能力)・資産内容

お 損害保険への加入

雇用主として必要と判断した場合

従業員側の負担の重さは,当然,優秀な人材を確保する上でのデメリットともなります。
上記のような設定は,雇用主の重要な経営判断の一環です。
雇用主による従業員確保の位置付け・方針によって,特に統一的な『正解』があるわけではありません。

条文

[民法]
(基本原則)
第一条  私権は、公共の福祉に適合しなければならない。
2  権利の行使及び義務の履行は、信義に従い誠実に行わなければならない。
3  権利の濫用は、これを許さない。

(不法行為による損害賠償)
第七百九条  故意又は過失によって他人の権利又は法律上保護される利益を侵害した者は、これによって生じた損害を賠償する責任を負う。
(財産以外の損害の賠償)
第七百十条  他人の身体、自由若しくは名誉を侵害した場合又は他人の財産権を侵害した場合のいずれであるかを問わず、前条の規定により損害賠償の責任を負う者は、財産以外の損害に対しても、その賠償をしなければならない。

(使用者等の責任)
第七百十五条  ある事業のために他人を使用する者は、被用者がその事業の執行について第三者に加えた損害を賠償する責任を負う。ただし、使用者が被用者の選任及びその事業の監督について相当の注意をしたとき、又は相当の注意をしても損害が生ずべきであったときは、この限りでない。
2  使用者に代わって事業を監督する者も、前項の責任を負う。
3  前二項の規定は、使用者又は監督者から被用者に対する求償権の行使を妨げない。

[身元保証ニ関スル法律]
第五条 裁判所ハ身元保証人ノ損害賠償ノ責任及其ノ金額ヲ定ムルニ付被用者ノ監督ニ関スル使用者ノ過失ノ有無、身元保証人ガ身元保証ヲ為スニ至リタル事由及之ヲ為スニ当リ用ヰタル注意ノ程度、被用者ノ任務又ハ身上ノ変化其ノ他一切ノ事情ヲ斟酌ス

判例・参考情報

(判例1)
[昭和30年 4月19日 最高裁第三小法廷 昭28(オ)625号 農地委員会解散命令無効確認並びに慰藉料請求事件]
上告人等の損害賠償等を請求する訴について考えてみるに、右請求は、被上告人等の職務行為を理由とする国家賠償の請求と解すべきであるから、国または公共団体が賠償の責に任ずるのであつて、公務員が行政機関としての地位において賠償の責任を負うものではなく、また、公務員個人もその責任を負うものではない。

(判例2)
[昭和51年 7月 8日 最高裁第一小法廷 昭49(オ)1073号 損害賠償請求事件] 
使用者が、その事業の執行につきはなされた被用者の加害行為により、直接損害を被り又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被つた場合には、使用者は、その事業の性格、規模、施設の状況、被用者の業務の内容、労働条件、勤務態度、加害行為の態様、加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし、損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において、被用者に対し右損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解すべきである。

(判例3)
[平成23年 9月14日 東京地裁 平21(ワ)40329号 損害賠償請求事件]
使用者が,その事業の執行につきなされた被用者の加害行為により,直接損害を被り,又は使用者としての損害賠償責任を負担したことに基づき損害を被った場合には,使用者はその事業の性格,規模,施設の状況,被用者の業務の内容,労働条件,勤務態度,加害行為の態様,加害行為の予防若しくは損失の分散についての使用者の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則上相当と認められる限度において,被用者に対し上記損害の賠償又は求償の請求をすることができるものと解され,また,上記諸般の事情を考慮し,求償権の行使が被用者に対して公平の観念に反すると認められる場合には,求償権の行使は許されないものと解すべきである(最高裁昭和51年7月8日第一小法廷判決・民集30巻7号689頁,最高裁昭和45年10月13日第三小法廷判決・裁判集101号65頁参照)。そして,この理は,使用者が雇用契約の債務不履行に基づき,被用者に対し,損害の賠償を請求する場合も同様であると解するのが相当である。

(判例4)
[平成20年 2月26日 福岡地裁 平17(ワ)3404号 損害賠償請求事件]
本件割引行為は債務不履行に該当し,これによって原告には6億7166万4562円の減収が生じているところ,被告は,この債務不履行と相当因果関係のある損害のうち,被告の労働条件・労働環境,被告の勤務態度,被告の行為の態様,その行為の予防若しくは損害の分散についての原告の配慮の程度その他諸般の事情に照らし,損害の公平な分担という見地から信義則(民法1条2項)上相当と認められる部分については,原告に対し損害賠償義務を負うと解するのが相当である(最高裁昭和49年(オ)第1073号同51年7月8日第一小法廷判決・民集30巻7号689頁参照)。
 この点につき,原告は,被告に故意又は重大な過失が認められる本件においては損害賠償義務が制限されるべきではない旨主張するが,採用できない。